終わりと始まり
死とは何か。その問いに対し、哲学をろくに勉強したことのない俺が思慮深い答えを出すことは無理なのだろう。今とっさに考え付いたのは、「生命体」から「物」への性質の大きな変化、という答えになってない回答であった。これでは、「生命体とは何か?」という問いに置き換わっただけである。まあ、ともかく、死ねば「物」になるというのは間違いないだろう。その死体はそのうち腐敗し、そして長い年月をかけて土に還るのである。それが自然な時間発展であり、熱平衡状態への緩和だ。と、無駄な思考をしていてようやく不可解なことに気づいた。「なぜ俺は考えることができるのか?」という今更すぎる疑問に。
今、目の前には何がある?暗い、というか、視界がない?体を動かそうとしても、そこに体がないかのごとく感覚がない。ここは一体どこか?思考というのはニューロン間の結合が云々の量子多体現象であり、何もないのに考えられるはずがない。植物人間にでもなったのか?
そんなとき、なんとなく視界がぼんやり白くなった。目を瞑って蛍光灯を見たときのような感じだ。
「ようこそ。こちらの世界とあちらの世界の狭間へ。」
声……ではない。昔の恥ずかしい思い出を急に思い出したときのような、思考がダイレクトに脳に到達したような、そんな感じがした。うまく理解できないので、「声」だと思うことにしよう。
「残念ながら、あなたは死にました。」
驚きよりも、ああやっぱり……という思いが先行した。死んだのにこのように考えられるのは物理的におかしいではないか!と、生きているときの俺であれば反論したのだろうが、今はどんな意見でも無批判に受け入れそうだ。あまり自信がないが、夢の中の思考に近い。
その後、この不思議な「声」は淡々と次のようなことを告げた。実は俺が今まで生きていた世界とは違う世界が無数にあるということ、通常ならば死んだ者は元の世界で輪廻転生をするのだが、こちらの世界――俺が今まで生きていた方の世界らしい――は魂が多すぎるということ、そのため俺はこれから異なる世界に転生しなければならないということ、あちらの世界――いわゆる剣と魔法の世界らしい――はこちらの世界よりも生き残るのが難しいこと。どれも素っ頓狂な話だが、俺は不思議とそれを受け入れた。
「何か望みがあれば、それを一つ叶えましょう。」
「声」が続いた。望み、か。
「分かりました。それがあなたの望みですね。」
何も言っていないはずなのに、「声」は続いた。そもそも、口が感じられないのだから俺が言語を発するのは無理というものだが。生きていた時の自分ならば、「願い事を3つに増やして」などとひねくれたことを言いそうだ。
「それでは、よき転生を……」
視界が、また暗く、そして、俺は考えるのを……






