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 僕は彼女の言葉に危険を感じ、身構える。


「体育の授業中、しーちゃんに、君のことをどう思ってるか聞いてみたの。そしたら、彼女、こう答えたんだよ。奴隷──って」

「白だ」

「えっ、あ、ハズレ。正解は『穿いてない』でした」

「嘘だ!」

「もちろん冗談だけれど、あたしの興味を他に惹こうとしても無駄だよ。ちなみに白じゃないのは本当」


 誰も聞いていない。

 今のところは羽生が上手だが、僕が絶対に口を割らなければ彼女が羽生に秘密を漏らすこともないはずである。僕が守らなければならないのだ、彼女を。


「つまり何が言いたいんだ」

「いやあ──一人の人間を奴隷にしてしまうような秘密なんて、一体君は、どんな弱味を握られてるんだろうな、って」


 羽生が髪を掻き上げた。

 僕は汗が湧くのを感じたが、気にせず、努めて意識しないようにし、平静を声に乗せた。


「あー、できるだけ人に言いたくは無かったんだけど、言わないと家に帰してくれないんだよな」

「そう、そのつもりだよ」


 考える。

 この場において、何を言うことが一番正しいのかを。


「部屋に隠してたエロ本を見つけられたんだけど、それが世間一般ではかなりアブノーマルで倒錯的な奴で」

「へぇ。で? ホントは?」


 僕の嘘が嘘であることを疑わない羽生に、僕はあくまで事実を言っているんだと主張する。


「で、そんなエロ本を持っていることをバラされたくなかったら奴隷になれって。そう言われたんだよ」

「あそこまで傅くレベルの性倒錯って、一体どんなジャンルなのかな」

「それを答えたら、僕はお前にも仕えなければならなくなってしまう」


 真顔。

 ずっと真顔だった羽生は、そこで急に相好を崩した。


「あっはっは、そうだよね。うん、気分を害したのなら謝るね。ちょっと、ちょっとだけ、気になったっていうかさ──」


 帰ろっか、と言って彼女は、こちらに背を向けた。再び「ほら、早く」と急かされたので、警戒は解かずに羽生の隣に並ぶ。

 先程まで羽生が纏っていた、肌を焦がすような空気はもう感じられない。豹変、そう豹変だった。脇の下と背筋に嫌な汗が溜まっているのを感じる。


「アブノーマルなエロ本が見つかったから、君はしーちゃんの言うことを聞いている。そうだね、君がそう言うのなら、そういうことにしておこうか」


 繰り返されるともっとましな文言はなかったのかと恥ずかしくなったが、それはさておき。

 僕は家を特定されないように、羽生がもう近くだから良いよと言ったあたりまで送り届けてから帰宅した。


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