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「帰る」


 彼女は言った。破けそうなほど水着を握り締め、彼女は絞り出すような声で言った。


「帰る」


 繰り返す彼女。

 僕は彼女の左手首の包帯が外れかかっているのに気が付いた。


「カマイタチ」


 まるで刃物で切り裂かれたような切り傷がそこにはあった。彼女のミルク色の肌に走る、一本の赤い線。

 彼女の目には涙が浮かんでいる。僕は彼女から水着を受け取ると自分の鞄にしまい、代わりにガーゼと包帯を取りだした。

 綺麗な傷口だ。適切に処置を施せば、きっと傷は残らない。


「カマイタチ、に、やられた、の」

「カマイタチなんていない」

「やられたの」


 カマイタチなんていない。夜の闇が照らされ、あらゆる現象に科学のメスが入る現代である。

 カマイタチなんて怪異──存在するはずがない。ありえない。可能性が無い。

 僕は強く否定する。これは彼女が自分につけた傷だ。飛び出た釘か何かで引っ掻いてしまったとか、そんなことに違いない。

 彼女には決定的に注意力が足りないのだ。素肌を出していようものなら、大抵は何かに引っ掻かれたり擦り付けたりして傷を創る。

 それを彼女は、カマイタチにやられたと思い込んでいるのである。


「いいか、カマイタチなんていないんだ」

「いたのッ! カマイタチが! 私の、私の手をッ!」


 落ち着け、と、彼女を抱きしめる。

 腕の中で彼女は滅茶苦茶に暴れ、振り回された腕が顎や目に当たったが意識しまいと努める。

 彼女が切り傷を見ただけで錯乱してしまうようになったのには原因があるのだ。

 それも、彼女はもちろん、僕としても、あまり知られたくない理由だ。


「大丈夫、大丈夫だから」


 そして、僕と彼女以外に、知る人のいない理由だ。


「僕が。僕がいるから」

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