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時狩の死神 ‐タイム・リーパー‐  作者: いざなぎみこと
第一章 幽霊少女と時狩の死神
20/29

#19 私の恩返し

 四月二三日――ついぞ死神さんに会ったのが二週間前の出来事だ。

 朝のシャワーと掃除を済ませたところで、玄関前に赤のセダンがやってきた。


「……今月は大盤振る舞いね」


 物資の配給――それもつい二週間前のことだ。

 私の死に場所でもあり現在の住居たるこの家を用意し、死後多額の保険金で私腹を肥やした、両親の友人の弁護士が段ボールを持って入ってくる。

 私は『霊体化』でこっそりと地下の書斎に移動する。こんなに早く再配給が来るとは思わなかったが、車のエンジン音が聴こえたので、読み終わった本を運んでいたのだ。


「最近全然本読んでないなー」


 死神さんが家に居る間は、基本的にゲームしかやっていない。

 まあ、まだ一か月に満たない付き合いだ。面と向かって物事を話すような間柄でも……あるか。やっぱりおかしい関係な気がする。

 ただのゲーム友達でしかないし、恥ずかしがって顔を赤らめたりするのはよく見てたけど、どうにも私を異性として見ているのか分からなくなる。


 別に異性として愛でるように扱ってもらいたいわけではない。

 忘れてもらっては困るが、彼の年齢は生前でも二十四、死後で二十八――私は生前十三の死後十八で、身体は成長せず所謂幼女のままだ。親愛ならまだしも欲情されても困るっちゃ困るのだ。

 ……嬉しいか嬉しくないかで問われると、ハッキリと「NOです」と言えないかもしれない私もどうかしてるけど。


「でもなぁ……」


 腐っても、もとい死んでも十八歳――中身は花のJKって奴なのだ。

 恋愛とか、甘酸っぱいものに憧れるのは当然だと思うのだ。


 生前一切人との触れ合い方を学んだことが無い私だ。きっと死神さんとの接し方にも多少なりとも問題はあるのだろう。

 彼が家に来るなり読んでた本を閉じて「今晩は。さ、続きやる?」だもの。塩対応過ぎるのは明白だ。たまには何か、別の事をやったりするのもいいのだろう。


「うぅーっ……」


 日常的に会話しているだけで「死神さんはきっと私を好意的に思っている」なんて馬鹿みたいだ。

 いやいや。これは私が非常に、ひじょーに特別な環境下で生まれた人間だからこそ思っても問題ない思考だ。

 実際人生もとい霊生(ゴーストライフ)はどうなるか分からない。今でも蘇りの機会があるかもしれない時点で異常なんだ。なら、蘇れるよりも確率はよっぽど高いであろうこの説は、期待してもいいのではないか?


「ああっ! 私は頭お花畑かっての!」


 本棚につい八つ当たりのパンチ。

 痛い。創作の中ではよくある、怒りのあまり壁を殴る行為は、代償として手に大きなダメージを残す。


 ガタガタっ!


 地下の蔵書では、一階の物音はよく聴こえる。逆もまた然りで、こっちの物音は案外上でもよく聴こえる。物が落ちるなどの衝撃は特に伝わりやすい。

 たぶん今のは、本棚を殴った音に、一階へ物資を運んでいる弁護士の男が……。


「名前なんだっけ?」


 ああそうだ、「本宮」だったっけ?

 まあどうでもいいことだ、そいつが地下の不審な物音に敏感に反応したのだろう。

 私の恨みを恐れている本宮は、この家で起こる出来事には相当寛容だ。

 多分ルームメイトが増えて、目に見えて水道光熱費が増えているのにも関わらず、全く不思議に思っていないだろう。


「滑稽ね……」


 いい加減気付いて全てを放置してくれた方が、正直言えば今の私の居る環境としては有難くもあるのだ。このままあの男に生活インフラをキープされてるのもあまり気持ちのいい物でもない。黒幕に死後の世話なんて、と最近では思ってきてもいる。

