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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
20/80

個人書店の声

 近所をブラツキ歩きながら近場にある商店街へ立ち寄ると、その中にある小さな書店の前で足が止まる。

今では極端に少なくなった個人経営の本屋さんだ。

年寄りばかりの客層で実入りもそう多いとは思えず、なんでつぶれないのかもよく分からない。

こじんまりと、さびれた店構えをしている。


 子供の頃、ここへよく通っていたことを思い出す。

沈んだ心にはちょうどいいなぐさめになるかもしれないと、私は昔をなつかしむため店へと入っていった。


 「いらっしゃーい」

印象としては当時と変わらない、あの頃のままのおばちゃんが挨拶をしてくれる。

的確に言えばもうおばあちゃんなのだろうが、お年寄りが一人で店番をしていた。


 こじんまりとした店構えでは、入った瞬間にどこにどんな本や雑誌が置いてあるのか大体分かってしまう。

なのに万引きを警戒してか、相変わらず天井の隅にミラーが置かれているのが哀愁を感じさせる。

そもそもこんなおばあちゃん一人の店番でどうこうできるとも思えないが。


 「なにかお探しで?」

これも相変わらず。店に入って1分もすればすぐに声がかけられてしまう。

いかにも昔ながらの接客スタイルだ。

「いやっまあ・・・・・あっそうだ。おばちゃんの店ってあんま小説とか置いてないよね?ハードカバーのやつ」

「まあうちはそんなの置いてもあんま売れないからねえ。スペースも限られてるし。取次から配本もされないのよ。ああ文庫本ならありますよ、そっちの隅に」


「だよな、売れないもん置いても仕方ないよな」


 それを聞いて私はちょっと嬉しくなると同時に悲しくなった。

別に立派な小説なんて誰も求めていないんだ、というわずかばかりの嬉しさ。

そしてそんな枠にも遠く及ばず、自分は加われていないという悲しさ。


「じゃあさ、例えば今お店ではどんな本が売れてるの?」

「そうね、ウチで一番売れるのは宝くじですよ」

「・・・・いや、本や雑誌で聞いたんだけどな」

そういえばこの書店は生き残りのために宝くじも扱っていたことを思い出す。

それが今一番の売れ筋で、矮小な書店が生き残ってこれた秘訣だったとは、また悲しくなってしまう現実を知る。


「本ではねえ、本は定期購読してくれるお客さんの取り寄せかね~。クロスワードとか旅行雑誌。あとは健康関連に歴史の文庫本ってとこかね。

ほかはまあ週刊誌とかコミックスとか雑誌がぼちぼちってな感じですね」

 

 その言葉を聞いてまた納得できた。

やはり人は身の回り半径1メートルぐらいのことにしか興味が無いのだと。

適当に自分の感性に合うものを、ちょっとかじってさえいられれば、人は生きる分には満足できるんだ。

年寄りならなおさらだろう。


 さっき電話した出版社の編集者たちに聞かせてやりたい。

あんた達が何十年にもわたって大した努力もせず、読み応えのある本を生み出せなかったせいで、人は読むことへの興味を失っているのだ。

そのおかげで、あんた達が潰してきた個人書店主の生の声を、現状を。

あんたちが間接的に潰してきたのだ、文化をはぐくむ土壌を。

しかしそんな世界で自分がイマジネーションで勝負をかけていかねばならないことを悟ると、いかに自分が崖っぷちにいるのかも理解できる。


「お兄さんがいらっしゃる後ろの辺り、まあそこらへん目立つところにいちおう売れ筋も置いてますよ。話題の本をお探しなら見ていってくださいな」

 気を利かしておばちゃんが話題の本を教えてくれる。

それらのラインナップを眺めて、私はまた暗澹たる気分になった。


【〇×をもむだけで10キロ減のくびれボディ!】

【劣等民族○○人と××人は信用するな!】

【○×バカとは断固ディスコミュニケーション】

【世界から賞賛、日本人の生活習慣】

【AIに負けない、生き残るためのビジネスマナー】

【寝かすだけの投資、一年で100万生み出す方法】

【緊急時にはゴールドが最強!投資術】

【きたる第三次大戦!、アナタだけは必ず生き残るサバイバル術!】

【100%ウイルス撲滅!マル秘グッズ&生活習慣】


 昨今の売れる本の傾向は知っていたが、小さな書店においてもここまで先鋭化してるのは衝撃だった。



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