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無差別連続傷害事件、通り魔「鎌鼬」はまだ捕まらないし、彼女はまだ「カマイタチ」を殺せずにいた。
羽生に詰問された翌日、昼休み。
「俺様は、お前の彼女が『鎌鼬』じゃねーかと思う」
僕は笹川に、屋上に呼び出された。
「えっと、もっと順を追って説明してくれないか」
四時間目が体育で、更衣室に行って授業を受けて、帰ってくるまでの間が、互いがトイレに行くとき以外だと唯一離れ離れとなる時間帯だ。
その隙に僕は笹川に拉致された。あれは呼び出しではなくて拉致だった。
どう考えても。
「今お茶の間を騒がせている連続傷害事件。今の所被害者が分かっているだけでも、この市だけで二四件だ。対して、この市の外での事件は、四つの市と二つの郡を合わせてわずかに七件。警察の見解では、犯人はこの市に拠点を構えていることになっている。被害者が気付かないうちに犯行を終え、また、その傷口が切り傷であることから、犯人は怪異になぞらえて『鎌鼬』と呼ばれている」
笹川は手帳に視線を落としている。ときおりページを繰って行ったり来たりするのは、それだけ膨大な情報量なのだろう。僕は手持ち無沙汰な右手をポケットに突っ込んだ。左手は体操服の入ったカバンを持っている。
手帳を手にした笹川は、転落防止のフェンスを背にしていた。そこから数メートルの距離を取って僕。
僕は言葉を作ること無く、笹川の次の言葉を待った。
「で、えっと、こっからがまだ公になっていない情報なんだけどな」
「どうしてお前が公になっていない情報を持っているのかは聞いた方が良いのか? 信憑性は?」
「まあ、被害者から直接聞いた話だからな」
へえ、と、僕は相槌を打つ。
「ウチのクラスの委員長の羽生、わかるよな。あいつが被害に遭った。昨日だ」
僕は鞄を右手に持ちかえると、今度は左手をポケットに突っ込む。
「羽生が?」
挙動を怪しまれないように、大袈裟な返答。
笹川は手帳に視線を落としているので、僕の挙動はばれていないようだ。
僕は左ポケットの中にある「あるもの」を取りだすと、笹川に言う。
「なあ笹川、ちょっとだけ時間をくれないか」
「おっと、そうはいかねえんだよな。今はお前と、お前の愛しのお姫様に通話させるわけにはいかねえんだ」
「話が長くなりそうだから、先に弁当を食べておいてくれって言うつもりだったんだけどな」
僕が携帯電話を左ポケットの中にしまうと、笹川は「悪ィな」と言った。
両手を上げる。──否、自発的に上げたのではない。持ち上げられたのだ。
「どうすればいい?」
「昼休みが終わるまで、ここにいてくれたらいい。悪いようにはしねえよ」
どうも屋上には、僕と笹川以外に人がいたらしかった。
僕は囲まれている。
背後に何人かいる気配はあるが、両手を上に吊り上げられてしまったので振り向く事ができない。
僕はこれでも百八〇センチメートルはあるので、相当の巨漢か、あるいは脚立でも置いてあるのか。
僕の手首に触れる手のひらは四つ、おそらく両手が二対。ビニールテープのようなもので縛られたらしい。背後には想像通り脚立があった。
「教室では何が行われているんだ? サプライズパーティかな」
「羽生がな、見たんだよ。犯人を。姿の見えない『鎌鼬』の、その姿を」
笹川の言葉を聞いて──僕は軽口を叩くのをやめた。
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