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「雨の日は『鎌鼬』は出没しない。ガスガンの弾がまっすぐ飛ばない上に、中のパーツが傷むから」
「やっぱりお前も調査してたのか」
「鎌鼬」が出没し始めて以降、放課後になると彼女が姿を消していたのは、やはりそういうことであったらしい。
何となくそんな気はしていた。
「じゃあ、あたしが昨日しーちゃんを見たのって……」
自前の短い髪ではぎりぎり隠れない羽生の首元には、大きなガーゼが貼られている。
「そう。『鎌鼬』を調査してた」
「で? 『鎌鼬』の顔は見たのか?」
彼女は頭を振った。
「正体までは分からなかった。でも多分男。肩幅」
「もしかして眠い?」
「こいつらのせいで疲れた」
こいつら……クラスメイトのことか。
「あはは……まだあたしはしーちゃんと笹川君のどっちが犯人なのかは判断を付けられないけれど、もしも濡れ衣を着せてあんなに強く詰問したんだったら、あとで謝らせて」
「おい羽生、いいのかそんなことを言って。うちの姫様は我が儘だぞ、多分裸踊りじゃ済まないぜ」
「軽口は笹川君が犯人であることが確定してからにしてくれないかな」
この場の流れなら、笹川が犯人である説を皆が支持してくれそうだ。
動機や決定的な証拠が足りないのだが、僕も『鎌鼬』の正体は笹川で間違いないと思う。
「一旦整理してみようか。容疑者笹川は、誕生日に知人から改造ガスガンをもらった。ガスガンやエアガンは決して他人に向けて撃ってはならないシロモノだが、笹川はその禁を破り、最初の事件を起こした」
「最初の事件が起こった、六月の第一土曜日。笹川の誕生日の丁度翌日」
「の、早朝だ。まだ人の少ない時間帯に、笹川は男子児童を撃った。多分小動物なんかを撃ったりしているうちに人間も撃ってみたくなったとか、そんな感じだろうな」
そして、
「その翌日に広瀬さんを撃ち、また次の日に……ってなっていって、マスメディアが『鎌鼬』の再来とか言うようになってから、笹川は自分の犯行をよりそれっぽく、鎌鼬っぽくなるように変えた」
広瀬さんの指には、恐らく切り傷じゃなくて痣が出来ているはずだ。だから笹川は、先程僕が広瀬さんに包帯を外すよう強要した時、あんなに抵抗したのである。
僕の調べた限りでは、他の被害者はみな切り傷を訴えているみたいなので、この推測が間違いである可能性は低いだろう。
「羽生。お前を撃った時、笹川は、私に顔を見られたと思った。お前、今朝、笹川になんて聞かれた?」
「現場で……黒の長髪あるいは服を着た、小柄な人影を見なかったか──? って」
「で、お前はこう答えたわけだ。僕の推測だけど、『言われてみれば……見たような。ちょうど、しーちゃんみたいな……』」
あくまで僕の推測だが、きっと似たようなことを答えたはずだ。
はたして羽生は、頷きを返してみせた。肯定。
「すごい。ほとんど同じだよ。……で、あたしの言葉を聞いて、笹川君は『やっぱりな』と言ったの。『そいつは、しーちゃんだ』って。被害に遭って気が動転してて、ちっとも疑わずに信じちゃって……自分が情けないや」
その時、教室前方のドアが蹴破られた。
「やあ、『鎌鼬』。遅かったな」
入ってきた笹川が何か言う前に、先んじて言葉を放つ。
「参った、俺の負けだ。そうだよ、俺が『鎌鼬』だ」
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