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「なにって、切り傷……じゃ、ないのかな……?」

「違う。銃創だ」


 僕が真実を告げると、思わず、といった調子で羽生が笑みをこぼした。


「あは、それは面白い冗談……じゃ、ないよね」

「普段からジャーナリストになる夢を掲げて、少々危ないネタなんかを体を張って掴みに行ってる奴が、このクラスにはいるよな」

「……笹川だ」誰かの呟きを起点にして、どんどん言葉が波及していく。「えっ、あっ、そういやあいつ、自衛の武器とか言ってスタンガン持ち歩いてたよな?」「そういや二週間くらい前、笹川の誕生日だっただろ?」「あっ、知ってる! 知り合いのお兄さんに改造ガスガン貰ったんでしょ!」「そうそう。そっからはスタンガンとガスガン、両方持ち歩いてたんだよ」


 そろそろ情報の共有は大丈夫かな? と思った辺りで、僕はカッターナイフを教卓に突き刺した。

 刃はしまってある。先端部の金属が歪むくらいの勢い。

 鈍い音がして、また教室が静まった。


「さっき笹川に、屋上に呼び出された。どうしても教室に返さないというから暴れたら、ガスガンで撃たれたんだ」


 今度はみんなに見える様に、右腕を掲げる。

 垂れた血が教卓に落ちた。


「羽生が言ったように、切り傷みたいに見えないか?」


 実は腹や足にも二、三発ずつくらいもらっていたが、それらは正面からの直撃で痣になっているだけだ。


「暗闇でいきなり撃たれたら、切り付けられたと、そう勘違いしてもおかしくない」

「でも、被害者は全員刃物で切られたと言い張ってるんだよね? あたしは詳しくは知らないけれど、ガスガンの弾なんかが直撃したら、もっと痣みたいになるんじゃないかな」


 羽生が手を上げて言った。

 僕は教卓に突き立てたカッターを逆手に持ちかえると、引き抜きながら口を開く。


「僕も縁日の屋台で当てた奴とか、いくつかエアガンは持っているけれど、アレ、自分の思い通りに飛ばして直撃させるのって、実は難しいんだ」


 だからこんな風に、と、右腕の銃創を指差し、


「的の表面を掠って傷を作ったり、そもそも当たらなかったりする。ガスガンも威力はあっても同じはずだから、訓練された兵士でもない一介の高校生が持ったところで、思い通りに着弾させるのは難しい」


 ガイドの金属部分は歪んでいるが、刃は問題なさそうだ。

 出し入れにも差し支えはない。


「もしかしたら──狙われて撃たれたけれど、着弾しなくて未遂になった事件とかも含めたら、もっと事件数は増えるかもしれない」


 それに、ここは『鎌鼬』のいた町だから、と続けて、


「犯人が見えない点、傷口が切り傷に見える点、この二点で、被害者は、自分は『鎌鼬』に刃物で切り付けられたと勘違いしたんだ」


 つまり、


「凶器は刃物。まず、この時点でみんなは間違えていたんだ。凶器はガスガン──間違いないな?」


 だろ?

 僕が視線を向けると、彼女は、


「うん」


 と頷きを返した。もう目に涙は浮かんでいない。

 一体何を考えているのか全く分からない、いつもどおりの表情だ。

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