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「その『鎌鼬』は、六年前のそれと同一犯だったのか?」

「それはわかんねえな。羽生も、被害に遭った時にそいつを見たってだけで」

「そいつってのは?」


 屋上。僕だけが呼び出された。彼女への連絡は禁止。昼休みの間だけでいいから屋上で拘束──

 それらのキーワードが導く答えは、どう考えても一つだ。


「まあ、なんだ。そんなにがっつくなよ。順を追って、俺の立てた仮説を話してやる」


 まずは六年前だよな、と、笹川は人差し指を立てた。


「犯人はその時、小学校高学年だった。で、動機はわからないが、俺たちが知っている通り魔事件を起こした。被害者が子供、とりわけ小学生ばかりだったのは、犯人が小学生であることの証拠の一ピースとなり得るだろう」

「中学生と幼稚園児も襲われてるらしいぞ」

「幼稚園児と小学校低学年の区別がつくもんか。被害者の中学生の女の子も、どちらも一年生で、しかも小柄だったんだよ。小学生と見間違えても無理はねえ」


 相槌を打つ。

 とりあえず、笹川の言う仮説とやらを最後まで聞こうと決める。


 余計な口を挟んだ方が、おそらく話は長くなってしまうのだろうから。


「で、最近復活した『鎌鼬』だが、お前が言ったよな、被害者の年齢層が変わっていると。当時小学校六年生、一二歳だとすれば今はもう一八歳、高校三年生だ。同じ高校生を襲うくらい、造作もないだろう」


「犯人が見えないトリックはどう説明するつもりだ」


「まず六年前だが、犯行時刻はすべて小学生の下校時間が終わった直後くらいの時間帯だった。これは大体日没間際か日没後になるわけだが、そのときに夜闇に紛れれば、薄皮一枚切り付けられたってすぐには気付かない」


 視線だけで話の続きを促す。


「ひるがえって最近の『鎌鼬』だ。この市は、駅前をちょっとでも外れると、真っ暗なところがごくわずかでもないという場所はかなり少ない。黒い服でも来てれば簡単に紛れられるんだよ。カッターナイフでも持って闇の中に潜んでおけば、犯行後はともかく、獲物が近づいている時は気付けないだろうな」


「広瀬さんは指をかなり怪我していたみたいだったけど、さすがにあんな怪我をするくらい強く切り付けられたら気付くんじゃないか? その場で」


「細い路地が入り組んでいるところもある。暗闇で、しかも犯行後すぐに走って入り込んだら犯人の顔なんざわかんねーだろ」


 恐らく背後にいるのは広瀬さんだ。

 名前を出した時、わずかに僕の左手を握っている方の手が強張った。

 もう一人も、うちの生徒で被害者の奴に違いない。


 長袖のカッターシャツを着て来たことがあだとなってしまった。

 もしも広瀬さんが僕を捕まえているのなら、僕の左手に触れている感触ですぐに本人かどうかを判別できるのに。

 包帯が巻いてあればほぼ確実にそうだ。


「で? 一応聞くけど、その『鎌鼬』さんは、一体誰だって言いたいんだ? お前は」


「だからな。お前の大事な大事なお姫様だよ。六年前に小学校高学年であるという条件も満たしているし、同じ小学校だったやつに聞いたら、当時も小柄だったらしいな。その上で、昨日、羽生が襲われたときに、走って逃げる姿を見たっていうんだから──間違いない」


「あいつはそんとき、黒色の服を着ていたのか?」


 僕は彼女のクローゼットの中身を脳裏に思い浮かべた。

 洗濯自体は彼女のお母さんが仕事から帰ったあとにしてくれているが、それを畳むということを、下着だろうが何だろうがお構いなくすべて僕に押し付けてくるもんだから、むしろ彼女よりも僕の方が彼女のクローゼットの中身を把握しているくらいである。

 僕の記憶だと、黒やそれに似た色の服は一着も持っていなかったはずだ。

 彼女が自分から服を買うとも考えられないので、当日黒い服を着ていたのならば明らかに間違いだろう。


「羽生から聞いた話によると、着ていたらしいな」


 笹川がそう答えてくれたので、これで彼女が犯人である疑いは晴れた──


「彼女は黒い服を一枚も持っていないぞ」

「あれだけの髪だ、遠目だと黒い服を着ているのと同じだろう。充分闇に紛れる」


 ──しかしそうもいかなかった。

 笹川はどうしたって彼女を犯人に仕立て上げたいらしい。

 彼女が「鎌鼬」でないことは、本人よりも僕が一番知っているのでなんとも歯がゆい気持ちを噛み締めた。


 右の眉が痙攣する。

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