人生完全勝ち組は、人生負け組になり、そして幸せになりたい……!! ~イケメンと地位を隠して、本当の愛を見付けたい~
人生の勝ち組。
それは、イケメンだったり、お金持ちだったり、何かしら人に好かれやすかったり。
人生を充実している色んな人の事をいう。
しかし、実際には人生に勝ち負けはないし、それを決める基準は、自分や周りだったりする。
だが、他人から人生勝ち組だと言われたからと言って、自分も同じに感じているかと言ったらそうでもない。
例えばこの男。
喜原 勇也は、高校一年生にして、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。
そして、父親が世界的に活躍する企業のトップに君臨し、大金持ち、そして人脈もあり、優しさもある。誰にでも好かれ、男友達だって多い。
まさに人生勝ち組な彼。
中学生の頃から、ずっと学校の女子は勿論、他校の女子にまでモテモテな彼。
誰がどう見ても人生勝ち組。
だが、それは他人から見た印象であり、それを評価するのに、本人の心情は含まれていない。
本当は彼は大きな悩みを抱えていた。
彼に好意を抱くものは全て、顔やお金、地位、それを見て判断している。
誰も彼の優しさを、彼自身を見て判断していない。
欲しいのは、イケメンで、収入もかなりあって、そして地位もある。
女性たちは彼を、超優良物件としか思っていない。
本当の愛などどうでもいい。顔が良くてお金を持っていれば喜原勇也自信でなくても良いのだ。
だから、彼は決意した。
──人生負け組になって、本当の愛を見つけて見せる──
勇也はまず、両親に相談した。
勇也の両親は、家族思いで、勇也には別に会社をついでほしい等とも思わず「やりたいことをやれ」
そんな両親だ。
勇也の両親は、その相談を容易く聞き入れた。
まず、勇也は独り暮らしの為に、アパートを借りる。
のではなく、個人情報を徹底するためアパートごと買い取って、そこに家を借りていることにする。
そして、高校も、権利を親が買い取り、勇也の計画に支障をきたさないよう進めるために管理する。
その高校の先生も、信頼が置ける人を選別し任命。
そしてそこに、中学までの追っかけ達に情報が漏れないように入学。
学校自体は、中学自体に住んでいた場所から何個か県を跨いだ先にある。
しかし、稀にそこまでしても追いかけてくる人も居るため、情報管理は徹底しなければならない。
そして、これで下準備は完了。
後は、勇也の用途を隠すため前髪を目元が隠れるくらいまで伸ばし、そして眼鏡をかける。
瓶底眼鏡は今時はないし、流石に目立つため普通の眼鏡にする。勿論、伊達眼鏡である。
正直、長い髪に眼鏡は必要ないと思うかもしれないが、一応の為だ。
そして、最後にマスクを付けて完成。
「これが、俺………」
勇也の目の前の鏡に写っているのは、明らかに根倉で陰キャ、確実に勝ち組ではない用途だ。
これから、夢の高校生活が始まることに、勇也は胸を踊らせるのだった。
~~~~~~~~~~
「ここか……」
勇也は、これから通うことになる高校。
《私立南風高等学校》
その校門の前にいた。
(これから、ここで夢の高校生活が始まる)
そんな思いを噛み締めながら校門の前に立っていると。
「あの……」
突然、勇也の後ろから声が聞こえた。
急いで勇也が振り替えると、そこには、腰まで伸びたサラサラな黒髪を風に靡かせながら、此方を心配そうに見つめる女子生徒がいた。
「あ、はい。何か用ですか?」
勇也は、此方を見詰める生徒に訊ねる。
「あ、いえ。貴方がずっとそこで立って何かしているようだったから、大丈夫かなって…」
どうやら、ずっと校門前で考え事をしたりしている勇也が色々心配になって話し掛けてきたようだ。
「あ、すみません、ちょっと緊張しちゃって」
勇也は適当に陰キャにありそうなな理由で誤魔化す。
勿論、勇也はこんなことでは緊張したりしない。
何度も、家のパーティに招いた総理大臣達に挨拶をしているのに、こんなもので緊張するわけがない。
「あ、それ分かる! 入学して初日の日って本当に緊張するよね!」
なんとか、勇也の嘘を信じてくれた女子生徒は、話を聞いていて、勇也は活発な子なんだと認識した。
「あ、そういえば自己紹介してなかったね」
言われてみれば、勇也はずっと校門の前で名前も知らない女子生徒と話していた。
そんなことを勇也は全く気付いていなかった。
無意識のうちに女子生徒のペースに呑まれ、話に聞き入っていた。
