生みの苦しみ
目の前の作家に対してやや失礼だったかと、周りの様子をキョロキョロ窺う。
「まあ見ての通り女性ですけど、宮藤さんが女性だったら何か問題でも?」
案の定、横の出版社の人間からやや怒りがこもった言葉でけん制される。
「別に・・・・・・・」
まともに言い返せずただ俯いてしまった私に対し、
宮藤レイヤからの言葉がかけられた。
「まあまあ、確かに名前から勘違いしちゃう人はよくいます。
実際の私はこんな普通のおばちゃんなんですけど、それでもサインもらってくれます?」
「は、はいできれば」
優しいおばちゃんこと宮藤レイヤから言葉をかけられ、ほっとした私は購入した本を差し出しながら宮藤レイヤと名乗るおばちゃんの前へと進み出る。
「スムーズな進行、ご協力お願いします」
私の後ろと横に出版社の人間がひっついて、余計な動きをしないよう制限される。
ずいぶん厳重にマークされているなとは感じるが、さっきの発言といい目つきの怪しい男が一人ということもあり、それだけ私が不審人物として認識されているということだろう。
私も同じような仕事をやっていただけに気持ちは分かる。
「お名前はどうしましょう?入れときましょうか?」
カバーを開いてサインを書いている宮藤レイヤから、おそらくサイン会での対するお決まりの言葉がかけられる。
自分の名前を入れた場合、古本屋で売れなくなるのは嫌だったが、自分がこの場で質問するのなら、入れてもらった自然だろう方がいいと我慢して私は名乗ることにした、
「あっぜひ、ごとう、五島といいます」
「は~い五島さんねー、よしっ!はいどうぞ」
宮藤レイヤからすぐに書き終わった本を返されると、
私はそれを握ったまましばらく固まり、そのおばちゃんのことをじっと見つめる。
「・・・・・・あの~っ、まだ何か?」
口をもごもごと動かす。聞いた方がいいのか、
頭の中で質問したいことを必死で巡らせていた。
「あっあのっ、すこし宮藤さんに質問いいですか・・・・?」
「あのねキミー、時間ってものがあってー」
「まあまあ。時間ありますし全然いいですよ。どうぞ」
すぐに横の出版社の人間からさえぎられそうになるが、前に座ったおばちゃんは気さくに応じ、快く質問を許可してくれた。
「えっとじゃあ、宮藤さんはなんでその~こんな単純で、どこにでもありそうな病気で人が死ぬだけの話、書こうと思ったんですか・・・・・?」
書いた人に失礼だと分かっていながら、あえてド直球の質問をぶつけてみる。
何故小説家とも名乗ろう人が、このような小説の表現の可能性とかは無視して、あざとく人の感動を狙いにいく薄っぺらいストーリーを手掛けてしまったのか。
その執筆へ向かった時の動機や、その時の心境を知りたかったからだ。
「う~ん・・・・・」
やはり気分を害したのか、宮藤レイヤを名乗るおばちゃんは眉間にしわ寄せ口ごもってしまう。
「ではお時間ですので、次の方に変わっていただけますかー」
イラつきを隠しきれない横と後ろの男二人から、私はなかば強引にパーティションの外へと押し出されそうになる。
それをひじで押しながら踏ん張って何とかこらえていると、その時ようやくおばちゃんから返答の言葉が返ってきた。
「まあ私も正直好きじゃないんです、こういう作品は。無理やり感動させにいっただけっていうかね。でも私自身かなり小説家になるまで苦労してて、誰にも読んでもらえないみたいな時期が長かったから。
そんな日々がすごく心に堪えてね、結局こんな安易な作品創るしかなかったんです。ごめんなさいね。アナタみたいな人には我慢ならないのでしょう?」
「・・・・・・いや」
またも私は宮藤レイヤに対して驚きを感じてしまい、
今度は逆に何の言葉にもならなかった。
今の宮藤レイヤからの返答は、まるで現在の私の苦悩を語っているようであり、私がこの手の不治の病をネタとした恋愛小説について抱いていた想いとほとんど似通った感情だと感じたからだ。
しだいに驚きの感情を通り越して、私の気分は高揚してくる。
「えっと僕はその、いや僕もいま小説を書いていて・・・・・」
すると自分の現在の状況について、宮藤レイヤに吐き出したくなっていた。
「ああやっぱりー!だと思ったのよー。あなたは小説家目指してるんですね?
いやいいんですよ、そのまま自分を信じて頑張ってくださいね。好きなことを続けるって大事ですよ」
「えっとでも今ちょっと・・・・・」
「ハーイありがとうございましたー。早くどけよっ!」
もう少しこのおばちゃんから執筆に臨む上でのヒントを聞けたらと、粘ってみたが、強引に男性二人からパーティションの向こう側へ突き飛ばされてしまった。




