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紬ちゃんは驚かせたい  作者: ミズヤ
第一章
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第2話 ラグのある少女

「あそこはねぇ〜。呪われてるんだよぉ〜。夜中に物音がしたり〜、泊まった人が急に体調を崩したり。まぁ、だから君にも言ったけど、あまりオススメできないんだぁ〜」

 だが、そんなことは問題にはならない。

 なぜなら俺はそんな非現実的なことは信じていないからだ。信じていなければ怖くないものだ。要は気持ち次第と言う訳だ。


「まぁ、もし本当にそんなことがあったとして、死にゃしないでしょ? なら大丈夫です」

 そう言うと大家さんは驚いた表情になった。


 そして次にこう言葉を紡いだ。

「勇者……っ!」

「いや、そんなに過大評価されても困るんですが!?」

「いや、だってね? 今までその部屋に泊まろうとした人はこの話を聞くと口を揃えて皆『キャンセルで』って言うんだよ? それから比べたら君は勇者。いや、雲の上の人と言っても過言ではないね」

「過言だよ。……あなたは俺を何だと思ってるんだ」

 はぁ……。頭が痛くなって来た。

 早速ここにしたことを後悔し始めている自分が居る。


「まぁ、取り敢えずようこそ露木荘へ。これが204号室の鍵だよ」

 と204と書かれた鍵を手渡された。これで俺はあの部屋に在住する権利を得たと言うわけだ。

「お隣さんも居ますので、仲良くやってくださいね〜」

 それだけ言い残すと何かのボタンを押す大家さん。


 なんだろうか? と思ってると急に俺の体を浮遊感が襲った。エレベーターが降る時と同じだ。

「って! 地面がなくなってるぅぅっ!」

 エレベーターなんて生易しいものではありませんでした。


 この浮遊感の正体は紐無しバンジーだった様です。

「そうかぁ〜。今のボタンって床を開くためのボタンだったんだぁ〜」

 現実逃避して大家さんと同じ口調になってしまう。

「って! そんな呑気なことを言ってる場合じゃねー!!」

 俺の頭はおかしくなってしまった様だ。セルフツッコミをしてしまう位に。

 あの大家、頭おかしいんじゃねぇーのか? いや、薄々気がついては居たけど、急に紐無しバンジーをさせる人なんて聞いたことがないぞ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 叫びながら落ちる。

 俺、今日が命日なのか?


 そして、下が見えてきて死を覚悟したが──死ぬことは無かった。

 横から伸びてきたアームに掴まれた。どゆこと?

「あの大家、またこんなことをして……。下にマット引いてあると言っても痛いもんは痛いよ」

 文句を良いながら俺を引き寄せる同い年くらいの女の子が光のあまりない薄暗闇にチラッと見えた。

「大丈夫?」

 横側にこんな穴が開いていたのか。そう思っている間に、彼女は自分の立ってる足場に俺を立たせる。


「……大丈夫です」

 そう返事すると、女の子は「そう」と関心なさそうに言う。

「それじゃ、ここから出るから着いて来なさい」

 その言葉と共に女の子は歩き出した。


 道は狭く、人一人分しか通れないような幅の道の為、縦に並んで女の子に先導して歩いてもらっている。


「そう言えば君はどうしてここに?」

「……」

 俺が問いかけるも女の子は無言のまま何も言い出さない。

 無視ですか? そう思った次の瞬間──

「あの大家の馬鹿な事から助けようと思った」

 時間差で女の子は抑揚の無い声でそう呟いた。

 こ、この距離でタイムラグ!?


「そ、そうなんだ〜。と、所で君は?」

「知らない人に情報は開示しない。これ常識」

 またまた抑揚のない声で言う女の子。


 確かにそうだ。

 よく創作物なんかでは『君は誰?』『私は〇〇』とか言うやり取りがあるが、現実には無いだろう。

 そうそう初対面で名前は名乗らない。まぁ、これに関してはしょうがない。助けてくれたんだから名前くらい覚えておきたかったんだが仕方がない。


「そうか……。じゃあ俺は助けて貰ったお礼に一方的に言うわ」

「……へ?」

「俺の名前は才間優斗! 今年度から高校生になり、この近くの高校に通う為にこの露木荘に引っ越してきた。部屋番は204番よろしくな」

 俺が噛まずにスラスラと言い切ると女の子は目を見開いて固まってしまった。恐らく、一方的に言ったことによって少し引かれてしまっただろう。

 だが、自己満だ。

 俺は何よりも自己満を大事にして生きている。だから他人にどれだけ引かれようとも俺には関係ない。


「隣……っ!」

 驚いた様子で何かを呟く女の子。とりあえず引かれてるのは間違いない。


「でも、よくあの部屋にした。どうせ聞いてるんでしょ? あの部屋のこと」

 何を聞いたかは言われなかった。だが、何に関することかは直ぐに分かった。

「ああ、聞いた。聞いた上であそこにした」

「……物好き」

 小声で物好きと言われた。


 俺はよく、昔から『お前は物好きだな』とよく言われた。

 現実主義な癖して心霊番組が好きだったり。だから俺は変わり者とかもよく言われた。


「さて、もうすぐ出口」

 呟くと直ぐに天井を押し上げ始めた。

 いや、だからなんでさっきから若干のタイムラグがあるんだよ。もう少しじゃなくてここが出口じゃねーか!


 そして押し上げた先に見えたのは先程まで俺がいたアパートの裏だった。

 まさか、こんな所に通じてるなんてな。


「私は他にもやらなきゃいけない事があるからここでお別れ」

 女の子はそのまま歩きながら言った。

「そうか。ありがとうな! ラグ子(・・・)

「……」

 そして俺が手を振って自室に向かおうとすると、少し無言になって立ち止まってからこっちに走ってきた。


「ラグ子って私の事!?」

 めちゃくちゃ近い距離まで詰め寄ってきたもんで、俺は後ろにのけぞってしまう。


「あ、ああ」

「…………やめて」

 すごい冷たい口調で言ってきたため、少しの恐怖を覚える。

「お、おう。で、でもさぁ? 呼び名ないと不便じゃないか?」

 そう言うとラグ子(仮)は考える仕草をした後、ラグ子はこう言った。

(そら)って呼んで」

「空?」

「…………うん空。青空の空」

 空……か。

「それがお前の名前なのか?」

 そう言うと空は首をブンブンと横に振った。


「……私の髪色」

 そう言われて髪色を見てみると、さっきまで暗かったからよく分からなかったけど、確かに色が青より薄い青。空色と言った色だった。

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