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時狩の死神 ‐タイム・リーパー‐  作者: いざなぎみこと
第一章 幽霊少女と時狩の死神
29/29

#28 私へのお客様

 楽しくて仕方ない時間もすぐに終わりを告げる。往々にして、楽しい時間が経つのは速いものだ。


 私と死神さんが格ゲーで一進一退の攻防を繰り広げている内に、仁大さんは飽きたのかスマートフォンの画面を眺めながら寝落ちしてた。彼も疲労がたまっていたのだろうが、死神さんに比べて人に気を許すのが早いような……それが彼のいいとことしておこう。


「死神さん。そろそろ帰らなくていいの?」

「む……君がそういうのはあまりなかったような気が……」


 やや首を傾げる死神さん。


「だってこの前みたいに眠るのを見られたらって言うんじゃないかって」

「……まあ、でも……うーむ」

「なんで悩むのよ」

「別に……もう顔を見られたし……君が傍に居た方が気が安らぐのだが」


 たった一言で手の付け難い空気になる。

 死神さんも仮面で顔を覆うし、私はそれをじっと見つめてるしで、収拾がつかないじゃないか。


「……聞き流した方がいいかしら?」

「……是非ともそうしてほしい」


 自分で言っておいて耳まで真っ赤にするのはやめてくれまいか。

 ……私の顔まで赤くなってしまうじゃないか。いや、これは飲み込んでおくとしよう。死神さんが眠った仁大さんを担ぎあげる。さすがに重たいのか、大鎌とツヴァイヘンダーは我が家に置き去りにするようだ。


 仮面を斜に構え直して私に正対して一言。


「では幽香。また明日の丑三つ時に」

「ええ。丑三つ時でもしっかり起きて待ってるわ」


 仮面で顔を覆う前に、確かに笑顔を見せてから彼は空間に溶け込んでいく。

 カット&ペーストみたいだな、という感想は次来た時にしてやるとしよう。


「さて」


 普段なら私から引き留めている彼をこうまでして追い立てた理由が一つだけある。


「ようこそ。で、良いのよね?」


 虚空に向けて声を放つ私は、傍からしても変人だろう。

 現世に成りを持たないのが救いと言わずに何と言うか。


「ええ、お招きいただき感謝するわ」


 変人の独白に返答応答があるのだから、いやはやこの世も末だ。

 私の目の前の空間が切り取られたように歪んでいく。

 現れたのは白基調の軍服めいた女性。その姿に私はやや見惚れてしまった。


「貴女が、私が戦う『死神さん』……その知り合いの子ね?」

「ええ。名前くらいは名乗ったから覚えていてくれてもいいんですけど」


 顔を振って余計な思考を追い出した。


「白月幽香ちゃん。で、間違いないわね?」

「よかったです。一度きりでも覚えていてくれて」

「忘れるはずないわよ。嫌な奴からの電話で可愛い声が聴こえたらそりゃあ――」

「……可愛い?」

「私の言葉は忘れてちょうだい」


 そっと私から目線を逸らしたが、私は聴き逃さなかった。なおのこと嬉しく思ったのはナイショだ。


 そもそも彼女の顔立ちは第三者視点でも整っている。それだけでも目を引くと言うに、さらにミリーゼは随分とご立派なものをお持ちなのだ。目を引くには当然の要素をこれでもかと喧伝して、それが動くたびに揺れ動いてまあ。


 ……同時に腹立たしく思ったのもナイショだ。


「あの、入っていいかしら? 今は男どもも居ないんでしょ?」

「ええ、どうぞ。寧ろ嬉しいくらいです」


 この言葉に嘘はない。実際入ってくるのは男だけで、女性は片手で数える数すらいないのだから。

 ミリーゼさんを招いた私はキッチンに立って珈琲を淹れ始める。


「手慣れているのね。幽香ちゃん、でいいのかしら?」

「ええ。それで構いませんよ」


 ミリーゼさんはソファに身を乗り出しながら、豆を挽いてる私の姿を眺めている。珈琲豆を挽く姿なんて、貴女ほどの年になれば一人や二人居そうなものだが。私のような年齢不詳と年齢非合法が混じった姿の女がやるからなのか。


 さておき、最近のウォーターサーバーは良いものだ。勝手に九十度前後のお湯がダバダバと出てくれるのだから、わざわざケトルでお湯を沸かす必要も無い。厳密には豆や挽き具合によってお湯の温度を調節するらしいが、今はそこまで気が回らないスルーしよう。


