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小説家人形  作者: 五島タケル
二章
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新しい世界の入り口

 ゴールデンウイーク明けの初夏の日差しが眩しい公園内にて、ヌーB地区の隊員、男女およそ50名ほどの人員が一挙に集められていた。


 C3隊員の訓練期間が無事終わり、盛りさがるコンパイベントなどを経て、男子だけの決起集会を行い一週間ほどの休暇を経たのち、いよいよ実際の任務スケジュールが発表されていた。


 それによると今後追って日程は追加されていくが、まずは全隊員を一挙に集めての簡単な任務から始めるということで、最初に与えられたのが市内の大型公園内の環境整備だった。


 公園には周りを木々で囲まれた大きな池や噴水があり、中には植物園があって多種の花が植えられており、昆虫の展示がされたりもしている。

多種多様な自然環境を園内で体感できることから、お子様からお年寄りまで地域の方々に親しまれている憩いの場所だった。


 これまでは市の担当課が整備事業を担っていたのだろうが、当面どの程度機能するか分からないC3隊員に何をさせるべきか考えた結果、大量の人員配置に見合ったローラー的な仕事はないものかと考慮したうえで、この公園整備事業がはまったのだろう。



 まずは男女それぞれの隊員が班ごと持ち場に別れ、ゴミを拾ったりトイレ掃除をしたりする。その後男性は植樹作業をおこない、女性隊員は花を植える流れになっているらしい。

この公園の環境整備作業は約二週間続くとスケジュールには載っていた。


「こんちわー!」「ちわーっす!」

「どうもこんちはーす!」

地域の住民とすれ違った際には、隊員は誰もが明るく大きな声であいさつの声かけをする。


「あらーご苦労様。お暑いのに大変ですねー頑張ってください」

コチラから挨拶すると、総じて近所の住民からも返事が返ってくる。


 これは講習の際、不審がられないよう必ずやれと教官から念入りに教わったことだ。

この地域衛生保全部隊のことはすでに世間ではさかんに取りざたされており、その活動には注目されている。もしまともな活動がされてなかったり不祥事などがあれば、税金を使って馬鹿どもを遊ばせているのかなどと、一斉にメディアで批判されかねない。


 隊員には制服として皆にお揃いの恰好、この作業では紺色のTシャツにカーキ色のカーゴパンツ、隊員キャップが与えられている。胸には日の丸、シャツの袖にはCCCとも入っている。


 なので外に出た際には最低限の挨拶などのルールやマナーや、体面を保つような行動を心掛けること。立場としては失業者の寄せ集めかもしれないが、これは国から請け負った事業であり、国民の目線、国を背負っているという意識を持った行動するようにと、さかんに講習等で言われていた。


「うわー何あれ、きめキッメー!ぞろぞろクソみてえな連中が意味ねぇ作業してらー!」

「大ちゃん、あんまりそっちの人たちの所へ行かないの!危ないのよっ!」

「ふん邪魔だなあ。ばい菌どもが。せめて憩いの場ではリラックスして過ごさせてもらいたいもんだよ」


 公園にいる学生や一般の会社員、子供を抱えた親御さん方は、私たちの集団行動、その作業を見て明らかに不安や嫌悪感を態度に浮かべている人もいた。


「ちっクソっ俺たちが何か悪さしたかよっ?みんなのため思って作業してやってんじゃねーか。ったくやる気無くすぜ」

同じ班にいる文句しか言わない42歳のおっさん重村が、こっそりと私に向けてだけ不満を露わにする。


「まあまあ重田さん落ち着いて、それは心の中にとどめておいてください。何と言われようがコレは任務でお金はもらえるんだからいいでしょ。我慢ですよ」

「ちっ、わーってるよ。てか重村だよ!間違えんな、うぜえな」

私は彼らの気持ちを理解したうえでやんわりと押しとどめる。


 班長の役割として彼の気持ちも分からなくはないが、あえて強く言う必要もなかった。

それは彼ら皆それぞれがこの任務の重要な意味を教わり、意義や報酬の良さを感じ取っていたからだ。


 始めにある程度覚悟をしろとも言われていた。それも君らに与えられた役割だからと。

50名ものいい歳した男女が、わらわらと同じ格好で公園内で作業しているのだからイヤでも世間の好奇の視線にさらされることになる。


 制服には人の信用性を高める効果があるが、君らが着ているのは制服ではなく軍服だ。それを君らは集団で着ているんだから異様にも映るだろう。警戒心を与えると思えといわれた。


