第16話 才間優斗さんはやはりペドマさん!?
次の日の昼休み。
俺は隣の席の空と話していた。
「あのさぁ、俺の知り合いに空って呼べって言ってきたやつが居るんだけどさ、紛らわしいからお前、改名してくんね?」
「無茶言うな!!」
とりあえず俺は今の所、中学時代の知り合いは居ないものの、何とか苦労しないレベルでは友達が出来た。
左右の空と茅良木さん。この二人がとりあえず俺がよく喋る人だ。
とりあえずは二人だけで良いとの考えで、俺の考えは狭く深くだ。あまり友達は居なくても2,3人仲のいい人を作れりゃそれでいい。
「そういやお前さ、茅良木咲楽さんだっけ? その人と最初から仲良かったよな? 何、君達はもしかしてそういう関係なわけか?」
「余計な詮索はせんで良い。あと違うからな。俺にじゃなくて茅良木さんに迷惑がかかるから気をつけろよ」
すると後ろから抱きしめられるような感じがした。
視線を上に向けてみるとすぐそこに茅良木さんの顔があった。
立っていると頭一つ分位俺の方が高いのだが、俺は今座っているから茅良木さんの方が高くなっている。
そして何よりにやにやしている部分に嫌な予感がした。
「そうだよー。ねーゆう君?」
やっぱりだ。
この状況で普段と呼び方を変える。それは状況が分かってるのに態とそうやっているに他ならない。
しかしこの状況でこんなことをやっていると確実に勘違いされ──
「やっぱりお前らはそういう」
……遅かったようだ。
ちなみに本当にそういう関係ではなく、ただ単なるゲーム友達だ。ただそれしか今は思ってない。
え? 昔はって? ……ノーコメントで。
「ちげーよ」
そっと茅良木さんの体を離す。
昔の俺だったら抱きつかれた時点でパニックに陥ってしまい、冷静に対処することが出来なかっただろう。
だけど今の俺は茅良木さんを友達と思ってるからそこまでパニックにはならない。
たしかに抱きつかれてドキッとしたよ? しかも茅良木さんのそこそこ大きい物が背中に当たってるんだからこれでドキッとしないやつは男じゃねぇっ!
「んじゃあなんで仲良いんだ?」
こいつも聞き分けの良い奴で助かった。
「まぁゲームの趣味が尽く合うもんでな、一緒に遊んでる内に仲良くなった」
「へぇ〜じゃあ今度、俺も混ぜてくれよ」
「俺らがやってるのは主に格闘ゲームだぞ?」
「……へ?」
空は驚きの声をもらした。
分かる、分かるぞその気持ち。茅良木さんにあまりにも合わないゲームだ。だがしかしその腕はプロ級。まさか中学生時代に部屋に籠って格ゲーを極めていた俺に軽々と着いてくるなんてな。……違うぞ? 俺は別にボッチじゃないからな? 妹や母さんに「あんた(おにぃ)友達いないの?」と心配された事があるが、その心配は一切無用。友達くらいは居る。……本当に居るからな?
「ちなみにお前の得意ゲームは?」
「レースゲームを少々」
「お引取りを」
別に俺と茅良木さんが出来ないわけじゃない。寧ろめちゃくちゃ出来る。
何回かやったことがあるが、1P,2Pでオンライン対戦をしたのだが
3位の人に半周位の差をつけてワンツーフィニッシュをした。しかも殆ど差がなく、コンマの差で決着が着いたくらいだ。
それで俺らは悟った。
レースゲームをオンラインでやっても俺ら二人の勝負になるなら格ゲーで1VS1やってた方が楽しいって。
「じゃあ見学させてください」
なんでそこまで懇願すんだこいつ。見るだけで楽しいもんなのか? 分からん。
俺は基本ゲームをやるってなったら観戦者では無く、プレイヤーになるから観戦は楽しいものなのか正直分からん。
「まぁ、良いけど物を壊すなよ」
「お前の中での俺は一体……?」
そんな会話をしながら俺は弁当を取り出した。もう時間もあんまりない。急いで食わなければ。
「あれ? お前って弁当だっけ?」
隣の空が驚くのも分からないでもない。だって俺はいつもコンビニ弁当を買ってから学校来てるから作ってきてないのだ。
と言っても俺は簡単なものしか作れないし、めんどいから作らないけどな。
妹が居たら注意されるんだろうな……「おにぃの生活態度は悪すぎます! こ、こんな事をやってたら……本当に私無しじゃ生きて行けなくなるじゃないですか〜」と言いながら嬉しそうに頬に手を当てるんだ。可愛い。なぜ嬉しそうなのかは不明だが……。
「ん? 優斗君。一口貰ってもいい?」
茅良木さんが急にそんなことを言ってきた。別に俺は断る理由も無いので二つ返事でおかずを明け渡す。
「ん!? これ、結由ちゃんの味だ! どういうこと!?」
「ん? ああなんかさ、今日の朝はインターホンの音で目が覚めたんだ。んで、玄関扉を開けてみるとそこには弁当を持った結由ちゃんが居て、渡されたってわけだ」
そして中に入っている卵焼きを一口頬張ると口いっぱいに出汁の味が広がって最高だ。
「うんまっ! なにこれ!」
隣の空にこっそり1つ持ってかれてたようだ。
だがこんなに美味いものは手を出したくなるのも当然。俺は空を許そうではないか。
「所で結由ちゃんって?」
「ああ、私達の住んでるアパートの管理人さんの妹で、歳が私たちよりも下なんだよね」
その年齢の解説要るか? 絶対に俺を陥れる為に説明しただろ。
「あぁ……ロリコン」
納得したようにうんうんと頷く空。納得しないで!? しかも真剣な眼差し。まるで「性癖なんて気にするな。人それぞれ人に言えないものを持ってるものさ」とでも言いたげな目、やめろ!
「でもさ、優斗君って本当に結由ちゃんと仲良くなったよね。最初なんて怯えられてたくらいなのに……もしかして……手を」
「断じてない」
俺はそんなにランドセルを背負ってる小学生に手を出すようなクズに見えてるのか?
「まぁ、優斗君がペドマさんなのは置いておいて」
「置くな! ケリをつけろ」
なんかこんな会話、前にもした気がするんだが?
「優斗君って凄いよね」
「何がだ」
「全てのボケを捌ききってる所?」
「意図してボケてたのかよ」
尚悪いわ!
「わーたーしーもーたーべーたーいー!」
さっきから無視していたが、授業中もずっと俺の膝の上に座ってて邪魔だったんだが、そろそろ限界だぞ? かと言ってここで注意するわけにも行かない。
だから俺の取った策は──立ち上がること!
そして俺は勢いよく立ち上がる。それによって俺に体重をかけていた紬ちゃんは膝から滑り落ちて床をすり抜けて落ちて行った。
これで一安心だな。
「みなさーん! あと5分ですよー」
冬ちゃん先生が入ってきた。マジかよ早く食べないと。そう思って弁当を書き込むと目の端で冬ちゃん先生が入口でつまづいて倒れたのを見てしまった。
さすがドジっ子で可愛いみんなのアイドル冬ちゃん先生だな。尚、属性は闇だけどな。