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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
13/80

ごっこ遊び

「はあ、口座から自動引き落としでポイントがたまる?だからクレジットカードは

持ってないって言ってるでしょ。

・・・・・えっ何です?ペエペエ?そんなのやってませんよ。えっ何?いやしてませんて。マイナンバーとの連携なんか、もうそんなのどうでもいいだってポイント1万とか」

 

 大事な仕事中にも関わらずまた知らない電話に出てしまった。このところよくかかってくる、いかがわしいセールスの類だ。

 

 しかし必死なものだ。栄養食品やらクレジットカードやら、何がポイント還元だ。しかもひとつダメだと分かると次は金や米ドルの積み立て、そこもダメなら次は水買いませんかだと?

 一体この人物は何に引っかかるか探られている気分で嫌になる。


 先月文学誌の新人賞に出した小説の、何か色よい返事があるのかと私は心臓をバクバクさせながら知らない番号に出ているのに、あまりの落差には心臓が止まりそうになる。


 賞の締め切りからは既に1か月、結果発表までまた1か月ほどあるらしいが、もし引っかかっているならそろそろ何かしらの連絡はあるころかもしれない。


 今はスッキリした気分で仕事に集中している分、以前ほど小説のことは考えなくなっているが、その分新人賞への期待が過剰にふくらみすぎているのかもしれない。

 

 あまり非現実的な世界のことを期待しすぎるのも良くないと、いま目の前にある自分に与えられた大事な職務に戻る。


 

 パートタイマーとしてスーパーへ商品の品だしをしていた私は、最近別の仕事をやってもらうと命じられて、入社三か月程度で早くも契約社員へと昇格していた。私は誇らしかった。


 その仕事は警備員。

しかしそこらでちんたら立っているだけの爺さん警備員とはワケが違う。


 私がやっているのはこのスーパーが入る、ショッピングモール全体を巡回して不審者を洗い出す役割を与えられた、”治安維持部門担当員”というものなのだ。


 白いポロシャツに身を包み、腰には無線と警棒を携えている。

つい先日までこの役割の人へと、通報のあった不審人物を連れて行き引き渡す役割だった私が、今はその不審者を受け渡される役割を手にしている。


 どうやら真面目で職務を忠実にこなしているというAIからの査定により、この仕事の適性があると判断されたようだった。


 確かに、大きな権限を手にしたことは身が引き締まる思いがしたし、この職務を遂行することはとても楽し、もとい、やりがいのあるものだと感じられている。


 基本的には有事に備えて二人一組の警備員で回るのだが、そんなこともめったにないだろうということでもう一人の中年警備員から私はほぼ放任状態で、何かあったら連絡くれというだけで、気楽にモールを見回しながらうろつき回るだけの仕事だ。


 それだけなら退屈すること請け合いの仕事だろうが、私なりにこの仕事に対する意義を感じ取っていたからこそ、色々な楽しみやそれに伴う充実感を感じているのだろう。


 まず一つは、当たり前だが不審者を見つけ出すこと。

主に注意するのは万引き犯だ。

特にスーパーの食料品および衣料品売り場、そしてモール内の本屋・雑貨屋などに発生する虫のごとき存在だ。


 私自身くまなく見回っても発見することは困難で、実際犯行シーンを目撃したとしても即座に私が出張ることはない。

出ていくのはあくまで店側から、またはモール全体を管轄する本部からの通報が無線に入った場合のみだ。そうでないと私自身の責任が問われかねない。


『あの~、このお婆さん更衣室で着替えた服をそのまま身につけて持ってちゃってるんですけど』


「そうですか災難でしたねお嬢さん。あとは私が引き取りますので、ではご協力ありがとうございました」


 このように通報があり次第、私が駆けつけその人物を引き取るというわけだ。


 実感としてはスーパーで万引きするのは大概が中年から老人であることが多い。まさに今の日本が抱える構造的問題が、多数の人が集まるこのモールにおいて顕在化していると言っていい。


