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作者: 茶トラ

”ねぇねぇ、もし転生できるとしたら、どこ行きたい?私はね、やっぱり今やっている乙女ゲームの世界かな?モブでもいい、動いている推しをこの目で見てみたいー。”


あれ?なんだこの記憶。

制服を着た女の子が二人仲良く話しながら歩いている。

その後手を振って別れて、一人になったところで暗転。

感じるのは身体への強い衝撃。

最後の光景は、自分の手から滑り落ちたスマホの画面。

流れているのは、今一番夢中になっていた乙女ゲームのオープニング。


ああ、これは私の記憶。

私が私じゃなくなった時の記憶だ。

そして今、私は─────。


※※※


「おい、何ボーっとしているんだ。早く行け。」


私は今、某有名人主催のパーティー会場の片隅でスタンバイ中。そして私の隣では仕事仲間のイケメンが顔は笑顔だが、小声で私をせかしている。

つい先ほど、前世の記憶を思い出した私は、今いる自分の立場に軽くめまいを覚えそのまましゃがみ込みそうになっていた。


ここは乙女ゲームの世界。

そして私はヒロイン。


そこまではいい。

いや、良くもないけど。


問題なのは、この乙女ゲームの舞台とヒロインの立場だ。


──────怪盗。


そう、ヒロインの職業は怪盗。

そして、ヒロインの役割は─────。


ハニートラップ要員。


お目当てのお宝の品を盗み出す際、ターゲット先のイケメンやら対立する立場の警察のイケメン達をハニトラにかける役割だ。

怪盗なだけに、危険でハラハラするシナリオや颯爽とお宝を盗み出すかっこいいシーンが盛りだくさん。

勿論乙女ゲームなので、様々なイケメン達と大人の恋の駆け引きや、ターゲットとの立場が違う切ない恋心をこれでもかと楽しめる。

ヒロインがハニトラ要員なため、少々セクシーなシーンが多いこのゲームは、とても人気があったのだ。

そのヒロインに私がなるなんて…。


いや、無理、無理だって!

マジ無理----!!

だって私はごく普通の女子高生だったんだよ。



「本当に何やってんだよ、ターゲットが出て行ってしまうぞ。」


今の自分の立場を再確認してさらに眩暈がひどくなっている時に、また先ほどの仲間のイケメンが早く行けと合図を送ってきた。


なんだこのイケメンは鬼畜か。

っとこの顔見おぼえあるぞ。確か俺様要員だった人だ。

最初はヒロインに対して厳しく指導してくるけど一度絆されるとどこまでも甘くデレる人だ。


ってそんなことはどうでもいい。

帰らせてくれ。

ただの女子高生には荷が重い立職業だよ…。

しかも私は彼氏いない歴は年齢の分だ。

純粋培養な乙女だよ。

ユニコーンも速攻懐く生娘だよ。


神様、転生させてくれるのら、転生先を選ばせて欲しかったよ。

え?乙女ゲームが良いって言ってたって?

ノンノン、あの願いは私じゃなくて友達の願いだったんだよ。

うっかりがすぎるよ、神様…。



「ほら、行って来いって。」


ここにいない神様に向かって心の中で文句を言っていた私の背中をトンを押し、ターゲットの方に向かわせようとする仲間のイケメン。


なんという鬼の所業。

あんまりな態度に瞳に涙を浮かべ、唇を噛みしめて、イケメンに向かって睨みつけようとした瞬間。

誰かとぶつかり、ふらりとよろけそうになった。


「っと、すみません。大丈夫ですか?」


あ、転ぶ。と思った瞬間、ぶつかった人の片手が私の腰に周り、そのままグイっと引っ張られた。


「あ、ありがとうございます。失礼いたしました。」


引っ張られた反動で、ヒロインの豊満な胸を彼に押し付け、ターゲットの胸にしがみつくような体勢になってしまった。

慌てて、上目遣いで相手を確認し、お礼を言ったところ。

幸か不幸かターゲットその人だった。


押し付けられたた2つのたわわな果実は。

触ってくれとばかりに主張していて。

上目づかいで見た瞳は潤んでいて。

先ほどまで噛みしめられていたため赤くぷっくりとした唇はキスをせがんでいるようで…。


意図せずハニートラップは見事に発動していた。


「ああ、これはいけない。もしかしたら足を捻っているかもしれないね。私がお嬢さんの足になりましょう。」


間近でヒロインのハニトラを受けてしまったターゲットは有無を言わせずお姫様抱っこし、そのまま自室へと颯爽と私を運んだ。

それをよくやったとばかりに仲間はウインクして私を見送った…。

…マジか…。



ターゲットの部屋の寝室らしきところへと押され、そのままポスンとベッドへと降ろされた。

ターゲットのイケメンは私の足元へ跪き、そっとヒールを脱がせてそのまま足首からゆっくりと手を這わせる。


「大丈夫?痛いところ、無い?」


その手つきはとても妖しくて…、。

うひょ!くすぐったいから触るなって!!

