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 結局学校が終わるまで、彼女の髪型はお団子のままであった。

 僕は可愛いと思うのだが、彼女は気に入らないらしい。


 五時限目と六時限目、ホームルームの間中不機嫌そうに口元をへの字にしていたが、嫌なら解けばいいのに。

 彼女はお団子の解き方を知らない。

 無頓着すぎる。無頓着が過ぎる。


「解け」


 これだ。命令形。

 表情の乏しい、っていうのは彼女のことをよく知らない奴らが勝手に貼ったレッテルなのだ。

 実際には彼女は表情豊かである。今は怒りと羞恥がないまぜになったような表情を浮かべていた。


 彼女の命令は絶対だ。別にそんな血筋であるとか、身分が違うとか、全然そんなことは無いし、そもそもここは現代日本だが、彼女はお姫様で、僕は従者なのだ。

 我が儘なお姫様と、ちょっといじわるな従者。命令されたら断る事ができない。


「後ろ向きで座れ」

「うん」


 彼女が僕の膝に腰を下ろす。そういうつもりで言ったんじゃないんだけど。というか近すぎて作業が出来ないし、できれば別の椅子に座ってほしいな──とは思えど口に出さない。わざわざ彼女のために引いた椅子を、足で蹴って机の下に戻す。


 クラスメイトは今更僕たちに何かを言うことはしない。入学から丸二年と二か月が経過して、校内に我が儘なお姫様の存在を知らない者はいないのだ。

 僕は不本意だがそのお姫様の従者あるいはお世話係という扱いになっている。らしい。

 せめて保護者だろと言ったところ、確かにお兄ちゃんみたいだと言われたが、妹ってこんな感じなのだろうか。


「早く」

「ああ、うん」


 ちょっと触ると簡単にお団子は解ける。せっかくなのでゆるく三つ編みにしてみようかとも思ったが、一つか二つかにするかを決めかね、結局面倒になってやめた。夜空が頬をくすぐる。


「海。行く。決定事項」

「泳ぐのか?」

「泳がない。埋める」

「埋める? 何を」


 彼女は僕の膝から腰を上げると、両手を広げて二、三歩を踏み出した。

 夜空が揺れて広がった。


「カマイタチ。──今夜、殺すの」


 へえ、と、話半分に聞き流す。


「危ないことはするなよ」


 一応注意はすれど、きっと家に帰るころには忘れているに違いない。


「殺す。今日こそ」


 彼女は、肌を晒すのを嫌う。

 その理由は。

 肌を晒していると、カマイタチに斬り付けられるからだ。

 ──と、信じているからだ。

 彼女の左手首には真白い包帯が巻かれている。

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