「私はね──」
女子生徒が言い掛けたその時、丁度同じタイミングで学校のチャイムが鳴った。
「あ、早く行かないと遅刻だよ」
女子生徒は、先に行くねと、言い、行ってしまった。
「ッと、俺も行かないと」
勇也も急いで教室へ向かった。
教室に向かうと、まだ先生は来ていなかった。
これで入学早々先生に怒られるということは無さそうだ。
「えっと、俺の席は……」
勇也は自分の席を探す。
「あった」
どうやら、勇也の席は窓際の一番後ろらしい。
最初の席は、出席番号順になっている為、勇也が出席番号の一番最後ということになるだろう。
勇也は、急いで自分の席に着く。
「あ、おはよう」
席に着くと、隣に座る男子生徒が話し掛けてきた。
「俺は、霧野 勝。これから一年よろしく」
勝と名乗る男子生徒は、隣の勇也に握手を求めてくる。
「あ、ああ。よ、よろしく…」
勇也は、明らかに人見知りそうな雰囲気で握手した。
霧野 勝という男子生徒の印象は、簡単に言うと、優しい雰囲気を纏ったイケメン。
勿論、勇也には全然及ばないが、このクラス内では一番だろう。
その、勝と勇也が話していると、前方の扉がガラガラと開き、担任の先生と思われる人物が入ってきた。
先生が入ってくる。
担任は、女性の先生のようで、先生が入ってくると、周りで話していた生徒も静かになる。
「はい、この度は入学おめでとうございます。私は、担任の加賀美 陽子です。これから一年よろしくね」
加賀美と名乗る先生は、それから少し話をして、クラス内で自己紹介をすることになった。
主席番号順に何人かの自己紹介が終わり、次に出てきたのは、勇也が校門の前で出会った女子生徒だった。
「私は、桜井 友理奈です。部活はテニスをしたいと思ってます! よろしくお願いします!」
友理奈が挨拶をすると、クラスから「おー」という声が溢れる。
主に男子から。
友理奈は確かに誰が見ても美少女だろう。
それに、元気で活発な子だから、学校では男女共に好かれそうな感じでもある。
それから、何人もの生徒が自己紹介をしていく。
女子はほとんど勝の方を見ていたが。
そうして、最後に勇也の順番が回ってくる。
勇也は席を立つ。
「え、えっと、山原 勇也です。その…、よろしくお願いします」
完全に他からは、緊張で震えているように見えるが、勿論それも演技である。
母親が女優だということもあり、演技に興味を持ってやっていた時期もあったため、ほとんど人は見破れないだろう。
あと、当たり前だが、名前も変えている。
変えているのは名字だけだが、流石に下の名前まで変えるといつかボロを出しかねないからだ。
そこで自己紹介等が終わり、昼休みに入った。
すると、早々に女子達がこちらにやってくる。
いや、勇也の隣の勝の方へ集まってきた。
「ねぇ、霧野君ってどんな料理が好きなの?」
「彼女居るの?」
「付き合って!!」
隣は、まさに質問の嵐。
時折、此方を睨む視線があり落ち着けない為、後ろから気配を完全に消し、屋上へと向かった。
「本当、ああいうのって迷惑だな…」
ここに、中学時代の友達が居たら「お前はそれ以上にヤバかったぞ」と突っ込んでいただろう。
勇也は、持ってきた弁当を取り出す。
この弁当は、勇也の妹。柚奈が作ったもので、妹は勇也が独り暮らしをすることに反対で、じゃあ最後にこれを食べてと渡されたのがこの弁当。
「うん。旨いな」
勇也は、弁当を一人無言で食べ終わると、スマホを取り出し、あるアプリを開く。
《ドリーム・ファンタズム・オンライン》
というアプリゲームだ。
勇也はこれを、中学2年の時に配信してすぐに始めたゲームで、今でも続けている。
「エルさん居るかな?」
勇也が『エルさん』と呼んでいるのは、ゲームを開始してすぐに仲良くなったフレンドで、いつも一緒にイベントをしたり、チャットをしたりしている。
エルさんは、勇也と同じ年のようで、話も合う。
だから、勇也はエルさんを本当の友達のように感じている。
「あ、今日は居ないな」
フレンドリストを確認するが、どうやらエルさんはログインしていないようだ。
勇也は、今日は一人でイベントをやることにした。
「うーん。やっぱりエルさんがいないとなぁ」
イベントは一人でも出来るのだが、やはりエルさんが居ると居ないでは、効率も大分変わってくる。
勇也がそんな愚痴を溢しながらプレイしていると
「なにやってるの?」
「うん? ゲームだよ…」
突然、正面から女子に話し掛けられ、ゲームに集中している勇也は普通に返す。
(って、ん?)