そう思わず声に出したはずなのに。


「あ…ん。そんなとこ、触っちゃ、だめなのぉ。」


…は?

私は自分の口から出たエロい吐息の様なセリフと声にびっくりした。

私が思った言葉と私の口から出た言葉が妙にエロイものに自動変換されている。

ヒロイン補正?これヒロイン補正か??


そしてその言葉にさらに調子に乗ったターゲットがさらに大胆になってきて、ジャケット脱ぎ捨て、ネクタイを緩めて私の顔にそのきれいな顔を近づけてきた。


「なら、ここ、かな?赤くなっていて、綺麗だけど、痛そうだ。」


さっきまで噛みしめていた唇に指を這わせながら、ますます顔が近づいてきて。

あ、ヤバイ。これキスされるわ。


私の中のヒロインは、これはチャンスだとそのまま受け入れる体制で目を閉じようとする。

だけど、私は。

私、は。


「ダメ!キスするの初めてなの。だから…しちゃダメ!」


傍にあったマクラをターゲットの顔にぶつけて、そのままベッドから立ち上がる。

ターゲットから離れながら、脱ぎ捨てられたジャケットやら、テーブルの上にあったライターやリモコンなど目につくものをこれでもかとターゲットにぶつけながら部屋を飛び出した。

相変わらず言葉は甘えた感じのヒロイン補正がかかっていたが、行動はヒロインではなく私の意思が勝ったようだ。


ダッシュでエレベーターではなく階段で一階まで駆け下り、会場を出て、目立たない場所でズルズルと座り込んだところで、仲間のイケメンが近づいてきた。


「ずいぶん早いな。…どうした?トラブルでもあったか?」


いや最初からトラブルしかないわ。


そう言いたかったけどまたヘタに喋ったらヒロイン補正がかかりそうだったので、無言のまま先ほどターゲットの部屋でつかんで投げそこなった鍵らしきものを投げつけてやった。

うるせぇボケ、これでも食らえ と心の中で罵倒しながら。

ヒロイン変換したらきっと「もう知らない、いじわる」とかになるのかなってちらっと思った。


「おっと、さすがだな、こんな短時間で目当てのものを盗ってくるなんて。よくやった。」


激しく投げつけたつもりだったが、あっさりとキャッチされたうえ、なんか知らないけど褒められた。

どうやら私が適当に掴んでターゲットに投げそこなったものが今回のお目当てのものだったらしい。

いや、マジ知らなかったから、これもゲーム補正だったのだろうか。


「さて、ミッション完了だ。帰るぞ。」


そう言って私の腕を掴んで立たせたところで、仲間のイケメンの顔が少し歪んだ。


「おい、靴どうした?」


「あ、慌てて部屋飛び出したから…。」


ヤバイ、置いてきちゃった…。


うん、ベッドに座らされた時点で、脱がされていたね、そういえば。

まぁ、履いてたら、ダッシュできなかっただろうけど。


「ほら、乗れよ。」


仲間のイケメンが私の前でしゃがみ込み、乗れと背中をこちらに向けてる。

これは…おんぶしてくれるの?


えーそれはちょっと恥ずかしいのでは…。

と戸惑っていると、早くしろと怒鳴られた。


「…失礼します…。」


おずおずと背中に体を預けて、おんぶしてもらった。

立ち上がる瞬間、ぐらっとしてイケメンの首にしがみついたのはご愛敬だ。


その瞬間、ヒロインの武器の巨乳が仲間のイケメンに押し付けられた上、「キャッ。」とヒロイン補正がかかった甘い叫びがイケメンの耳元で囁かれたことにより、彼の好感度がかなりあがっていたらしい。

その時はまっったく気付かなかったのは致し方ないと思う。


そのうえ、忘れてきたヒールを片手にまた、この時のターゲットが私の目の前に現れるなんて、知りたくもなかった。


この時はただただ、疲れていて。

やっぱり転生先は選ばせて欲しかったと、心の中で神様に文句を言っていた。


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