 この際はっきり言うが作業は正直どうでもいい。

なるべく市民の目を意識して、穏便に規律正しく振舞えと言われた。

同じような服装をした集団が、規律正しい模範的な行動を取る。そのことをまず意識して作業をおこなってくれと。


 君らの役割は、規律正しい行動をとる同質の集団に市民の目を慣れさせることなのだからと。


 今後ひょっとすると、いやおそらく本格的な軍隊が街に展開するようになる。そのことに市民が不安感を抱かないよう、耐性を作ってあげるのが君らの重要な任務であり役割なんだ。はっきりそう言われた。


 今回住民市民から受ける蔑みを、ある意味誇りに思え。

いわば軍人たちの痛みを肩代わりしてやってるも同然なのだから、ある意味軍と一体化していると言っていい。その役割を誇りに思ってほしいと。


 そのうち君らにも銃を与えてやる。簡易なオモチャみたいな銃だがな。

しかしそこらの人間を気絶させるぐらいの威力はあるから、君たちには街の悪党や治安を乱す者どもを懲らしめる任務程度はいずれ与えるだろう。

 そのC3部隊の隊長という人物は笑って答えていた。


 暗に憂さはその時晴らせといわんばかりで、その予告めいた発言を隊員たちは誰もが少し嬉しそうに、にやけ面して聞いていた。



 今後本格的に軍人が街をうろつくようになる。

それはもう誰もが知っている公然の事実だった。

 

 憲法が改正され、自衛隊が正式な日本の軍隊だと定義された今、国家防衛軍とその名称を変更し、自衛隊は常態的に海外の海域へと進出するようになっている。

いつでも交戦をおこなえる態勢だ。

それに伴い国内に残る自衛隊員の役割も一歩前に進み、いつも以上に警戒態勢を取り、出動に備えて緊張は高まっている。


 非常時であれば、街中に装備を伴った軍人がうろつくのは自然な姿なのだと。

海外を見てみろ、都会に軍人が立っていない国があるか?そんな国日本だけだぞ。

もし何かあってからでは遅い。テロや内乱、または外国からの部隊に襲われる危険性も高まっている。いつまでも平和ボケしてたら、また領土を奪われていくぞ。前の戦争の後のように。


 テレビやネットで、コメンテーターや評論家と名乗る人物が、さかんにそうして人々の心理を煽りたてる発言を繰り返し、人々もそんなものかと思い始めている。


 だから君たちも周りから何と言われようが誇りをもって、国家から命令を受けた軍の一分隊なのだという意識で任務をおこなってほしい。

君ら自身一人一人が、我が国家を護ってる隊員なんだという誇りある意識を、ああ持とうじゃないか。


 そんな言葉を毎日のように聞いていると、どんな訓練や講習も意味があるんだと感じられたし、これまで何の価値も見出せなかった自分たちの人生に、わずかばかりでも誇りや生き甲斐を感じ取れていた人もいたんだと思う。

同じ班のメンバーを見ていると、みなが真正面を向いて目を見開き、感動している様子だったから。



「何だ君らそうかアレだな。地域衛生保全部隊とかいう税金ドロボーだな?ったく国もこんなふらついたクズ連中集めて、金渡して遊ばせようってんだからなー、余裕あるよなー。せめてなんかあったら命ぐらい投げ出してくれよー。分かったなークズどもが。俺たちの貴重な税金使って仕事あたえてやってるんだからなーありがたいと思えよー」

また、50代ぐらいの男性市民から激励の言葉がかけられる。


「ハイっ有難うございます!みなさまの暮らしを護るため精一杯我々は頑張らせて頂いてまーす!アハハハハッ!」

同じ班の隊員何人かが決まり文句の返事を返し、大声で笑い合った。


 隊員の一人、アイドルオタクの古村くんは手をあきらかに銃の形にして、そのおっさんの後頭部狙って指を近付けていた。

「ちっなんだよこいつ等、なんで笑えるんだ薄気味悪い」


 私は特に何も言わずそれを見守っていた。

何と言われようが、愚かな市民を守るために耐えなければならない。

ここはもう以前とは違う別世界。

自分に出来ることは何かと考えなければ生きてはいけない。


 たまに小説のことを思い浮かべると、あまりに理想だけの現実逃避のようで、虚しく感じられた。


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