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アルシア は ねむっている!

 俺は杖になってから初めて本気で怒っている。なぜ怒っているのか、理性ではよく分からない。俺は道具であり、俺の持ち主がどうなろうと俺の知ったことではない。この世界は弱肉強食の世界なのだし、持ち主が死んだとしても道具を有効利用できない方が悪い。盗賊にぼこられ、意識を失い、それでも最後の気力で俺を掴んだアルシアを見て、俺が怒る理由はない。

 このまま俺は盗賊に拾われようが、道端に捨てられようが、別にどうでも良いことのはずだ。また宝箱にでも転移して新しい持ち主を探せば良いのだから。だが、なぜか俺は怒っていた。これは所有物としての本能なのだろうか。それとも、このたった数日間でアルシアに情でも湧いたのだろうか。よく分からない。俺は可能な限り物として振る舞おうと、もともと思っていたはずだ。いつから思っていたのかは分からないが、少なくとも杖として目覚めてからはずっと。なぜ俺はそれに反するような行動を取る決心をしたのだろうか?



 既に意識を手放して横になっているアルシアの体を、杖である俺が支配した。意識を失っているのは好都合だが、これから覚醒しないとは限らない。一応のため念を入れておこう。

「……スリープ……」

 彼女の唇を動かし、彼女の魔力をコントロールし、眠りの魔法を唱える。魔法を唱えたことに盗賊たちは驚いたが、誰も寝てないことを確認した彼らは彼女の方を改めて見つめる。

「……すぅ……すぅ……」

 アルシアは寝息を立てている。

「なんだこいつ」「自分にスリープかけやがったぞ!」「こいつなりの降参ってやつか?」

 盗賊たちは少々困惑しながらも、彼女の、いや、俺の行為を笑った。

「さっさと隷属の儀式を始めようぜ」

 盗賊たちの一言一句が気に障って仕方ない。さっさと終わらせてしまおう。俺はアルシアを立ち上がらせた。急に立ち上がったアルシアを見て、それまで彼女に蹴りを入れていた盗賊たちは後ずさりした。

「……ヒール……」

 まず、彼女の体を癒した。彼女の足りない分の魔力は俺が供給している。

「なんだと!」「寝てるのに魔法を唱えやがった!」

 盗賊たちの緊張が一気に高まった。

「気味わりいな、さっさとやっちまえ!」

 リーダー格の男が命令を下し、前後の二方向から盗賊が迫ってくる。

「……セイント・エンチャント……」

 杖に聖属性を付加し、攻撃力を上げる魔法だ。杖が光り輝く。

「…………」

 アルシアを操作し、近づいてくる盗賊たちを杖で一閃する。アルシアはもともと腕力が強い上に、今は俺の魔力でバフもかけられている。その破壊力は、内臓もろとも人体を破壊する。

「な……なんだこいつは…」「化け物か…」

 盗賊たちが動揺している。

「撤退だ!アジトへ逃げろ!」

 リーダー格の男が命令を下す。だが、逃がすつもりはない。

「……アイシクルランス……」

 氷の槍を四本生成し、盗賊たちに放つ。

「グガッ……」

 逃げようとした盗賊たちは胸を貫かれ、即死した。

 あたりは悲惨な光景となっている。商人の娘の方を向くと、彼女は小さく「ひっ」と声を出した。よくよくアルシアの姿を見ると、ローブにも顔にもトンガリ帽子にも血がこびりついている。さらに、寝ている間に目を開けたせいで白目を剥いている。これは少女にとって恐ろしすぎる光景だろう。

「……リフレッシュ……」

  衣類のような物を新品同様にする魔法だ。魔力によって適用できる物やどの程度戻るのかが異なるが、俺の魔力を使っているのでアルシアの衣服は新品のようになった。あと、ついでに眼球も戻しておいた。目は虚ろだが、まあそこは仕方がない。

 これで少しは怖くなくなっただろう。アルシアの体を動かして商人の娘に近づき、おんぶの体制になった。

「……乗って……」

「えっ……でも……」

「…………」

「失礼します……」

 商人の娘をおんぶし、この場を後にした。死体に群がるモンスターがいるかもしれないし、ここはそんなに安全ではないのだ。


 それなりの距離を歩き、適当な場所で商人の娘を下した。目についた木の枝を風の魔法エアスラッシュで切り取り、ファイアでたき火をした。もう安全だろう。アルシアの体を横にさせて俺の支配から解放し、俺自身は杖に戻った。

「あの……ありがとうございます……」

 商人の娘がお辞儀をしながらアルシアの方を向いて感謝したが、アルシアは既に寝息をたてながら寝ているのであった。


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