一方通行な出会い
アルシアが盗賊に襲われる数日前のことである。彼女は幸運にも引き受けられたオーク狩りの仕事の途中、杖を折ってしまったのだった。魔法ではなく打撃をメインにする彼女にとって、それはしょっちゅうのことであった。そもそも、杖は魔法をサポートするための武器であり、打撃はあまり想定されていない。そんな彼女は武器屋に新しい杖を買いに行ったのだった。
「店主よ、我が両手に宿る黒龍が、暴虐な魂を食らう杖を欲している!」
アルシアはいつもの口調で武器屋の店主に杖をお願いする。ちなみに、毎回セリフを変えるのがアルシアの流儀だ。
「嬢ちゃんはまた杖を壊したのか……ちょっと待ってな」
店主は店の奥に行き、棚から杖を出してきた。何の変哲もないロング・スタッフに見える。
「最近ダンジョンで見つかった杖だが、けっこう頑丈で嬢ちゃんにぴったりだろうよ。200ゴールドだ。」
アルシアは店主から杖を受け取り、じっくりと見つめる。「200ゴールド……今日のご飯……」などと小声でぶつぶつと呟くアルシアを見て、店主がやれやれといった表情をした。
「しかたねぇな、今なら150ゴールドに負けてやるぞ。嬢ちゃんは常連だからな」
「買おう、それが我とこの杖の運命なのだからな!」
アルシアは杖を手に武器屋を出ていくのであった。
(買われた!だが中二病っぽい女の子がマスター……)
買われた安堵とマスターへの不安が渦巻く。
(おじいさん、俺、この先大丈夫かな……)
そんなことを思っていると、突然脳内にメッセージが流れた。
『アルシアをマスターにしますか?』
少し動揺したが、この手のメッセージは前にもあったことだ。俺が目覚めておじいさんと出会った日、突然『ヴォルをマスターにしますか?』というメッセージが流れたのだった。そのときは、おじいさんからのお願いで『いいえ』と脳内で宣言したのだった。もうそれからけっこうな年数が経っていたのですっかり忘れていた。
今回はどうするべきか。本当にこの女の子をマスターにして大丈夫なのか不安になって少し躊躇ったが、俺は『はい』と脳内で宣言した。
『アルシアをマスターに設定しました。』
脳内で無機質な音声が流れた。