タマゴ
この作品は、家族に「ネタを下さい」と言ったら「タマゴ」と言われたので書きました。
《転がる……? 転がるってなんだ?
そもそも、ここはどこなんだ?
真っ暗な空間。瞳という概念がないのか、見るということは出来ない。ただの意識の塊だった。
そもそも、僕は人間だったはずだ。拉致か? 誘拐か? 死んだのか……?
混乱する思考は、再び転がる感触で止まる。僕は焦る。
このまま転がっていくと、僕は誕生もしないまま死ぬ。いや、生きていないのか?
焦ったところで自分ではどうにも出来ないことすら、考えつかないほど焦っていた。
助けてくれ! どうして意識を取り戻してそうそうに、死ななくちゃいけない? 僕は絶対に役に立つ。そうだ、こんな賢い僕を殺していいわけないだろう。
喚こうにも、口がない。暗闇が嗤うように揺れる。
『っと、あぶねぇ』
温かな何かが、僕を掴んだ。
気がつくのが遅い! 僕がどれ程怖かったか!
八つ当たりしようにも、手足はない。その温かな手が壊れ物を扱いように僕を触る。
そして、温かな場所に置かれた。その瞬間に意識が揺らぐ。再び意識は闇に沈んでいった。》
私は文章を読み返した。そして呟く。
「目玉焼きが食べたい」
そう思った瞬間に、私は台所に向かった。フライパンを取り出し、コンロの上に設置する。冷蔵庫を開けると、ちょうどハムがあった。
「よし」
ハムとタマゴを冷蔵庫から取り出す。コンロの火を点けた。
油を引いて、ハムを敷く。そしてその上にタマゴを落とす。綺麗に割れた殻から、ゆっくりと落ちる黄身を追いかけるように白身がフライパンの上に落ちた。
ジュッ
肉が焼ける美味しそうな匂いが台所に漂う。塩と胡椒をふって、数量の水を入れる。そして蓋をした。
しばらくまって、蓋を開けると、橙色になった黄身を包み込むように白身が固まっている。ゴクリと喉を鳴らしながら、最後に水分を飛ばす。
《隣には、タマゴを温めていた男の子が涙目でフライパンを見つめている。タマゴからは、ついぞなれなかったひよこが、天使の輪を頭に被り、翼で親指を立てている》
想像したら面白い。
「出来上がり!」
ハムがカリカリだ。ちょうど良い焼き目が入っている。
私は出来上がったそれを皿に移し、テーブルに運んだ。
「いただきます」
黄身を崩さないように、白身を箸で切る。そして、黄身だけを口に運んだ。口に入れて噛んだ瞬間に、半生の黄身が口の中で溢れる。塩と胡椒がちょうど良いアクセントになり、タマゴ本来のおいしさを引き立たせている。
幸せをかみしめたあとは、白身に箸をつける。白身の下に引いたハムを、切って一緒に口に運ぶ。
じゅわっと口の中にハムの肉の味が広がり、そこに白身の味が後押しする。
「うまい!」
ほっぺを抑えて声にならない声を上げた私は、一気に食べてしまった。
「おいしかった。ご馳走様でした」
そして再び執筆の準備に入る。次は何を書こうか……
読んでいただきありがとうございました。