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小説家人形  作者: 五島タケル
一章
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ゼロサムゲーム

『あの真理子さん、僕にはやっぱりできませんでした向いてないみたいです。なのでコレは、すいませんが返却させてください』

 三島は震える手を必死で隠しながら、持っていた袋入りの拳銃をテーブルの上に出した。


『そうでしょうね貴方には。元からこうなるとは何となく分かっていたわ。・・・・・でもまあ少しは期待していたのだけど』


『相手の家族、見ちゃったんです僕。あんな人間でも普通に家庭をもって生活をしている。そう考えると意志が折れるのを感じてしまって』

 唇を咬んで、自分の失敗が耐え難いことだと悟らせるように、三島は必死で人間性を前面に出してアピールした。

 それがこの種の人間の最も嫌うことだとも知らずに。


『フフッあら三島君、そんなまともなこと言えるようになったんだ?ずいぶんね。単なる愚図なブタ畜生でしかない貴方が、滑稽ねえ』


『いやっ違います、僕は自分なりの倫理観に反するこうい・・・・・』

 背中にふと硬いモノが当たる感触に気付き三島の感情が凍り付く。気付くと後ろに男が立って、耳のそばで荒い息を立てていた。


『動くなよ、少しでも動くとイッちまうぜ』

『・・・・・・はぁ、ふあぁ・・・・・・!!』

 動く以前に、息をするのも無理にでも意識していないとそのまま止まってしまいそうに感じていた。


『三島君、貴方との時間まあ余興としては面白かったわね。フフフ、じゃあごちそうさん。また逢えたらその時はアナタの好きなプレイで応じてあげるわ。まあないと思うけど』

『あああぁあああ!』

 何の音も感覚もなく、瞬時に意識だけがプツンと消え去った。


 大通りから一本外れた路地の奥に、ネズミやカラスしか寄らないようなゴミダメがある。

そのゴミの上にひとつの大きな塊が落ちていた。

 

 残飯を漁る動物さえ見向きもしないその固まりに、ひっそりと寄り添う存在があった。


 その感触を感じながら彼は、そのまま人としての死を全うするかもしくはまだ別の生き方を探るか、数秒の間目を閉じ考えることにした。(了)


―――――――――――――



 「ふぅーまあこんなとこだろう」

 私はほっと胸を撫で下ろす。


 差し迫っている新人賞へ向けての純文学作品がとりあえず出来上がった。あとは締め切りまでに多少ブラッシュアップして投稿するだけ。


 結末部分の意味するところは書いている自分自身でもよく分かっていないが、何となく曖昧な雰囲気だけを漂わせた終わり方になっていると思う。

つまり結末は読者に委ねてしまおうという意図だ。


 芥川賞など文学界における新人のデビュー作など大体はこういったテイストのはずだ。

文学なんてものは読む人それぞれによって無数に捉え方があり、それをいかに感じさせるかが重要なのだ。


 そして時代の空気感を捉えていること。これも上手く取り入れられたと思う。


 何がしたかったのか終始ふらついていた主人公三島のふらつき具合は、この感染症やそれにともなう不況により、彷徨うことを余儀なくされた現代の人々の感性に通ずる部分が大いにあるに違いない。


 トータルしてみれば、おそらく私が狙う新人作家向け賞レースのどこぞの編集者の目には引っかかるはず。

 漠然とだがそのような自信はあった。いやそう願うほかない。


 応募してしまえばあとは良い結果を信じて待つのみ。


いい結果であればおそらく初夏の頃までに連絡があるはずだが。たとえ投稿サイトの時のようになんの反応もなくとも、とりあえず今の私にはこの時代を生きる糧があるのでその分リラックスして結果を楽しみに待つことが出来る、そんな余裕のある心境だった。


 今から考えると新年前に、パートだとしてもこのスーパーでの仕事を得ていて良かったと思う。何故ならここにきて再び、世界的に大不況の真っただ中に入ってしまっているからだ。


 去年はウイルスによるパンデミックのせいでじわじわと不況が忍び寄っていたが、現在は感染症は落ち着きを見せているにも関わらず、経済は大きく停滞を見せ始めている。


 安定していたはずの株式市場が恐ろしいほどの急角度での下げ、クラッシュ現象を示し、日本経済もいよいよ疲弊の色を濃くしはじめていた。

求人などどこの企業もまともに出せるような状況ではなくなっている。


 報道によると、それはまたアメリカと中国による大国同士のメンツ争いによるところらしかった。


 成金を絵に描いたような前職の大統領は、民意によって既にその座を退いていたが、次の大統領もまた前に負けず劣らずの無能さを発揮し、しかもかなりの高齢ということでいかんなくそのポンコツっぷりを晒し、もはやその姿は凋落した現在のアメリカの姿を象徴しているようだと、世界中にあきれられている始末だ


 中国との商取引、および交流全般を一切遮断しそれを同盟国にも強要した結果、世界は冷戦時代よりさらに極端に分断されてしまっている。


 その結果世界のパイは急速に縮小し、不況になるのも必然なのだ。


しかしそれでもどちらが世界一の国家なのかメンツ争いの矛が収められない両国によって、世界は否応なく混沌のはざまに陥れられてしまっている。


 だからこの争いに決着を見る数年後までは我慢だと。


いずれアメリカが耐え勝つだろう、それまで日本も国民みんなで頑張ろうと、日本ではついに今年こそはオリンピックがやってくるのだから、景気はいずれ良くなると、そのように盛んにネットなどのメディアで取り上げられていた。


 だから私も我慢していられる。

小説を書きながら基本的な職まで持っているのだ。充分恵まれている方だ。好きなことをしながら、お金も生きる分は得られている。


 いくら不況であっても人々が生活上の必需品を求める需要までは決して失われないと、早めにスーパーの仕事を選んで獲得しておいて本当によかった。私には先見の明があった。


 だが小売業界とて、この不況により構造改革を迫られていることは間違いない。安穏としていてはしょせんパートである私だっていつクビになるかは分からない。


 事実、レジ自動化や警備・清掃ロボットの導入、

あらゆる作業の機械化などによって次々と余計な従業員のクビが切られ始めている。

 

 幸い私は仕事を滞りなく淡々とこなし、機械の扱いにも慣れている。さらに給料も安いということの使い勝手の良さからAIからの査定がよろしいようで、あなたは作業効率の良い模範的パート従業員だと、紙1枚のレポートを見せられ、大いにやる気がみなぎった。

 

 小説ではいまだこのような好評価は受けたことが無いものの、一般社会の歯車として評価されたことは、私にとって大きな自信となった。

この混迷の社会を生きていける資格を与えられたようなものだ。


 だから小説の受賞など淡い期待として持っていればいいのだ。


 そもそもこの不況のさなか、みな小説など読む余裕があるだろうか?少なくとも本好きな私であっても、ここ最近小説は読んでいない。




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