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 その後彼女は、現場を見つけた僕の母さんに怒られたあと、真顔で「ごめんなさい」とだけ言いに来た。


 彼女のカマイタチへの好奇心は、実際に何かを切り付けてみるという形で発露したのだ。

 適当に放り出してあった僕の筆箱からカッターナイフを取り出し、手ごろな場所に居た僕に切り付ける。

 なんの躊躇いも無かったようで、その点やはり、彼女は「違う」。


 一度謝ったから彼女の中では良しということになったようで、直後僕に平気で絵画コンクールの宿題を押し付けてくるあたり、彼女はやはり神経が図太かった。

 僕は脇腹を切られてから既に一、二時間は経過しようというのに心臓のドキドキが止まらなくて、その日は結局眠れなかった。

 思えば僕は、小学校五年生にしてもう、初めての徹夜を経験していたらしい。ちなみに彼女は、八時過ぎにはこたつの中で体を丸めて寝息を立てていた。


 眠れなかったおかげで、彼女に押し付けられた分を含めた宿題は、その日のうちに全部終わったのだが、翌日彼女が忘れてたと言って書初め用の半紙を持ってきたときは、墨汁で顔に落書きしてやろうかと思ったがやめた。


 でもやっぱり思い直して羽子板をやろうと提案すると、コテンパンに負けて顔面を真っ黒にされた。

 落書きとかそんなレベルじゃなくて、隅々までまんべんなく、真っ黒だ。


 悔しかったので、テーマが将来の夢だった書初め、彼女の半紙には「うんこ」と書いておいた。

 殴られた。

 結構本気のグーパンで。

 多分最後の乳歯だった右の奥歯がその時に抜けたので、相当な威力だったと思う。


 まあそれはさておき、昨日の出来事がまるでなかったかのように、ごくごくいつも通り振る舞う彼女に、僕も事件があったことをすっかり忘れ、三学期が始まる。


 ちなみに書初めの宿題だが、彼女が適当に書いたミミズみたいな文字が何かの書道コンクールで金賞を取ったらしく、僕はまた一つ、世の理不尽というものを知ったのであった。

 そして三学期もつつがなく終わり、春休み、一学期と続いて、夏休み──

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