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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
2/80

願望

 自分が何者にもなれないと薄々感付き始めた

三十になろうかという年の春、私は一縷の望みをかけて小説を書き始めた。

 

 折しも世間的にはパンデミックの真っただ中、

たとえ無職であろうともつつましい生活に耐えられるなら、家に籠って作業するには最適な頃合いだったと言える。


 空いた時間に書き始めてコツコツと作業を進めていると、やはり私には小説を書く適性があったのだろう、執筆は思いのほか快調に進み、二か月ほどかけて待望の処女小説は完成に至る。


 ジャンルとしてはいわゆる青春もので、

挫折をした少年が再び立ち上がって新たな道を見つけるまでの過程を描いており、書いてしまえば至極ありきたりな内容に思えるが、

多様な生き方をしている人たちとの交流の場面なんかは上手く描写出来たと思っているし、最後まで読めばおそらく感涙必至の内容となっているに違いない。


 我ながら初めての作品にしては良くできたと思えるほどだ。


 ではこの出来あがった自信作をどうしたものか?


 普通に考えるならまずは出版社へ投稿するというのが、チャンスをつかむ上では1番近道なのだろうが、最初の作品でさすがにそこまで大それた自信はなかった。

 

 それに新人賞をいろいろ調べてみると、

それぞれに規定や締め切りが設定されており、中には規定に合わないものがあったりと、ほとんどがすぐに結果を知れるものばかりではない。


 それなら手っ取り早く第三者的な人からの率直な意見を聞いた方がいいだろう、

なんせまだ一作目なのだし。

その手応えを得てから次の手を考えても遅くはないと、私は初めて仕上げた小説をとりあえず“なろう系”といわれる小説の投稿サイトにアップしてみることにした・・・・・。



 結果としては見事・・・・・、

というかやはりというべきか、何の反応もなかった。


 わずかにページビューがある程度で感想なんて皆無、ほぼスルーといっていい有様だった。


 目も通してもらえない、もしくは冒頭だけ見てスルーされることにはハッキリ言ってかなりヘコまされた。


 だがまあ、それはある程度覚悟していなければならないことだったんだろう。


 なんせ私自身もこの手の小説サイトで作品を読んだことはなく、トップページに上がる人気作をいくつか眺めても、どれもが既存の巷にあふれかえった類似品のようなものか、もしくは性描写や残酷描写で人の関心を煽る作品ばかりで、とても読み応えのある作品とは感じず、読もうと思ったことすらないからだ。


 それが自分の作品だけは特別なんてあるはずもなくて、特にタイトルにインパクトもなく、読んでみないと分からない文芸作品なんて誰も貴重な時間を割いて読むはずがなかった。

 

 誰もが自分カワイイ、驕りに満ちた自己満足の産物に対する他者からの視点、現実を見せつけられたにすぎない。

何の反応もないというのも、ある意味では最も端的で分かりやすい評価なのだろう。


 ただ転んでもそのままというわけにもいかない。

負けを認識したうえで、なにかしらの分析ぐらいしなくては。

 

 私は当然知っておくべき事前情報を得ずに、

ただなんとなく読んでもらえるだろうという願望のみで、

この手の小説サイトに投稿をしてしまったことがマズかったようだ。


 なろう系サイトに小説をアップし読まれるためには、ある前提条件が必要になるということをもっと知るべきだった。


 それはまず、何はなくとも異世界転生ものにすること。

現代社会では冴えない青年が、異世界に飛ばされたら何故か美少女にチヤホヤされて、体力的にも最強になって血みどろのバトルにも対応できて、

それでも牧歌的な社会でスローライフを満喫するみたいな話がベターらしい。


 そしてもう一つ、

それは昨今の売れる本と同じ傾向だが、タイトルで惹きつけること、もしくはタイトルで全てを語っていること。

読まずともおおむね中身が推察できるものがベターのようだ。


 地道に続けるだけの根性があるならともかく、

すぐさま読まれたいと思うなら、

最低限この二つぐらいは押さえておくことが望ましい。


 小説家へのまず第一歩、この失敗を教訓として

頭とハートに叩き込んでおくとしよう。


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