 こっちには現世にある程度干渉できる死神さんがいる。物資だって彼に頼めば――と考え、私はハッと気付く。


「……結局、私は誰かに依存しないと生活できないのね」


 本宮でさえ、罪の有無はあれど、奴が居るから私は暇をしなくて済むし、嗜好品にありつけている。

 今の思考回路は、単純にパトロンを代えるようなものだ。酷く下種で、屑な発想だ。

 罪を犯したワケでは無いのに、罪悪感に苛まれるのは何故か。分からないけど、そう考えるとちょっと辛いし悲しい。


「……役立たずね、私」


 何か貰った物を返せれば、多少は私の罪悪感らしきものは薄まるんだろうが、今のところ特に返せる物なんてない。

 深いため息を吐く。蔵書は空調設備も整っているから埃っぽくない。霊体になって埃っぽさなんて感じなくなったが、呼吸器系の病気らしかった私を思っての國光おじさんの配慮をしみじみ感じる。


 とぼとぼと蔵書から出ると、段ボールから溢れた本が散乱していた。

 物音に恐れて慌てて出た本宮が蹴散らしていったのだろう。

 

「あーあ……背表紙曲がっちゃってる……」


 がっくりと肩を落としながら、散乱した本を拾い集める。折れた本の表紙を直したり、本棚に入れ替えたりすること十分ほど、私は何かできないかと思案していた。

 一般の倫理観からして、私の頭の出来方はよっぽどポンコツなんだな、と実感する。だって、こんなことを考えるのはちょっと成長した子供くらいじゃないか。

 そんなポンコツ頭にふと「天啓(笑)」がひらめく。


「そっか。物で返そうとするからダメなんだ」


 物を貰ったから物で返す――論理的な思考だが、それでは私が返せる物なんて何一つ無い。

 なんてったって、私はこの家から出られない。死神と邂逅しても、地縛霊なのは変わってないのだ。

 そうすると、必然的に「この家の中で、死神さんが家に居る時」にしかできないことしか、直接何かを返す手段はなくなるのだ。


「何ができるかな……」


 親の手伝いをしたがる子供みたいなことを考えながら、私は久しぶりにパソコンを起動した。



 辺りはすっかり暗くなった。

 四月二十四日の午前一時――今日は普段より遅く死神さんがやって来た。

 仁大の戦闘で身体を相当酷使したようで、足が痛いのか右に重心が寄っている。


「今晩は、幽香」

「いらっしゃい、死神さん」


 挨拶を交わして、ベッドに座っている私は本に栞を挟む。

 大鎌を仁大のツヴァイヘンダーの隣に立てかけ、ソファにどかっと座る。

 疲労が目に見える死神さんに、私は唐突に質問する。


「……最近、耳かきした?」

「藪から棒になんだ?」

「質問を質問で返さない事。で?」


 正直意味不明だと私も反省するが、唐突な質問に「する必要も無いからしてない」と答える。よし、好都合だ。


「身体も随分痛そうね?」

「……そうだな、腰を中心に筋肉痛だ」

「霊体の筋肉痛……」


 パワーワード感が凄い。

 消化器官どころか内臓にあたる部位が感知できないのに、都合よく筋肉はあるのか。

 とはいえ出血はするから、造血器官なり死神の心臓――核とでも言った方がいいのか――そんなものがきっとあるのだろう。


 出会うなりに質問をする私に、死神さんは不思議そうに「何かあったのか」と問いかける。


「えっとね。ちょっと、昼間にいろいろ悩んでね」

「……どのような悩みか聞いた方がいいのか?」

「まあ、その、貴方にはいっぱいいろんなものを貰ったから。何か返せないかなって思って……」

「別にそんな……私も君には感謝する事はいっぱいある。何も思い悩むほどの事では……」


 謙遜する死神さん。


「だから……まずはできそうなことからって思ってね」


 私は自分のふとももをぺしぺしと叩く。


「……えっと、まずは私の隣に座って」

「……ああ」


 困惑気味に、軽く声を低くして死神さんは反応する。

