第11話 紬ちゃんは意図せずポルターガイストを起こす
「あえて名乗るとするならば空潤司。そう名乗らせてもらおう」
その瞬間、クラス中がシーン静まり返ってしまった。
さっきまで元気があって、申し訳ないが正直鬱陶しいとすら思っていたあの冬ちゃん先生すらも俯いてしまったじゃないか。
「か、」
すると冬ちゃん先生は口を開いた。多分怒られるな。空、元気でやれよ。
「カッコイイっ!!!」
その瞬間、クラス全員がズコーっと倒れ込んでしまった。
俯いてるから怒ってんのかと思ったらまさかまさかの展開。
目がさっき以上にキラキラと輝いている。
ああ、これあれだ。
申し訳ないが先生の精神年齢は見た目年齢に依存していると言っても過言ではないぞこれは。
「カッコイイです! 空君!」
「……え?」
いや、お前が驚いてどうする空。お前が名乗ったんだぞ? 責任取って先生の相手をしろ。
「あ、えっと……。くくく。我は魔界よりこの地にやって来た。我を讃えよ!」
お前、それを続けんのか……?
と言うかお前、もしかして厨二病じゃないな!? キャラ作りのためにやったら先生に好評だった為、続けることにしたんだな? お前、自ら茨の道を進むんだな。
先生の前ではその設定をやらなきゃいけないから苦労するぞ?
「はい! 魔界から来た空潤司君。よろしくお願いしますっ!」
涙を溜めながらこっちを見てくる空。
こっち見んな。お前が撒いた種だ。
そんなこんなで二件ほど事故紹介があったものの、無事(じゃないと思うが)自己紹介は終わりを告げた。
空は自業自得だが、冬ちゃん先生の中では魔界から来たちょーかっけぇ奴って事になっていた。
空、俺はお前に同情しねーぜ。
そんなこんなで、今日は自己紹介して多少プリントを配られただけで終わった。
保健だよりやらオリエンテーションプリントだからさらっと見ておけば別に問題は無いだろう。
そして今俺はと言うと、
「なぁ」
「何?」
「紬ちゃんはこんなの見ていて楽しかったか? と言うかお前居たか?」
「ん? 楽しかったよ? 自己紹介じゃなくて事故紹介ね。ふふふ」
やめてやれよ。そこピックアップしてやるのは、ふふふ。
俺は今、紬ちゃんと話していた。
久しぶりの登校に疲れきった俺は床に寝転んで仰向けで紬ちゃんと話していた。
その紬ちゃんは俺の横でペタンと座っているようにそこに居た。
触れないから少し浮いているはずなのである。
「私は居たよ? ずぅーーっと、傍にね?」
「……どこにだよ」
「あれ? 怖がらない? こういう言い方したら人は怖がるって聞いた事があるんだけど」
確かに怖がるだろう。……表情がニヤニヤしていなければな。
ニヤニヤしながら言うもんじゃねーよ。
「ぐぬぬぬ。……どうやったら才間さんは怖がったり驚いたりするんですか!」
「……そうだな〜。幽霊の手料理って結構怖いかもな」
俺は出来もしない事を言うつもりでそう言った。
「ほっ!」
すると何かを思いついた様子の紬ちゃん。
嫌な予感が。
「才間さん! お昼まだでしたよね?」
「そうだな」
「なら私が作ってみせましょう!」
何を言ってやがるこの幽霊は。
「まぁまぁ、見ててください!」
器具に触れないのにどうやって作るんだ?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「……俺が馬鹿だった」
「すみませんすみません! 本当にすみません」
俺の目の前で謝り倒す女の子──紬ちゃんである。
なぜこんなに紬ちゃんが謝り倒しているかと言うと、
「ある意味驚いた」
「驚いた感じしないんですけど!?」
「呆れてんだよ。まさかポルターガイストを起こすとは」
そう。
紬ちゃんは念力やらなんやらで浮かして調理しようとしたらしいが、使い慣れていなかったせいで包丁は暴れて壁に突き刺さり、フライパンは俺の顔面にダイレクトアタックし、食材はそこら辺に散乱している。
何を隠そう、これら全て紬ちゃんがやったのだ。
せっかくダンボールが積まれているとはいえ、綺麗だった部屋が一瞬でボロボロに。
お隣の海ちゃんさんは今までより凄い音がしたせいか、心配して電話をかけてくる始末。……海ちゃんさん優しい。
途中でインターホンを鳴らしてきた茅良木氏は部屋の惨状というか、フライパンやら包丁やらが飛び交っているのを見て苦笑いを浮かべながらゆっくりと扉を閉めて去って行った。
逃げんじゃねーっ!
まぁ、これを見たら逃げたくもなる。
しかも茅良木さんは最中の光景を見てしまったんだからな。
それにしても、これどうするか……。
晩飯の時間になったら結由ちゃんが来てしまう。さすがにこんな光景は見せられない。
しかしまぁ、俺はポルターガイストを経験したのは初めてだ。
「なぁ紬ちゃん」
「は、はい! な、なんでしょう?」
俺はニコニコと笑みを浮かべながら紬に近寄る。
「まぁ、起きてしまったことは仕方が無い。これ、結由ちゃんが来る前に片付け終わるかな?」
「……固形物は浮かせられますが、汚れはどうしようもありませんしねぇ」
いや、紬ちゃんのポルターガイストだけは今後使わせまいと誓ったから紬ちゃんには何も求めてない。
しかし、実家から持ってきた保存食全部ダメにしたな。今度買い出し行かないと。
「ねぇ紬ちゃん?」
「な、なんでしょう?」
「紬ちゃんは何もしないでくれ。お願いしますから」
今度は俺が頭を下げる側だった。
「あ、頭を下げないでください! 私が悪いんですから! あ、あの……はい! 何もしないのを頑張ります!」
頑張んないでください。
その数時間後、外は既に真っ暗だが、まだ俺は片付けが終わっていなかった。
その時、玄関の方からインターホンの音が──
「まずい!」
急いで俺はインターホンに出る。
「はい!」
「ん? 才間さん珍しいですね。出てこないなんて」
扉を開けられないからな。開けた瞬間、中が全て見えてしまう。
「あーちょっとな」
「どうしたんです? な、何か問題が!?」
確かに問題がありましたが、君が気にすることではないよ。
「いや、その……だな」
「どうしましたか?」
「俺は今、全裸なんだ」
その瞬間、外から凄い音が聞こえた。
世間体で危ないが、この部屋を結由ちゃんに見せるよりはマシだ。
「紬ちゃん。とりあえず結由ちゃんに言い訳してきてくれ。結由ちゃんは紬ちゃんの事知ってるんだろ?」
「分かりました! 任せてください!」
すると壁をすり抜けて外に出ていく紬ちゃん。
『才間さんの部屋が大惨事なんです!』
誰が本当のことを家って言ったあのクソ幽霊。
しかもドヤ顔だし。
どうですか! 私やりましたよ! ってドヤ顔してるし。
するとガチャっと嫌な音がした後、結由ちゃんが部屋に入ってきた。
「片付けならお手伝いします!」
その瞬間、やる気に充ちた顔が歪んだ。
「では、ここにご飯を置いておきますので、それでは」
そそくさと帰ろうとしている結由ちゃんの腕を俺は掴んだ。帰らせねーよ?
「見やがったな」
「ひ、ひぃっ!」
「見られてしまったらしょうがない」
「や、辞めてください! 私を食べても美味しく──」
「手伝ってください!」
俺が頭を下げると、紬ちゃんは「へ?」と素っ頓狂な声を出した。




