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8.

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 彼女は、突然、思い出したように、「カマイタチを殺す」と口にする。


 これには理由がある。

 どうにも不注意で、手先指先に切り傷擦り傷がよくできるのを、つむじ風に乗って現れ鋭い刃物で斬り付ける怪異、カマイタチのせいにしているものだから、カマイタチを殺してしまえば彼女は傷を得ることが無くなると、そう信じているのだ。


 これをいつから言い出したのかというと、ちょうど小学校五年生の時だ。

 冬休み、宿題を全部僕に押し付け、僕が二人分の宿題をやらされる羽目になったのだが、では押し付けた張本人が有意義な時間を過ごしていたのかと言えばそうでも無く。

 算数や国語のドリルを二冊ずつ並べる僕の隣でこたつに入り──いや、入り込み、ごろごろだらだらしていただけの彼女は、あろうことか、「暇だ」と言ってのけたのだ。


 さすがの僕もこれにはカチンときた。今ほどぼんやりしていなかったものの、我が儘さ加減においては今の比ではなく、逆らおうものなら僕が泣くまで悪口を言うような女(小学五年生)に、がつんと言ってやったのだ。

 そう、「本でも読めば」と。我ながら情けない限り……


「このとき清少納言は――」


 一時限目は古典の授業だ。

 お世辞にも得意とは言えない古典の授業なので、授業を真面目に受けねばならないとは思えども、学校の授業というものは大体、授業に関係ないことを考えている時の方が眠たくならないものなのである。

 僕が真面目に授業を聞こうとすると、五分で机を枕にすることになってしまうのだ。


 横目で彼女の方を見やると、なにやら板書をノートに写しているように見える。見えるが見えるだけで、実際は落書きに違いない。


 一度勉強のできる奴のノートを見せてもらおうと思い、覗き込んだことがあるのだが、彼女が一生懸命ノートに書き込んでいたのは、創作お菓子のレシピであった。

 僕に作らせる用の。

 毎回いつそんなもん用意してんだと思ってはいたが、まさか授業中だとは思いもしなかった。ちなみに指示はアバウトで、「ピリッとして甘い」だとか「辛さのある甘味」だとか、ふんわりかつ理解に苦しむものが多い。


 彼女の適当なレシピでは当然まともなものが出来るわけがないのだが、毎回それを「おいしい」と言って食す彼女は甘ければ何でも良いんじゃなかろうかと思わせる。


 今日は「生クリームが食べたい」ってもはやレシピですらない……。

 帰りに買って帰らねばと脳内にメモ。


「これ公任の宰相殿の、を、えっと、今日は六月八日だから……八番、笹川、訳してみろ──」


 左隣。笹川が立ち上がる。


 そういえば何を考えていたのだったか。彼女がどうしてカマイタチを殺そうとするようになったのかだ。

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