 捕まえたからと言って私は別に老人たちに特に厳しくあたることもない。反撃さえ受けなければ、あくまでマニュアルに従って対処するのみだ。


「ではお婆さん、商品取ったのは認めますね?ではこの書類にサインしてください。コレは弁済証になります、こちらにもサインを。

ではこの器具を押し付けますね。ちょっとチクッとしますよ・・・・・、ハイ終わりました。え~っあとは誰か身元引受人はいますか?」


 いくつかの書類へのサインをもらって写真撮影を行い、罪人用チップを打ち込んで引受人へと返すのみだ。もしそういう人物がいない場合は施設へと引き渡すことになるが、大した労力を伴う仕事ではない。刑事気分を味わえてドラマ撮影をしている気分にもなれる。


 そしてもう一つのやりがいは、この職務を忠実に行った結果美しい人々に感謝されることだ。


不審者や万引き犯へ上手く対応できないスーパーやアパレルの女性店員さんの元へ駆け付け、私が迅速に対処することで感謝され、後日、巡回している時に礼を言われることに自分の仕事への誇らしさを感じるのだ。


 そのうち顔見知りになった誰かを、私のパートナー候補としてデートにでも誘いたいのだが、そのためにはこの仕事でいいところをまだ何度か見せなくては。


 実に美しい人々が、このモールではそれぞれの仕事に汗を流していて、その美しさを際立たせている。単純にその女性たちの姿を眺めながら歩くだけでもこの仕事へのやりがいを感じる。



 今日もまた美しい光景を眺めながら、

美しいモールを保つために私は巡回を繰り返す。


 そんな中を前から一人、怪しげな人物が近付いてくる。これはモールの治安を乱しかねない、そんな振る舞いをした不審人物の香りだ。

 私の勘がそう訴えている。


 二十歳前後の女性、かなりの軽装。

ワンピースのチュニックを着ていて、シャツの胸の部分が大きく開き、谷間が半分見えてしまっている。


それをまるで見せつけるかのように大きく上下に揺らしている。下のスカート丈は極めて短い。


 なんてイヤらしい女だ。この時点ですでに公序良俗に反している。私はこの女を徹底マークすることを決め、尾行を開始する。


 コチラへ近付いてくる女。

相変わらず胸を上下に揺らし、腰をくねらせながら歩く。


 私の視線には気付いていないようで、ケータイを見ながら耳にはイヤホンまでつけて、周りにぶつかるスレスレで歩いている。

 周りの迷惑を考えない、なんて身勝手で軽そうな女なのかこいつは。


 私がキッと睨みつけると、ようやく視線に気付いたようで軽く笑みを浮かべる。

何だコイツは、男を誘っていやがるのか。売の疑いあり。


 私は気になってなおも尾行を続ける。


 エスカレーターに乗る女。少し間を空けて私も続く。

下からの角度により、否応なくこの女の短いスカートからの下着が覗く。


 何て淫靡な姿を晒しているんだ。

紫色の下着が少しはみ出して見えるではないか。

後ろに男がいることを知ってあえて見せつけているようだ。


 こんなイヤらしい女の下着など私だってあえて見ようとは思わないが、職務上しょうがなく記録にも収め、後ろから見続けるしかない。


 やがてエスカレーターを降りて、女が小走りで駆けていった。


そこには男がいた。男と腕を組み笑っている女。

何だやはり男がいたのか。さすがにこれだけ軽そうな女だ。セフレの数人は抱えていてもおかしくはない。そんな男の方も腕にタトゥーを入れている。やはり同類の下種のようだ。


 これ以上追跡の意味はないとその場から離れようとした時、二人の話し声が聞こえてくる。


『まじどこいたの~○○くーん、超会いたかったよ~!・・・・・』

『○○××ッヌン××ッポヨ△△・・・・・』


 どうやら男の方は外国人らしい。

やはりこの女め、売女だったか。スパイの疑いありだな。


 職務上そこまですることは求められていなかったが、私に与えれている最高の権限を使い、本物の警察本部へとつながる不審者ホットラインへと通報をした。



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