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 通り魔「鎌鼬」に出会わないか心配しながら、徒歩で帰宅。

 通っている高校の最大の良かったところは、歩いて通えるところだ。全力で走れば七、八分で通う事ができる。

 情けないことに、彼女はもっと早く行くだろうが。


 通学路を一本ずれると、国道沿いにスーパーがある。僕はそこでサイダー、桃とパインの缶詰を買った。

 僕の財布の中から支払われるお金は、大抵彼女のためのものである。彼女は彼女で自分の分のお小遣いをもらっているのだが、それは「将来使う用」とか何とか言ってずっと貯金し続けているらしい。


 彼女の両親はともになにやら重要なポストで働いているので、月の小遣いはかなりの額をもらっているはずだが……それが一円でも僕のために使われるというようなことは無い。


 エコバッグにペットボトルと缶詰を放り込み、包みごとリュックにしまう。

 ちょうどスーパーを出た時であった。


「ん。あれ?」

「あー、ちょっと待って下さい今思い出すので」


 僕と同じ高校の制服を着た女生徒に声をかけられたのは。咄嗟に名前を思い出せなかったので、左手を広げて「ちょっと待て」のポーズ。


 僕は三年生なので、先輩である可能性はありえない。県内五指……とはいかずとも、十指くらいには入る進学校であるうちの高校では、他の学校に比べて、留年した生徒もごくまれの例外を除きほとんどいない。はずだ。とりあえず敬語は必要ない。


「今ココまで来てる。ココまで来てるから」

「どっから出す気……?」


 僕は額から手を離した。


「えっと、その」

「羽生。羽が生きるって書いて羽生。一応クラスメイトなんだけどな」


 羽生……言われてみれば、なんとなく教室で見たことがあるような気がしないこともなくはない。名前も何となく聞き覚えがあるようなないような。


「人間の顔ってどれも似てるし、あんまり覚えらんないんだよな」


 ふと僕が漏らすと、羽生は心からおかしいというような笑い声をあげた。


「──あははは! 面白いね、君。うん、ナイス冗談だよ!」


 僕としては冗談じゃないんだけど……。

 第一に、同じクラスになっただけの人間のことを、たったの二か月で覚えられるわけがないのだ。一年二年と同じクラスにいればさすがに覚えるが。


「家、こっちなんだね。どの辺?」


 僕は左手の方を指差した。


「あの辺。消防署の角を曲がって坂道を登ったとこにある集合住宅」

「え、じゃあまさかのご近所さん? あたしの家もその辺なんだよね」


 羽生がはにかんだように笑うと、可愛らしい八重歯が覗いた。そうだ、委員長だ。僕のクラスの委員長、それが彼女だ。今更ながら、どうにか思い出した。


「もしかしてヒメ中?」

「うーん、あたしは高校進学と同時にここに引っ越してきたから、中学校は違うよ。あたしの記憶が確かなら、クラスメイトであるところの君と話すのも初めてかな」


 羽生が会話の途中で歩き出したのについていかずにいると、「一緒に帰ろうよ」と催促。

 仕方なく、僕は彼女の隣に並んだ。

 クラスメイトとは言えど、僕からしたらほとんど初対面みたいなものなのでなんとなく気が引ける。


「ねえ君、ずっとしーちゃんといるでしょ? 付き合ってるの?」


 今度は悪戯気な笑み。やはり覗く八重歯が悪戯っぽさを強調する。


「しーちゃん……?」


 しーちゃんという名前に聞き覚えがない僕。


「君の彼女ね、皆そう呼んでるよ。不思議ちゃん。『ふしぎ』の『し』を取ってしーちゃん。ふーちゃんはもういるから、繰り上がったんだね」

「彼女じゃないよ」


 僕が羽生の言葉が途切れるのを待ってそう言うと、彼女は目をぱちくりさせる。


「え? 付き合ってないの?」

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