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赤い鳥  作者: 光姫
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影武者

白馬が引く馬車は静かに街の中を走っていく。

時折遠くで雷がなっているが、雨は上がっている。

対面式の座席には、蘭と、目の前には先ほどの老人が座っている、

狭い馬車の中で、蘭の好きな香が充満している。老人は、少し頭痛を覚えていたが、常に笑みを浮べていた。

「これから何が始まるの?」

蘭は何も言わない老人に質問した、自分からこの馬車に乗ったが

これから始まろうとしている事は知りたいと思った

「貴女は、わが朱雀国の君主に抜擢されました」

遠くで雷が光った

数秒遅れて音が響く

いろんな事が巻き起こる花街で育った蘭は、何事にも動じない強さがあったし、

今回の老人の発言にも動じる事はなかったが、ふと、自分にそんな資格があるのかどうかと疑問に思った。

しかし自ら選んだ道なのだから、今更拒む事は無理な事だ

少し感覚が違うが

「後悔先に立たず」と言う奴に近い。蘭の場合は軽く思うだけでなんとも潔い性格だった。

「拒まれるかと思いました」

何も答えない蘭を見ながらどこか安堵したように言う老人は可愛い顔をしていた。

「これも運命でしょう」

運命何て言葉は大嫌いだと思っている。

自分で選んだ道を目に見えない何かの影響でこうなったと言う感覚が好きではない。

が、この言葉は実に使い勝手がよかった

幻想的で甘美な響きだ。誰もが憧れる響き。

「ですが何故」

何故自分が目に留まったのか不思議な所だ。「私共は、常に次期君主を探しております」

答えになっていな気がした

「私は花街しか知りません。まして、政なんて」

「問題ありません」

そう言った老人の眼光は鋭く蘭を射抜いた。

老人はすぐに優しい顔つきに戻り言葉を続けた

「貴女は実に良く花街を統一されていた。」

関心しながら話す老人を見て彼女は薄く笑った。

「あなたが居なくなり花街は荒れますな。」

老人の言葉に彼女は涼しい顔をしているが、そう言われる心当たりを探していた。

まとめていたと言うより、誰かの相談に乗っていただけだった。それで、まとめていたと言われるのは違う気がしたが、国の政治と言うのは誰かの話を聞く事から始まるのかも知れないと妙に納得してしまった。

しかし、

自分が居なくなったからと言って荒れる事はまずないし、誰かが上手くやる。

人間とはそう言うものだ。

「私は何をすればいいのです?」

これは運命ではない

自分で歩んだ道だ。蘭はそれを自分自身で再確認する為に話を進めた

「まずは館に来て頂き影武者を選んでいただきます。」

「影武者…」

「影武者は国の朝議や、公の場に姿を表す者です。」

「なぜそんな事を」

影で何かをするのは女達の陰湿なイメージがあった。

「あなた様は大事なお方でいらっしゃる。命を狙う者もおりましょう」

「まるで私が影武者のようね」蘭は年に何度も表に出てきていた煌びやかな主君を思い出した。あれが偽物だと誰が考えつくだろうか。堂々とした出で立ちは真の王に相応しかったように思う