今更にして、違和感に気づく。
どうして、こんな誰もいない屋上で声が聞こえるのか、と。
勇也は恐る恐る、顔を上げる。
そこには、不思議そうに此方を見詰める友理奈の顔があった。
「う、うわぁぁ!?」
「え、え?」
突然目の前に顔が現れたことで驚く勇也と、驚かれたことに困惑する友理奈。
「ああ、ごめんなさい。 別に驚かせるつもりは無かったんだけど…」
「いや、こっちこそ、ごめん。それよりいつの間にここに?」
「さっき普通に屋上の扉から入ってきたよ」と、友理奈は不思議そうに答える。
どうやら、勇也がゲームに夢中で気付かなかっただけのようだ。
「でもどうして屋上に?」
「え? それは、君を探してたんだよ」
「え?」
何故か勇也は友理奈に探されていた様だ。
「で、俺に何か用?」
「うん。今朝、名前教えるの忘れてたから教えようと思って」
はい? この人は何を言っているのだろうか?と、勇也の頭のなかはハテナで埋め尽くされた。
「いや、自己紹介をしたから大丈夫だよ?」
「あ……」
友理奈は完全に忘れていたようだ。
多分彼女は少し抜けているのだろう。
結局、暇なので昼休み終了まで話、教室に戻った。
教室に戻ると、授業中も含め、女子からの視線が痛い。
たまに、殺気を帯びた視線も浴びせられる。
その原因は、多分勝だ。
彼の隣が勇也見たいな冴えない陰キャなのが許せないのだろう。
女子達は皆「自分が隣だったら」と考えていることだろうが、こればかりは、出席番号で決まるため仕方ない。
そして、放課後。
やっとあの視線から解放されたことで、勇也は何故かスッキリした気持ちになっていた。
(でも、これがずっと続くのはキツいな………)
そんなことを思いながら、帰宅していると、後ろから違和感を覚える。
咄嗟に勇也は振り向くが、そこには誰も居らず、ここら辺には似つかわしくない黒い高級車が止まっているだけ。
(気のせいか? 多分、今日は色々あって疲れてるんだろう)
そうして、勇也は自宅のアパートへと帰宅した。
「逃げられませんわよ。愛しの勇也様…」
少女は車のなかで、勇也見詰めながら、そう呟いた。
~~~~~~~~~~
勇也は、独り暮らしをするにあたって、両親にあるお願いをしていた。
生活費を自分で働いて貯めたいと、
勿論、両親は過保護過ぎるため、反対したが、なんとか、自分が自由に使えるお金だけを貯めるということで、アルバイトを許可された。
多分、あの両親のことだから、普通以上の量の仕送りをしてくる筈なので、そこは最低限のことしか使わず、返金しようと思うが。
そして、勇也のアルバイト初日。
学校の生徒にアルバイトをしていることを隠すため、前髪を上げ、眼鏡とマスクを外して働くことにしている。
勇也は、自分のアルバイト先である、コンビニへと向かった。
「今日から、ここで働くことになりました。水原 勇也です」
コンビニで、アルバイト用の服へ着替え、従業員の人に挨拶をする。
このコンビニは、勇也の父親の企業が経営するコンビニで、店長にも、一応事情は伝えてある。
「それじゃ、水原君に誰かレジ打ちを教え──」
店長が言い終える前に「はい!」と、誰かの手が上がった。
「わ、私が彼に教えます!」
「待ってください、私が教えます!」
「いいえ、私が!」
女性達が、我も我もと、名乗りを上げる。
しかし、その反応も当たり前。
何故なら、彼女たちの目の前には、イケメン以上のイケメンがいるのだから、これを気にお近づきになりたいと思うのは当然である。
「えっと、じゃあ、最初に手を上げた方にお願いします…」
女性従業員内で争いが起きているなから、勇也がそれに終止符を打つ。
「はい! じゃあ、ちょっと着いてきて!」
女性は嬉しそうに勇也をレジの方へと案内する。
後ろからは、「悔しい!」等と、妬みの声が聞こえてくる。
「えっと、じゃあお願いします」
勇也は、目の前の女性に頭を軽く下げる。
「うん!」
~~~~~~~~~~
私の目の前には、絶世の美少年がいる。
透き通った肌に、全てを包み込む優しさを感じさせる目。
私は、一瞬で恋に落ちた。
近くの大学に通う私は、友達はいるが、恋人はいない。
そもそも出会いが無いのだ。
バイト先のコンビニにも、男は何故かほとんどいない。
居るとしても、中年おっさんの店長くらいだ。
しかし、ある時、私に転機が訪れた。
彼と出会ってしまったのだ。水原 勇也と。
彼の教育にすぐに名乗り出たが、周りの女達がそれを許さなかった。
だけど、彼は私を選んでくれた。
「このチャンス。逃すわけにはいかない!」
勇也の隣で女性従業員は決意を固めるのだった。
「ん? どうかしました?」
「い、いえ。何でもないわ」
~~~~~~~~~~
「ただいま~」
誰も居ない筈なので声がするはずもない。
「はぁ~疲れたなあ~」
勇也は、今日の出来事を振り返りながら呟く。
これからも、ずっとこれが続く。
だが、本来の目的『本当の愛を見つける』を達成するためにも、頑張らなければならない。
明日もまた、学校だ。
これから本当の愛を見つけ、そして
「負け組で幸せになる」