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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
14/80

お祭り騒ぎ

 秋の気配が近づき、先日まで人があふれて

大変にぎわっていたモールも落ち着きを取り戻しつつあった。

祭りの後の静けさを感じさせる、どこか寂し気な雰囲気のモールを巡回しながら私は振り返る。

 

 今年の夏は暑かった。

実際の気温もそうなのだが、それ以上に人々の熱狂を傍から眺めていて、よりいっそうその印象を強めていた。


 延期を余儀なくされていたオリンピックが、

ついにここ日本で開催され大いに盛り上がった。


 世界的には、まだ一部の国で肺炎ウイルスによるパンデミックは終息しておらず、ワクチンも市販されるまでには至っていなかったが、

とりあえず選手、関係者分は用意できたということで、観客数や式典を制限した限定開催にはこぎつけられていた。


 そこで日本選手たちは大いに躍動してくれた。

不況下の国民を勇気づけるように、他国の選手たちをそれぞれの競技において圧倒してくれた。

 

 金メダル数は50個にも及び、メダル数トータルでいっても過去最多。


 一部参加できない国や制限された選手がいたり、他国の観客は限定的にしか入れなかったり、それらをことさら取り上げて不満をつけてくる野蛮国の連中はいたが、それを無視すれば大いに成功と呼べる大会となった。


 その後開かれたパラリンピックでも日本人選手はそれなりに健闘してくれたようだが、そこではメダル数が伸びなかったのは残念なことだ。


 いつもはぶすっとして活舌が悪い官房長官が、

このオリンピック期間だけは定例の会見で大はしゃぎして笑みを見せているのは話題になった。


 まるで赤ん坊のようだと。

#超カワベイビーレイワおじさんとハッシュタグがつき、若者のSNSなどでヒットしていたらしい。

世間はヒマでよろしいなと思ったものだ。


 私が治安維持を管轄しているショッピングモールでも、オリンピック効果により大変人出で盛り上がった。


 入場制限のため直接会場で観戦できなかった人へ向けて、パブリックビューイングが開かれ、大型モニターの前で老若男女が歓声をあげて大変に盛り上がっていた。


 私もその平和な光景を眺めながら大変誇らしい思いがしたものだ。


小説の受賞連絡はまだ無いものの、もうそんなくだらない希望は一時忘れられるほどだった。


 私個人としても、このモールで働いていらっしゃる従業員の方たちと交流を深めるという意味でもこのオリンピックは大変貢献してくれた。


 誰もかれもが毎朝まずは誰がメダルを獲得したね。だのとオリンピック話から会話を切り出せばいいことで、他の従業員さんたちとの話題には事欠かなくなった。


 今まで私のことをどのように思っていたのだろう?と常々気になっていた女性たちとのコミュニケーションも弾み、私はオリンピックへ臨む選手たちと同じく気分が高揚していったのを覚えている。


『ねえ五島さん昨日見た?すごかったよね~瀬尾選手、アタシ感動しちゃった!

最後のとこほんとギリギリで、イケーイケー!って叫んじゃったもーん』

 

 総合スーパー2階の衣料品を担当している倉田さん。

品出しをしていた頃から、少し気になっていたがほとんど喋る機会もなく、警備担当になってからも挨拶程度で、ただなんとなくキレイな女性だなという思いだけを募らせていた方だ。


「は、はいそうですね。僕も観ました。へへっ興奮します、いやっしました。くっ倉田さんはどうです?昨晩はどんな、いやっ何してたんですか?」

 

 そんな彼女と、この度のオリンピックをきっかけとして、このようにいくらか打ち解ける関係になっていた。


『うん私はね、娘と一緒に見てたの。まだちっちゃくてよく分かんないみたいだけど。いけーやれーって私のマネして声上げてるのがめっちゃ可愛らしいくて。ずっと娘と二人で応援してたよ』

 

