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「なあ、広瀬さん」
背後にいるであろう、広瀬さんに呼びかけた。
左手を持つ方の手がびくんと跳ねる。
やはりこっちの方は広瀬さんだ。
「ちょっと包帯を取って傷口を見せてくれないか」
「広瀬さんはここにいないぞ」
「笹川には言ってない。僕は今、僕の左手を拘束しているつもりの間抜けな広瀬さんに言ったんだ」
言うと同時、僕は手首を拘束していた紐から手首を抜いた。
切れた半透明のビニールテープが屋上を吹く風に巻き上げられ、姿を消す。
いくら足が遅くとも、力は百八〇センチの男子高校生だ。女子相手に負けるほどではない。
というか彼女以外にだって、足の速さでは負けたことが無い。恐るべきは彼女の野生動物じみた運動能力である。
僕は右手のカッターナイフを構え、屋上の中心から移動した。
背中をフェンスに預け、静止する。
カッターは右ポケットに入れてあった。
ずっと袖の中に隠してあったものを、拘束されたときに少しずつ操りテープを切ったのである。
「いるじゃないか、広瀬さん。包帯とってよ」
「これは……」
「取らなくていい」
いつの間にか移動していた笹川が広瀬さんの包帯の辺りを抑えた。
「いいのか? こっちはカッターナイフを持っているんだぞ。僕は、彼女の為なら何でもする。お前たちに切り付けるかもしれないぞ」
広瀬さんと笹川。
ちょっと離れたところで女子生徒がもう一人。顔も見たことないような生徒だ。
「さあ、さっさと包帯を外すんだ、広瀬さん」
彼我の距離、走って五歩。少しずつ、彼らとの距離を詰めていく。
「外さなくていい」
笹川が言う。
「外さなくて? なあ、笹川。もしかして、外せないの間違いじゃないのか? 広瀬さんの指は、本当は怪我なんてしていないんだ」
笹川にそう言って、広瀬さんにカッターナイフを突きつける。笹川まで、あと三歩の距離。
「動くな」
声の主。
今度動きを止めることになったのは、僕の番だった。
笹川がポケットから取り出したのが、日本人の手には少し持て余すようなサイズの拳銃であったからである。
「もちろんモデルガンだ。当たっても死にはしないが、改造して威力を上げてある。当たったら死ぬほど痛いぞ」
「わざわざ自分から名乗ってくれるなんて──これはこれはご丁寧にどうも。『鎌鼬』さん」
お返しにと僕のカウンター。笹川は「へえ」と、気の抜けた返事を寄越した。
僕の〝口〟撃は有効打を与えられなかったみたいだ。
「俺が『鎌鼬』? そんなわけないだろ」
対峙。睨みあう。
「笹川と広瀬さん、それとそこの女生徒。それから……多分羽生も。共犯者は何人だ?」
僕は笹川への疑問に答える代わりに、反対に疑問を返した。
「共犯? 待て待て、俺が『鎌鼬』であることが前提で話が進んでいるじゃないか」
「そうだよ、笹川君は、被害に遭った私たちのために犯人探しをしてくれてて……。だから、そのガスガンも、自衛のための武器なんでしょ?」
広瀬さんが言った。
笹川は手帳を閉じると、ガスガンの銃口を僕に向ける。
「お前の可愛いお姫様が第一容疑者だ。証拠は揃っているんだ、一連の『鎌鼬』事件は、容疑者の自白を持って終結する──」
そこで僕は気がついた。
「お前、僕を教室に行かせたくないって……彼女になにをしてるんだ! 答え──」
踏み込んだ足元を撃たれる。爪先数センチに着弾。
「次は当てるぞ」
笹川が言い、僕は──
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