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小説家人形  作者: 五島タケル
二章
29/80

「えーっと皆さーん、映像を見ていただきましてお疲れ様です。ではこれから今の映像をもとにして衛生隊員の活動について、少し補足の説明等をしていきますのでー、お手元の資料を眺めながら少しお聞きいただけますでしょうかー?それから質問のある方はまた後程受け付けますのでー」


 映像が終わり部屋が明るくなると、ふたたび前に立った女性が説明を始める。

私はまたぼんやりとしながら、小説の何かいい案でも考えようとしていた。

だが状況が状況だけに現実的なこと以外なにも思い浮かばなかった。


「・・・・・というカタチでしてー。えーっとなにも今の映像にあった自衛隊員みたいに本格的な活動はしないはずですわよねー。ねえ富島さん?ですよね・・・・・ハイ。

えーっ皆さんが行う活動の前には基礎的なトレーニングはありますけどー、本格的な業務に入ると、まっいっても土木工事みたいなのが一番きついんじゃないでしょうか?アハハハ。

でもそれぐらい一般の仕事にもありますし、経験詰まれた皆さんならぜんぜん平気でしょう?」


 国から突如発表された、まだ誰もやったことのない隊員活動を説明するのはやはり難しいようで、女性もさかんに首をかしげながら、横に立つ男性とイチイチやり取りを交わしつつ説明をおこなう。


 会場に集まった人からいくつか出る質問にも、明瞭な回答は帰ってこず、集まった人たちをバカにしたようにも思える恭しい対応では、この活動全般がかなり怪しく思えてしまい、会場内にはどこか冷めた空気が漂っていた。


「とりあえず質問は今の感じでよろしいでしょうか?えーではもう決めましたよーって方から手元の資料をよく読んで順次登録事項を記入し、私たちの所まで持ってきていただけますでしょうか?

もちろんこの場で結論出ない方は一旦持ち帰っても構いません。ただコチラの活動は定員が埋まり次第、募集は打ち切ると思われますので、暮らしに困っている方などはそれを考慮に入れた上で考えてみてくださーい」


 登録用紙を見ながら私は考えるフリをしていた。

登録をしてもしなくてもいい。いや登録だけ済ましても一向にかまわない。強制ではないのだから、時間や予定の都合が合わないなどと言い訳をつけ辞めてしまえばいい。


 既に断って帰ろうとは決めていながら、このまますぐに部屋から出るのも軟弱に捉えられると考え、私はこの活動を辞退するためのパターンをいくつか考えながら時をやり過ごしていた。


 持ってきた履歴書や写真がちゃんと揃っているのを眺め、ボールペンをカチカチやりながら考えていると、とつぜん用紙に影が出来たことで私の背後に誰か立っているのが分かった。


 チラッと横目で窺うと、さっきまで前で説明をしていた女性だった。


「えーすごーい五島さんって、以前に治安警備活動?なんて特殊な仕事につかれていたんですねー。なら今度の活動でもきっと頼りにされちゃいますわねー」


 後ろから人の履歴書を勝手に読み上げられたことに私は不快感を感じる。


「いやっそんな大したことじゃないんで、すいませんどうぞ」

それでもいっぱしの社会人ぽく、冷静な対応で女性が前に進んでいってくれるよう椅子をずらして促した。


「そっかそっかー、履歴書に写真も。わーみんな揃えて持ってきてくれてますわねー。すごいやる気を感じますぅーさすが五島さんプロっぽいですねー」


 初対面の人間をことさら分かったような顔をして分析をかまし、さらにつきまとうように私の所持品をチェックしてくる女性に対してどこか病的なものを感じてしまう。

 私は眉をひそめて不快感をあらわにしていた。


「いやっまだ全然決めてないんで。その勝手に人のモノ見るの止めてもらえますか?」

「ですよねー、すいませーん私のクセなんで。すごく興味のわいた人に距離感関係なく突っ込んでいっちゃうんですのー。まえのウイルスの時えらく嫌われましたもん、え~ん」


 なおも腰を曲げた態勢になってまで私に顔を近付け、話を積極的に求めてこようとする女性に対し、不可解に思えるがイラつきやあらゆる感情が消えていくほど呆れてしまっていた。


「ふふふふっ、記入しないんですかー?」

耳に髪をかき上げ、なおも私の横で顔を近付けてくる女性。


 見ると微笑みが顔に張り付いているような表情だ。甘い香水の香りが漂ってきて、私は自分が何も考えられなくなっていることを感じていた。


「えーっとまずはここ住所と名前とー連絡先、あとはマイナンバー。うんそうですわよ」

女性に促されるまま、何故か私は記入を始めてしまう。


 何故こんなことに?自分でもよく分からなくて、たまに横にいる女性のことを確認するが、ふふふっと笑みをこぼすばかりで表情が読みとれない。


 しゃがんだ彼女のシャツから、時折下着と胸の谷間が覗く。私はそれを見てにんまりと笑みをこぼしていた。

もう自分が何も考えないただの人形のように、女性のなすがまま登録用紙に淡々と記入を済ましていく。


「あとは誓約書にチェックを済まして~はいっそれでOKです!お疲れ様です。そちらは私の方で預からせていただきますー。すぐにご登録アドレスの方に初めての招集日の連絡が行くと思いますのでー、また後日お会いしましょう。

ではでは本日は登録会へのご参加、どうもありがとうございましたー!」


 終始自分の意思はあやふやなままで、結果としてここに来た目的通りに私は衛生保全隊員への登録を済ましてしまった。

それもあんな適当な女性に操れるように記入終えてしまった自分が情けなかった。


 

 トボトボと駅へ向かって一人歩いていると、後ろから二人組の男女が近づき話しかけてくる。


「あのっちょっとすいません・・・・、とっ登録やっちゃったんですか?」

同年代ぐらいだろうか、ひょろっと背の高いメガネの若い男性が私に声をかけていた。


「ああ、はい。まあなんとなく登録だけならいいかなって」


「マジで?結構ヤバいって噂もあるっすよ、あの衛生隊て」

すぐに、今度はもう一人の女性の方からも声が飛ぶ。

同じく同年代ぐらいで、化粧っけがなく、腫れぼったい顔の幸薄そうな女性だ。


「はあ何がですか?市発注の公共工事程度ですよね、しんどいとしても?」

「まあそれがよく分かんないから怖いってか。色々政府って隠すじゃないっすか?軽い徴兵制だとか言われてますしコレ。もしかして今度のも軍関係の仕事とか?仮に戦争?とかになったら、まっさきにどっかに送られますよ。とんでもなく重労働かも」


「はははっ戦争って、ないでしょ普通に。それに僕たちみたいなのが軍隊で役に立つわけないし」

真剣に話す彼女の言葉を冗談として受け流すように笑みを見せながら、男性の方を向いて対応を求めた。


「あはっ、ですね。でもめっちゃしんどいのはあるかも。稼ぐためにはしょうがないんだけど。まあでも、もし同じ隊員として活動することになったらよろしく助け合いましょう」

 男性の方が私に同調してくれたことに安堵する。


 だが同じってことは、結局この人たちも隊員登録は済ましたんじゃないかと。

すこしからかわれてしまったのかと不快に感じ、私は二人を無視するようにして前を向き先を急いだ。



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