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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
18/80

あるべき姿

 仕事をあっさり失いはしたが、資金がある程度貯まった上に時間に余裕が出来て、これで心おきなく小説の執筆にも打ち込めるはずだったが、頭で考えるほど心の切り替えはそう簡単ではなかった。


 心にぽっかり空いた空洞は、なかなか閉じてくれそうになかった。


 失って初めて気付く、ショッピングモールでの警備の仕事が私の心の安定剤になっていたことに。


 最近は小説の作業にもあまり身が入らず、

それを仕事が充実していることを言い訳としていたが、それはむしろ逆で、小説が自分の思うように評価されないもどかしさを、いっぱしの社会人らしく仕事が出来ているプライドを優先することで逃げていたんだと思う。


 本来そのことと小説とは別に考えなければならなかったのに、私はいつからか上手くいかない小説の憂さを、仕事で晴らしていたんだってことに気づいた。


 小説をチマチマ書くなどということの方が、

本来余暇に楽しむべき副産物であり、いっぱしにこの国を構成する市民なら、憲法にもあるように仕事に従事してこそ一人前で、遊びを楽しむのは二の次、自分の食い扶持を自分で稼げてこそだろうと。


 自分は小説家としては認められていないものの、

社会の治安を取り締まる役割として誇りある職務についている。そのこころざしをもって仕事に励んでいることを、どこか心のゆとりとしていた。

 

 いつも頭の片隅には上手くいかない小説のことを浮かべながら。



 何でも屋の青年を主人公とした純文学小説を投稿してからどのくらいたっただろう。

あれは仕事を始めてまもなくだから、半年前くらいだったろうか。 


 あれから私は次作にひとつもとりかかれていないだけでなく、具体的な構想すら浮かべてはいなかった。

受賞まで至らずともきっと何かしらの連絡くらいあるだろうと安易に考えていた上に、仕事上のスキルアップが楽しくそっちを優先していたため、小説家になるためのプランは意識の枠外に飛んでいた。


 まだ辞めてから数日、モールの仕事のことばかりを考えてしまう自分に気付く。


職場の同僚たち。警備任務のため巡回するそれぞれのショップとそこで働く女性たち。どうせ辞めるとわかっているなら、好みの女性と一度ぐらいセックスをしておきたかった。

 ※もちろん相手が望めばという話だが。


 例えばスーパー衣料品担当の倉田さん。

子持ちバツイチだが、ふくよかな体つきと清潔感のある制服の着こなしが私にとって大変そそるポイントであり、一度でいいから制服パンスト着用でのセックスをお願いしたいと考えていた。


 小説の練習のためという思いから、想像上では何度となく倉田さんとは身体を重ね合わせていたが、そんな妄想ばかりしていたせいか、いつの日からか彼女を見ると自然と反応してしまう自分に気付いていた。


 そのせいもあって警備の仕事中、彼女の元へ立ち寄ることができなくなっていたのは今考えると実に惜しい。

(もう少し自分に自制を促し、彼女とのコミュニケーションを優先させるべきだった。)


 もう一人の私の好みの女性、彼女はどうしてるだろうか。

アパレルショップのマッキニーに勤めていた井藤さん。


 仕事上でおかしな男性連中に絡まれ、

おそらくそのショックから仕事を辞めてしまっていた井藤さん。


 この有効求人倍率0.8を下回る大不況のさなか、きっと彼女も無職だろう。親のすねでもかじって暮らしているに違いない。

 

 私自身は去年の年末に、両親ともに感染症とガンのために、たてつづけに亡くしていたので、そのためにかなり頑張って働いていたのだが、それすら失い今はただの天涯孤独、頼る相手すらもいない。

そのためか無性に人恋しい思いにしばしば駆られてしまっている自分がいる。


 今度もしどこかで彼女と出会うことがあれば、

今度はもう一度はっきりと誘ってみよう。

互いの寂しさを埋め合わせるために、きっとすぐにでも身体を重ねあいたくなるに違いないのだから。


 

 性欲ばかりが頭によぎり前面に出てくるのは、家で一人悶々としているだけでなく、最近の不穏な世界情勢が関係しているのかもしれない。

 ふとニュースを眺めると最近はどこもそんな話題ばかりだ。


 オリンピックが終わってしばらく経ち、

さあこれからまた日本が盛り返すぞって時に、

南海洋上の岩礁、岩が海面からちょこっと突き出ているだけだが、ここはれっきとした日本固有の領土だ、


 であるにも関わらず、例の赤い国がちょっかいを出しつづけ、次第にその範疇を大きく超え始めていた。

 ついには軍艦をつけ、上陸をしようとして自衛隊と撃ち合ったという事実が報道されていた。


 それ以前にも、日本の一番の友好国である南洋の島国のことを、”今は分断しているが、もともと我ら不可分の一つの領土だ!”というスローガンを掲げて、あの独りよがりの赤い国は空母まで展開させてアメリカ艦隊とにらみ合い、一触即発状態になっているという報道もあった。


 一体何がしたいんだ?ああいったイカレた全体主義国家の連中は?


ほとほと日本人全員ああいう輩にはうんざり困り果てていることだろうが、威嚇のため日本もミサイルの一つや二つ発射できないものか?


 そう考えていた私の意思が通じたのか、

ついに日本もミサイル防衛構想をさらに一歩推し進めるということもまたニュースとなって挙がっていた。


 さらには集団的自衛権の行使範囲も広げることを検討するという。


他国の領域であっても自衛のためやむを得ない場合は、先んじて攻撃が出来るという実に当たり前の法案を通すようだ。

 

 そのために憲法もようやく改正するのだという。

これは与野党一致でのりだすようだから、あとは国民の意思次第となる。国民の大多数も賛成だろう。

 

 どこの国でも持っている、ごく当たり前の防衛能力をようやく日本も手にするというわけだ。


 そのために私も何か手助けができればいいのだけど、何も役には立てそうにはないし、面倒くさそうだから考えずにおくとする。


 国や地方自治体が直接、若年層の失業者を大量に雇用して公共事業にあたらせるというニュースが流れていたので、しばらくはそれを期待して待つとしよう。

 

 最優先は執筆活動。

私の作品で沈んだ国民を高揚させてあげられる作品を生みだそう。


 最近誰も読まなくなった心揺さぶる小説を、みんなへお届けするのが優先だ。




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