表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時狩の死神 ‐タイム・リーパー‐  作者: いざなぎみこと
第一章 幽霊少女と時狩の死神
12/29

#11 死神さんの協力者

 「どこまでも不用心ね」なんてどこの誰かに言われそうだが、既に死人の身の私は現世に協力者を持っている。協力者と言っても、一方的に協力するように仕向けているに過ぎないが。

 私に与えられた力は、当然ながら現世に大きく影響を残すものであり、故に現世に干渉する力を持つ。生者が視認できる『実体化』が最たる例で、これによって私は特段危険を冒さず……まあ、十分危険ではある。手駒が裏切る可能性は無きにしも非ずだ。


 出発前にメールで指定した路地裏に行くと、見るからに素行の悪そうな風貌の男が焦燥感が滲んだ面持ちで居る。

 その男の名は安生(あんじょう)一樹(かずき)――所謂チンピラだ。三か月前に飲酒運転で五人を轢き、現在は逃亡中の身分だ。別件で既に前科二犯の身なのに、よくもまあ事故るものだ。


Gotcha(捕まえた)

「うおあっ!? ……クソっ、Busted(捕まった)!」


 『霊体化』で近付いて隣で『実体化』――安生は突如として現れた私を見て飛び退く。日に日にリアクションが悪くなっているが、それでも急に人が姿を成すのはビビるようだ。

 ちなみに最後の英語は合言葉だ。これを言わなければ即警察に突き出すと言ってある。必要はあるかは不明だが、ある程度制約とかがあった方が情報収集らしいというか。

 ……また「厨二病ね」なんて言われそうだ。


「情報の真偽は?」

「……間違いねぇ。三日後、小樽の高級料亭で鳩原は小橋と会う。VIP御用達の部屋が貸し切りになっていた」

「一石二鳥。鳩だけに」


 この男に任せているのは雇っている情報屋のタレコミの真偽確認だ。一度騙されて私を捕まえようと罠を張っていたこともあり、さすがに対策を講じたのだ。

 以降裏切りを考慮して情報屋も選択しているが、今雇っている情報屋は中々腕がいい。そしてプロ根性もある。曰く「情報屋は客には誠実じゃねぇと、情報の質を疑われちまう」だそうだ。人を騙すのも仕事の内だが、客には嘘は言わないと胸を張って言っていた。


 今回はどうやら密会らしく、政界の重鎮議員の息子の小橋兵十郎もお釣りで来る。

 処遇に軽く悩みはした。情報を集めていないから、何をしたかとかは知らない。ちょこちょこ名前が挙がっていて、それなりに女や金に汚いイメージだったが、全くのノーマークだ。

 仮面に手を当てている私を見て、無言で安生は封筒を差し出す。


「……これは?」

「イヌの差し入れだそうだ」


 イヌ、というのは情報屋のネット名義だ。実名は家まで尾行して知った。犬養(いぬかい)という苗字にかけているっぽいが、俗説によると探知犬さながらに情報を追跡するところから付けられた、一種の称号みたいなものだろう。

 封筒にテープ糊をしてあり、体裁上業務書類っぽくしてある。封を開けて中の紙を見ると――。


「おっふ……これはこれは」


 思わず目を背けた。ご丁寧に写真が添付してある。それもあまり子供には見せられないような写真、端的に言うならば、リベンジポルノと言われる類の写真だった。

 小橋はアイドル議員と持て囃されるくらいにルックスが良い。地位と資金もあることが加わって、若い女性議員や女性タレントはこぞって関係を持ちたがった。この写真をネタに、女性をとっかえひっかえってことだろうが。……そもそもどうして写真を撮るのだろうか?


「これって……おぉー……こりゃあこりゃあ」

「ドスケベ野郎め」

「アンタも大概だ。こんな野郎、やっちまえばいい」

「指図されずとも、今回は二枚抜き決定だ」


 覗き込んで鼻の下を伸ばす安生を押しのけ、私は紙を封筒に戻してマントの中にしまう。


「おっと、それともう一つだけ伝言だ」

「珍しいな。私とは一刻も早く離れたいクセに、今日は随分引き止めるじゃないか」

「ああ、今まさに走って逃げてぇくらいさ。だがこっちも捕まりたくねぇしな」


 全てお前が悪いんだろうが、と言いかけたが、別段これ以上こいつと話をする気は私自身無い。さっさと伝言を言って、とっとと去ってもらおう。


「イヌが言ってたんだが、つい一週間前にお前みたいな奴が接触してきたらしい。「無防備になりそうな有名人はいるか」って聞いてきたんで、面白そうだからお前に言った情報と同じ内容を伝えたそうだぜ」

「…………」

「庇う気はねぇけど、同類と思ったんじゃねえか?」


 言ったっきり、特に追及もせずに逃げるように安生は去った。ある程度離れて「頼むぜ」と念押しをしていった。


「……「お前みたいな奴」か」


 それが何を指す言葉か。私の脳裏に過った意図は、果たして正解なのか。


「……ハハハッ。面白い」


 運命の悪戯というものに、これほど感謝することになるとは。

 私は気付けば笑っていた。これが合っていたら、きっと今年が人生もとい死神生としての分岐点なのだろう。


「三日後が楽しみだ」


 『霊体化』し、私は帰路につく。

 後は三日後の用意をするだけだ。

 ご拝読ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