マリーはちょっぴり毒舌
街へ戻った私たちはギルド運営所へ行き、盗賊たちの討伐について話した。正確には、ほとんどマリーが受付嬢に説明した。私が話そうとするとマリーがそれを止めてしまうのだ。私が倒したと聞くとすぐに疑いの目を向けてきた受付嬢だったが、私のギルドカードを専用の魔道具でスキャンすると表情が変わった。
「盗賊ブリガンド……ギルドで賞金をかけていた者たちですね。ありがとうございます。アルシアさん、よく勝てましたね。」
「ふっ、我が真の力目覚めしとき、いかなる敵が相手でも塵に同じ!」
「えっと、アルシアさんは戦闘中死にかけてました……」
マリー、余計なことを受付嬢に伝える必要はないぞ。
「そうですか……無事で何よりでしたが、気を付けてくださいね。それと、賞金の5万ゴールドです。」
久しぶりに金貨の重みを感じた私は、公衆の面前で感動の涙を流しそうになるのを抑えるので大変だった。
「マリーよ、我が奢りを堪能するが良い!そなたの欲する物、全てを我が」
「えーと、じゃあこれでお願いします。」
「あ、私はこれで。」
「かしこまりました。」
賞金を受け取ってから先ほどまで私がずっと考えていた決め台詞を途中でマリーが遮りながら注文し、私も続けていつものメニューを注文する。久方ぶりに飲む水は格別の味がするな。
「アルシアさんってEランクの冒険者だったんですね……」
「ふっ、我が力の前にランクなど無用の産物!」
冒険者にはS~Fまでのランクがついている。16歳を超えれば誰でもEランク冒険者になれる。ちなみに、モンスターを狩れる仕事に就くにはEランク以上が必要である。
「もっとランクが上だと思ってました。アルシアさん、めちゃくちゃ強いのに!」
「Eランク冒険者というのは仮の姿……真の我はSランク冒険者が束になっても勝てやしないのだ!」
マリーは「へーすごーい」と棒読みで返してきた。まあ、Sランク冒険者なんて伝説上の存在だろうと私は思っているが。
運ばれた食事はいつもの100倍は美味しいと感じた。どうやら体がまだ食事の受付準備不足のようで、三分の一ほど残してしまったのが残念だ。食事を終えたマリーは水を一杯飲んでから話しかけてきた。
「この後、私の家の商店にも来ませんか?アルシアさんにお礼がしたいです!」
賞金でホクホク顔の私は年下からのお礼をかっこよく断ろうとしたが、マリーが「えっ暇じゃないんですか?これから仕事あるんですか?」などと手厳しい質問をしてきて状況は一変。飢餓を経験してお金の重要性を身に染みて感じた私はマリーと仲良く一緒に歩いている。
「ここです!」
彼女が案内した商店は、一言で言うと道具屋だった。ポーションのような薬品、乾パンのような非常食、さらには皿やフォークといった食器など、様々なものを仕入れて売っているようだ。
「マリー、おかえり。ずいぶんと遅かったじゃないか。そちらの方は?」
店主と思われる男が声をかけてきた。
「この人はアルシアさん!帰る途中に盗賊に襲われたんだけど、アルシアさんに助けてもらったの!」
店主の顔が一気に青ざめた。
「護衛の冒険者は……死んだのか。そうか……」
店主であるマリーの父は『本日臨時休業』という看板を出して店を閉め、店の奥にあるテーブルで私をもてなした。
「アルシアさん、うちのマリーを助けてくれて、本当に、本当にありがとうございます。」
盗賊を倒した覚えのない私は、とりあえず何も言わずにニコッと笑った。