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9.

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 小五の冬休み、暇を持て余し過ぎていた彼女は、たまたま僕が図書館から借りて来ていた本を読み始め、あるページを開いたところで手を止めた。


「これ。なんて読むの?」

「どれ」


 国語のドリルとのにらめっこにいそしんでいた僕は、顔も上げずに彼女に問い返した。


「これ」

「だからどれって」

「これ」

「どれ」

「これ」

「どれ」

「これ」

「どれって」

「これ」

「……どれ?」

「これ」

「ちょっと今手が離せないから、どうにかして伝えて」


 意地の張り合いで負けたのは僕。こういうので勝てた試しがない。


「かねかねるネズミよし」

「呪文?」


 ずい、と、僕の視線と大問四の間に、小学生が読むには小さい文字の本が差し込まれた。

 国語ドリルの問題文よりも小さい文字。


 そうだ、怪談のたくさん並んでいる本棚の中から適当に選んだうちの一冊だったはずだ、これは。

 もちろん当たり前の様な顔をして、きまぐれについてきた彼女が、読みもしないのに僕に借りさせた本である。

 何の気まぐれか、この時は読んでいたのだが。


 適当に借りたものだから、本の難しさは明らかに小学生のレベルを逸脱していた。

 「鎌鼬」を、結局僕も読めず、この数時間後に帰宅した僕の母親に聞いたのだった。


「かっこいい」

「何が」


 両親が帰宅してのち、夕食を済ませた後も、我が家より両親の帰りが遅い彼女は、僕の家の、居間の、僕の隣で、こたつの同じ「辺」のところに潜り込んでいた。

 うつ伏せの姿勢で上半身をこたつから出したこたつむりな彼女は、ずっと飽きもせずに、かまいたちのページを眺めていたらしい。


「これ」

「どれ」

「かっこいい」

「へえ」


 振り返ると本を指し示しているようだが、絶妙に彼女のツインテールが本を隠していた。ちなみに彼女の髪型はこの時からすでに僕がセットしていたように思う。


「あとちょっとで国語のドリルが終わるから、ちょっと静かにしてくれ」

「わかった」


 直後だった。

 右脇腹。彼女が寝転がっている方に違和感を感じ、鉛筆を握っていない方、左手を持っていく。


「濡れてる……?」


 生暖かい。手を離すと指先が赤くなっていた。血だった。


「は?」


 なんで? と、続きかけた言葉は行方を失い、消えた。

 その時着ていたティーシャツの右脇腹の辺りが薄く裂けている。


 右側。

 丁度、彼女が手を伸ばせば届くか届かないかの距離。


 その微妙なリーチを、彼女の小さな右手に握られているものが埋めていた。


「お前、それ、なにやってんの……?」

「つむじ風と共に現れ。刃物で切り裂く。カマイタチ」

「は、はあ? お前、はあ?」


 自分でも何を言っているのかが、何を言おうとしているのかが、分からなくなってしまっている。


「かっこいい」


 彼女の右手には、カッターナイフが握られていた。


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