いつの間にか迷い込んでいた「死の世界」
やっと仕事が終わった。毎日残業なんて辛すぎる。まだ店はやっているだろうか。買いたいものがあったのだが…。時刻は10時。もう流石に遅い。明日こそ早く仕事を終わらせて帰りに寄ろう。
何故私ばかりに仕事が回ってくるのか。社長は「佐倉くんは効率がいいからなあ。」などというが不公平すぎる。もう少しで身体的にも精神的にも限界だ。つぶれてしまいそう。
私はそんなことを考え、うつむきながら雲雀丘駅の少し長めのエスカレーターを登っていた。
しかしいくら長いエスカレーターといっても駅のエスカレーターだ。そろそろエスカレーターも終わるところの筈だが…。なかなか終わらない。おかしいな、と思いふと顔を上げると…。
エスカレーターは永遠に続いていた。
(は…は?なにこれ…乗り場間違えちゃったな…。と、取り敢えず走ろう。)
背中に一筋の冷たい汗が通った。私は一心不乱に上へ走った。エスカレーターの階段は一段が高いため、だんだん足が痛くなってきた。
「まだぁ…?なんなの、これ…」
そう呟いたらエスカレーターの終わりが見えた。私は達成感で満ち溢れ、ラストスパートのように猛ダッシュでエスカレーターを駆け上った。しかし、エスカレーターを降りた先にあったのはいつもの駅ではなく、そこは…
「なにこれ…まるで死の世界…。」
そう、私がたどり着いたのは死の世界だった。沢山の血とごみであふれ生臭かった。足元には人のものかは知らないが、腐った肉片が転がっていた。今にも吐きそう、そんな気分だ。
「獲物を発見。直ちにフロアAの者集合。」
前にいた紙袋のようなものをかぶったスーツ姿の男性のような人が私と目が合うとそう大声で告げた。すると同じような人が20人集まってきた。その紙袋をかぶった男らは片手にナイフとフォークを持っていた。
「は…はぁ?意味わかんないよ…。武器…ていったってありませ……!?」
自分の右手を見ると鞄を持っていたはずがゲームのレアキャラなどが持っている立派な剣を握っていた。靴は白とピンク色のブーツ、服装はピンクを主とした短いドレスのようなものを着ており、試しに飛んでみると2メートルぐらいは飛べた。
「これって…なんか分かんないけど昔、夢見てた魔法少女…だよねッ!」
私は「死の国」のような場所に来た恐怖を忘れて嬉しさのあまり敵を一気に5体くらい殺した。相手は逃げ足は速いし、たまに瞬間移動してくるやつもいるけど武器を持っていないからか、弱かった。
「ナイフとフォークだけで私を殺せるとか思ったら大間違いよ!!」
そう言って私は次々と紙袋をかぶった男らを倒していった。最後の一人…とどめを刺そうとすると…、そいつはほかのやつとは違ってファイアーボールを飛ばしてきた。
「ふふ…お主なかなか強いようだが…我にはかなわんぞ。」
私は華麗にファイアーボールをよけていたがそろそろ体力的にも限界だった。魔法少女にも体力の限界というものはあるのか。でも…魔法少女の私にかなうわけがない。思いっきり…近づいて…。なかなか敵を刺せない。こういう時に剣から火とか水が出たらいいのに…。そうゲームのように上手くはいかない。どうしよう…。刺さないと、刺さないと。
と、その瞬間別の魔法少女が現れ、呪文のようなものを唱えると紙袋をかぶった男の最後は血を吐いて倒れた。
その少女はポニーテールで黒いとんがり帽子をかぶり、黒とオレンジのドレスを着て、まるで魔女のような容姿をしていた。
「苺…なに無理してるのよ?生死にかかわることなんだから。あともう少しで死ぬところだったわよ?こういうのは調子に乗ってただ攻撃するんじゃなくって、気配を消して殺すのよ。だから…会社でもストレスでつぶれそうになってたんじゃない…。」
「すいません…ていうか…なんで私の名前を…。…ッ!もしかして美玖?」
「うん、そうだよ。やっと気づいた?久しぶり。」
私を助けてくれたのは高校の頃、まあまあ仲の良かった友達、来栖美玖だ。私が会社に入社してからは今まで一度もあっていなかったので気付かなかった。
「そっか!あ、でも…ここだと美玖が先輩なんだよね。もしよかったらここの世界について教えてくれる?私…今来たばっかりだから…。」
「いいよ!あ、その前に寝る場所についてね。目立つ場所に寝ると襲われちゃうから、持ち歩き用のテントを敵に見つからないような影に張って、そこで寝るって形かな…?ここに来た時点で持ち物の中にテントが入ってるはず…。あ、持ち物っていうのはここのペンダントから出せるからね。あと敵がいないときは魔法少女を解除した方が良いよ、HP消費しちゃうから。取り敢えずこれくらいかな。」
「有難う。ところでだけど…なんでそんな美玖はこの世界について知ってるの?こんな異世界を分析できるようなゲーマーだったっけ…?」
「ん…違うけど…さ…。そんなことより今日は来たばっかで苺も不安だろうからウチのテントで泊まってきなよ!」
ということで私は美玖のテントで泊まっていく事にした。
「ねえ、苺…あのさ、さっきこの世界についてなんでこんな知ってるの?って言ってたよね。」
美玖は突然そう意味ありげに切り出した。なにか触れてはいけない物に触れてしまったのだろうか。
「美玖?どうしたの?なんか…言いたくないんだったら言わなくって良いよ。」
「ううん、凄く、大事な話だから…ほんとはあんま言いたくないけど言うね。長くなるけど…最後までちゃんと聞いてくれるかな。」