 質問と照らし合わせて、私が何をするのかを理解したのだろう。

 こういう時の私がどう諭されようとも意思を曲げないことを、死神さんはよく知っている。特に言及せずに私の隣に座る。


「……ん」


 もう一度、ふとももを指さす。


「……失礼、する」


 抵抗せずに、ごくごくゆっくりと、私のふとももに頭を乗せる。

 部屋の明かりは今は月明かりだけだが、きっとまた死神さんは真っ赤になっているだろう。頭が少し熱っぽさを帯びている。


「……変態と言わないでくれ」

「自分でさせて、そんなことは言わないわ」

「……君は温かいな」


 ふぅー、と死神さんは深く息を吐き出す。それと同時に頭の重さが少し増した。余計な力を抜いて、私に体重を預けたのだろう。

 温かい――霊体にそんな話が、なんて、今更野暮どこの話ではない。

 もう、私もかなりひどい顔をしている。顔がにやけている。

 警戒を解いて、死神さんが私に身を委ねている――それがすごく、すごく嬉しかった。


 ――人と触れ合うのが、こんなにも心地よい物なんだ。


 軽く頭を撫でる。

 驚いたのか、身体がピクリと微かに動いたが、数度続けると大人しくなる。


 ――愛おしい気持ちというのは、こんな気持ちなんだ。


 やっぱり、きっとそうなんだろう。

 出会ってまだ二週間ちょっとだけど、この気持ちはきっとそうだ。

 

 ――私は、死神さんの事が……。


「……あれ?」


 ぼーっとした頭が、ちょっとした違和感に敏感に反応する。

 頭を撫でた時、軽く仮面に触れただけなのだが、微かに仮面が動いたのだ。


「死神さん……今、仮面が――?」


 声をかけても反応しない。

 どうしたのだろうと意識をよせると、微かだが呼気は聴こえる……いや、この落ち着いた呼気は――。

 仮面をしててもギリギリ見えている耳を摘まむと、くすぐったそうに軽く頭が揺れる。


「寝てる……」


 よっぽど疲れていたのだろう。というか家に来る前も多分寝てたのだろう。来た時の声が多少いがらっぽかった。仁大との超常的な戦闘の代償は、本人の体力にありありと表れていた。


「……まさかだけど、これ、気付いてなかったの?」


 確信はしてないけど、あり得る事だ。

 私のような存在にあったのは、死神さん自身も初めてだといった。加えて頭を預けて寝れるほど、心から信頼できる存在を、きっと『時狩の死神(タイム・リーパー)』になってから得たことが無かったのだろう。それならば四年間の間、気付く事はなかったのもうなずける。


 軽く動いた仮面に私はそっと手をかけた。

 カステラの底の紙みたいに、癒着していることも考慮して、ゆっくりと仮面を動かした。

 それは、存外簡単に動いた。最初に手をかけた時も、その次に試してみた時も、顔面と同化しているかの如く動かなかった仮面が、今確かに動いたのだ。


「…………」


 素顔を見るのが少し怖かった。

 以前言ったように、五年間も仮面をしている状態だったのだ。くっついてる面が癒着しないまでも、水分や空気に触れていないためにミイラ化でもしていたらどうしようかと思ったのだ。

 

 そして、死神さんが気付いた時に、怒るかもしれない――そう思うととても怖かった。

 今まで過剰なまでに自分の生前の事柄や姿を明かそうとしなかったのだ。こうして盗み見るようなことをして、死神さんが許してくれるのかどうか――飛躍しすぎかもしれないが、嫌われるんじゃないかと思った。


 だが――だが!



「……ええい、ままよ!」



 ここで尻込みしていたら、これから起こる事柄の一切から逃げてしまうような気がした。

 私は勢いよく、死神さんの仮面を取っ払った――。

 筆が乗ったのでもう一話投稿です。


 ロリコンだって? 霊体ならば犯罪ではないのです! 

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