老人は目を瞑った。

ほどなくして従者が馬を止める声が聞こえた。いつの間にか館についていたようで馬車の扉が古めかしい音を立てて開くと老人が先に降り蘭は後に続いた。

馬車から降りると蘭は大きなため息をつき、自分の体が固くなっているのに気がついた

知らず知らずのうちに緊張しているのだと理解した。

「ここが朱雀国の主君の館、朱雀宮でございます。」

蘭は大き過ぎる門を見上げた。花街の入り口の門よりも何十倍も大きい。どこまでも続く白い塀。等間隔に支える赤い丸い柱、屋根は黒い瓦屋根

塀の高さは大人五人分と言った所か

代々王と言うものは自分の権力を物の大きさで示す風潮があったが、目の前に広がるのはまさにそれだった。

老人は石畳の上を歩き出し、彼女も後ろに続いた。まっすぐな道をしばらく進むと20段以上ある階段の上に大きな平屋の建物が見えてきた。

「この建物が表殿でございます。ここでは朝議を主に行い、中には守護神朱雀の珊瑚像がございます。その前に玉座がございますがあなた様には関係ございません」

広い敷地内。いくつもある同じような建物の説明を簡単にしてくれるが、最後には関係ないと言う老人に蘭はイライラした。

「私の拠点になる所はどちらです?」

丁寧に言ったつもりだったが、老人には心中がわかってしまう言い方になってしまった

老人はしばらく廊下を歩くと立ちどまった。渡り廊下の先を指差した

「この先が本殿でございます。ここに護衛が立ち、私と影武者のみ行き来出来るようになっております。」

私はと言いかける言葉を飲み込んだ

影武者を選び自分はここから出る事はないのだと悟ったからだ

「鳥籠か」

蘭は先を歩く老人との間隔を充分取ってゆっくり歩いた。もう見る事のないであろう風景をゆっくり見たかった。やがて白い大きな壁が現れた

今までの世界を区切るような壁

老人は懐から鍵を出し壁の割に小さな扉を開けた

「ここから先の敷地は自由に動いて下さって結構でございます」そんな説明を耳にしながら一歩一歩と前に進む

月明かりに照らされて現れたのはまるで絵に描いたような極楽浄土

渡り廊下の脇に大きな池。その池に注がれる小川草花はきれいに手入れをされている

「これがあなた様の生活拠点。極楽浄土でございます」

蘭はゆっくりと歩き出した。不気味なほど静かな空間。本当に別世界に来たようだった

「ここには生活の全てが揃っております。」

そう言って明かりが灯っている部屋に入っていく老人を蘭は追いかける。入った部屋は蘭の為に用意された寝室のようだった。天付きのベッドに机、椅子、箪笥が置いてある。

どれも素晴らしい彫刻や装飾があしらわれていた花街で常に一番だった自分の部屋とは比べものにならな位鮮やかだ

ぐるぐると辺りを見回すすると奇妙な風景が目に入った

「なに?」

蘭は小さく声を出した

部屋には数人の男が目隠しをして床にひざまづいている。

彼女は一人の男の目隠しをはずそうと近寄った

「なりませぬ!」

怒鳴り声が部屋を支配した

「先ほども言いましたが。この敷地内は私と影武者のみが入る事が許される場所。

まずは、この中より影武者をひとりをお選び下さい。」

老人の気迫に負けないよう気丈に振る舞いながら蘭は数人いる男の前を行ったり来たりした。選べと言われても何を基準にしていいのかわからない。

目が隠されていて相手の表情がわからない

蘭は男達と同様に目を瞑り数本歩きそこにいた男の肩に手を置いた

「彼にします」

蘭は目を開けて老人を睨みつけ、男の目隠しをゆっくりと外した

そうしている間に他の男達は部屋を出た

「名はなんと言う」

老人は男に聞いた

男は、ゆっくりと顔を上げた。蘭はその顔を見ると数本後ずさった。

目は見開き男をじっと見つめた

確かにかなり綺麗な顔立ちだ、顔の線が細く切れ長の一重。薄い唇は桜の様だった

蘭の瞳に涙が浮かんだ。

「我が君?」

老人は蘭に問いかけた彼女は目をぐっと瞑り

「何でもありません。名をお聞きしてよろしいですか?」

と何事もなかったように話した

「………光嬉」

蘭は名前を聞いて大きく安堵のため息をついた。

「ふむ。光嬉よ。汝は今より、我が君の影武者として生きる事となる。

我が君の意のままに動くように勤めよ」

老人は見下ろしながら光嬉に言う

光嬉はと言うと顔に何も感情がなく老人をみつめていた。

「ご老人」

蘭は老人に声を掛けたすると老人は首だけ蘭に傾けた

「貴男の名を聞きたい」

老人は蘭の前に跪き

「吏珀と申します。」

それだけ言うと吏珀は立ち上がった

「さて、今宵は遅い

休みましょう」

と言い吏珀は自分の腰を叩きながら部屋を出て行った。残された蘭と光嬉は所在なさげに当たりを見回した

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