 バツイチ子持ちなのは玉に瑕だが、その分包容力があって母性というものを大いに感じさせる。おそらく男の扱いにも慣れているに違いない。

その辺は勘違いしないように私も気を付けなくては、何せ治安活動をしているのだから。


 お尻のシェイプが大変に良くて上にツンと盛り上がっている。とても子供を産んだ人とは感じさせないくびれボディだ。

彼女はいつも制服をキレイに着こなし、ストッキングとパンプスを清潔感持って着用していることが、より私の興奮、いや感心を誘ってくるのだ。


 そんな魅力あふれる倉田さんの姿を、警戒のフリをしていつも私は眺めていた。


「では倉田さん、まっまたその~今度。ご飯でも、いきましょ・・・」

『えっ何です?最後の方ハッキリ聞こえなかったんだけど?』


「いっいやご苦労さまです。では僕は仕事がありますので」


 誘えばおそらく男手を欲しているだろう彼女のことだ、乗ってくることは推測できるのだが、いかんせん私の職務上の規律が優先し、まだ上手く彼女を導いてあげられないのが惜しいところだ。


 また巡回を続けながら、もう一人の目的の女性の元へ向かう。


アパレルブランド、マッキニーに勤めるバイトの井藤さんだ。


まだ二十代半ばで社会経験にも乏しく、接客業でありながらどこかたどたどしくおびえながら仕事をしている彼女の姿もまた私の関心を誘った。


 オリンピック以前にも、彼女とは二度ほど接点があった。

店へ商品のクレームを執拗につけてくる中年男性を、通報を受けた私が駆け付け、勢いよく引きずり倒して馬乗りになったことがあった。


本来店内でそこまでするはずではなかったのだが、おびえる井藤さんの姿を見てつい私もカっとなってしまったのだ。

 その時、彼女は大泣きして感謝を述べてくれた。


 他にも彼女を見て欲情心に駆られたのか、ワケ分からない言葉を呟きながら井藤さんに付きまとう若い男性を、通報の元で駆け付けた私が首根っこをつかみ裏で腹にひと蹴り加えたことがあった。


 見るからに社会に役に立っていないクズだったから、そんな相手が井藤さんにちょっかいかけていたのが異様にムカついたのは覚えている。

その時の井藤さんは顔を真っ青にして震えていた。

本来そこまでやるべきじゃないと警備主任から軽く注意は受けて今は反省している。


 だがこんな無理にでも奮闘をした甲斐はあったようだ。


井藤さんの私に対する興味、好感度は明らかに高まったと見え、いつも巡回のたびに寄った際、挨拶をしてくれる彼女の表情は異常に朗らかで、その上でどこか照れ臭そうに上目遣いで頬を紅潮させてさえいる。

うっすら感じているのでは?と思えるほどに。


『ひゃあっ!あっいやっ、どうも五島さん。今日もみっご苦労様・・・です』


「うんありがと井藤さん。そういえばオリンピック見てる?昨日すごかったよね?式典でのあれさあ、風雲児のコンサートによもぎ坂の国歌斉唱だっけ、何だか感動しなかった?」


『えっ?いやぁわっ私はそのみてっ・・・・・ハイっみっみました。へっへへへすごかたですね~』


「だよねー。・・・・・・それで今度さあ、もし良かったらなんだけど、僕とでっデートにでも行かない?かな~なんて」


『ええっ!?いっやだっ、なっなんで急に?わっわたしは、最近は仕事がその忙しくて、まだ全然できてないですし、皆に迷惑とかかけられないんで。またっおっ落ち着いたら誘ってくださ~い・・・・えへへっはぁ~』


「うっうん、そうか、だね。分かったじゃあまた今度誘うよ」


 私は即座に井藤に背を向けてマッキニーの前を去る。


 これだけハッキリ誘ってあげたにも関わらず、自分を卑下するクセがついている女はどうして素直に好意に甘えないのか。


 私からどうこう言うべき問題ではないのかもしれないが、もうこの店への警戒監視は一段階弱めてあげた方がいいのかもしれないなと感じた。


 そう考えていたのも束の間で、その後まもなく彼女の姿は見かけなくなった。


 同僚の話ではどうやら退職したとのことだ。

やはり実に性根が腐ったふがいない女だったようだ。



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