「それにしても、貴女に敵意があるように思えないのですけど」


 豆が摩砕される音が、静かになった家の中ゴリゴリと鳴っている。


「招かれた客が敵意あったら嫌じゃないかしら?」


 それはそうだが。


「……いい家ね。落ち着いて、緑もあって。日本一栄えてなくても、少なくとも喧騒とは離れられるわ」


 発言通りに彼女は落ち着いていた。

 事実、珈琲豆のふんわりとした香り漂う廃墟は、居心地がいいものかもしれない。


「私を殺した実働犯が立てた家ですけどね」


 ミリーゼさんは「しまった」というような顔をした。


「えと、ごめんなさい」

「気にしてないわ。貴女がこれから戦う死神さんも知っているもの。今更よ」


 私も今更気にすることもないことだった。 

 それに明日にはどのみち話す気だったのだ。


「だって。私は貴女を信じていないけど、信じているんです」

「へ? ……どういうこと?」


 素っ頓狂な表情を見せるが、私はこちらが元来彼女が取るべき表情だと思えた。


「貴女は必ず私たちに協力してくれるんですもの」


 私の言葉に目を丸くする。


「……それは私が勝ったら無いことよ?」


 もっともな切り返しだ、彼女は偶然の要素を排している。


「仮にそうなったとしても、私は信じてるもの」


 もっともな切り返しに、私は偶然の要素を排していない。


「……保証しかねるわよ?」

「そうよね。貴女が私たちを信用に値する相手と思わなければ……でしょ?」


 偶然の要素という前提があっても、私はきっと言い切れる。


「それに、死神さんは絶対に勝つわ」

「……信用されてて羨ましいわね」


 どこか寂しそうで、それで嬉しそうなミリーゼさんに、私は少しだけ近寄った。


「でね。それと別の可能性として、どうあれ貴女には私たちと一緒に動いてもらいたいもの」

「……それはどうして?」

「一緒に居た方が楽しいもの」

「へ? たの、しい?」


 本当に彼女は表情がコロコロと変わる。


「その、理由を話すと、私の生い立ちからになっちゃうから……ちょっと重たいんだけどね。もしも、お姉ちゃんが居たら……って思ったの」

「おねえ、ちゃん?」

「そう。何歳年上でも構わないけど、お姉ちゃんというか……一緒に居てくれる人……かな? いつも思ってたの。誰かとああやって、一緒に遊んだり、ごはんを食べたり、笑ったり、喧嘩したりって」


 親が屑でちゃらんぽらんだった分、やはり私は誰かに甘えるのを求めていたのかもしれない。


 死神さんも。

 仁大さんも。

 ミリーゼさんも。


 私にとっては頼りたい大人であり、甘えたい近しい人なのだ。


「ずっと一人で本とか見てるのも良かったけど、やっぱり誰かと居るのが私は好きなの。性別とか、年齢とか、国籍とか……そんな余計なことは関係なしで……」


 ……意外と恥ずかしいな、これ。


 告白とか同義かもしれない私の独白。


「いいよ」


 それを同意してくれたミリーゼさん。


「じゃあ一つだけ約束」


 正面から私を受け止めたミリーゼさんの小指が、私の小指と絡んだ。


「貴女……いえ、幽香。幽香はこれから私の妹よ。でもその代わり、幽香も私をミリーゼって呼ぶこと」


 瞬間、ボッと、顔が燃えるように赤らんだ気がする。彼女の言葉はあまりにもストレートだった。妹、姉、その関係。強要ではないが、口約束で交わすにはあまりに重い。


「家族をさん付けで呼ぶのもおかしいでしょ? 姉妹なら尚更よ」


 ぴったりと肩をくっつけ合ってるミリーゼさんの本気度合が伝わってくる。

 私の髪に指を絡めながら、私の手に指を絡めながら、私の耳に口が付きそうな距離で、睦言のように私に囁いてくるのだ。


 初めて出会ったながらもこれは兎角スキンシップが過剰だ。

 だけどヘンだな。

 そんなに悪い気はしなかった。

 正直嬉しいくらいだ。


「それでいいかしら」

「……うん」

「……だから、幽香にはどっちも応援してほしいな」

「どっちも?」

「死神さんも。私も。ね」


 ちょっと悲しそうな微笑を浮かべ、ミリーゼは夜闇に消えてった。

 相変わらず不思議に思える、空間から切り取られた謎の移動法で。


「…………」


 また静かになってしまった家の中、私は一人取り残される。


「あっ」


 そして気付く。

 淹れた二人分の珈琲の存在に。


「……飲んじゃうかなぁ」


 言ったところで、帰ってくる人はいなかったのだが。

仁大「二年ぶりだってよ、幽香ちゃん!」

幽香「二年間、私たちをほったらかしてなにしてたのかしらね」

死神さん「二年の月日、別のゲームだのなんだので忙しかったんだろうな」

みこと「ゴメンナサイ」


何時の間にPVがちまちま伸びててびっくりしました。

二年ぶりの更新です。どうぞよろしく。

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