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02「事故ではなく事件」

「お坊ちゃま。気を強くして聞いてください。しかし、まぁ、このようなことを言わねばならない役回りになるとは、何とも」

「前置きは良いから、さっさと話せ」

 苛立たし気にギルバートが無駄口をやめさせると、執事は厳粛な面持ちで告げる。

「はい。さきほど、病院から電話がありまして、旦那さまと奥さまは、自動車事故を起こしたそうでございます。なんでも、煉瓦造りの建物に正面から突っ込まれたとか」

「事故? それで、お父さまとお母さまの容体は?」

「それが、そのぅ」

 執事が目を伏せて言い淀むと、ギルバートは両手で燕尾服の襟を掴み、前後に引っ張って揺すりながら言う。

「どうなんだよ? ハッキリ言えよ」

「お、落ち着いて聞いてください、ギルバートお坊ちゃま。頭がクラクラいたします」

 ギルバートは、パッと両手を放し、発言を促す。

「覚悟なら出来てるから、早く言え」

「勇敢でございますね。それでは申し上げますが、お二人は、ただいま、意識を失って昏睡状態に陥っていらっしゃるそうです」

――この言葉を聞いた瞬間、俺は頭の中は、チョークで書かれた文字がラーフルで消されるように、何も考えられなくなってしまった。

  *

――それから、しばらく経って、葬儀やら相続手続きやら、諸々の祭式と事務処理が滞りなく終わり、ようやく両親の死を受け入れられたころのこと。俺の心の中に若き当主としての自覚が芽生えはじめた矢先に、二つ目のショックな出来事が起こった。

「マーガレットに事故のことを伝えるのは、クリスマスにプレゼントを届けるのはサンタクロースではなくて、この俺だということを理解できるようになってからだな。それまでは、お星さまになったということで、話を合わせておこう」

 窓の外に雪が降る中、赤と緑の背景に金や銀の文字が躍るギフトカタログを比較検討し、ウサギのぬいぐるみのページに付箋紙を貼りつつ、誰にともなくギルバートが呟いた。そして、両手を握り、体格に不相応なほど大きなイスの背にもたれ、大きくウーンと伸びをしたあと、左を向いて振り子が揺れる柱時計を見る。

「二時半か。そろそろ、午後の紅茶の時間だな」

 ギルバートは、カタログをまとめて机の端に重ね置くと、イスから足を下ろし、部屋を出る。そして、静かに廊下を歩いていたが、途中で使用人部屋のドアが薄く開き、中の物音が漏れていることに気付く。

――戸締りをキチッとしないとは、感心しないな。

 文句の一つでもつけてやろうと、ギルバートがドアに近づく。

「ブレーキの細工は、流々だったようね」

「正面から破損したんじゃ、もともと効きが悪くなってたかどうかなんて、わからないだろうよ。警察も馬鹿な奴だ」

「さて。残りは、どう片付けましょうか?」

「ウム。あんまり立て続けに不幸があると、怪しまれるからな。春にギナジウムに行ってからお嬢さまを、夏に戻ってきてからお坊ちゃんを、というのは?」

「それもそうね。それで、もらうものをもらったら、とっととこの国を出ましょう」

「あぁ、そうしよう」

――何だって! お父さまとお母さまは、二人の私利私欲のために殺されたっていうのか?

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