小鬼
現れたのは9匹の小鬼だ。
機動性に長け、対処が難しい黒犬でなかったのは運がいい。
しかし、小鬼だからといって侮れるものではない。
一般的に魔物の中でも特徴的な武器を持たず弱いとされている小鬼だが、迷宮内の小鬼には、脅威とされるものが3つもある。
一つ目が学習能力。
人と比べれば知恵もないが戦うことに関してその学習能力は劣らない。
弱い故に戦うときは使えるものは何でも使う。
覚えたものは片っ端から使ってくる。
1匹でも取り逃すと、その情報をもとに群れが強くなる。
また、人型のため人間の扱う武器を武器を使うことができる。
「「キキィー!!」」
階段上の小鬼2匹がが奇声を発しながら襲い掛かってくる。
それと同時に後ろの3匹が詰め寄ってくる。
出現したばかりだというのに既に連携しているようだ。
いずれも手には短刀を構えている。
飛び降りてきた2匹をかわし包囲から抜けるために右へと駆ける。
小鬼は、弱い。だからといって多数を相手にするの難しい。
脅威の2つ目、残虐性。
コイツらは、連携こそするが相手を殺すために仲間を傷つけることに躊躇いがない。
一匹を相手にしていたら、その腹から別のヤツの短刀が生えてるなんてこともよくある話だ。
それを可能としているのが3つ目の脅威、出現率。
この迷宮内で一番現れるのが多いのが小鬼だ。
ある程度距離をとり振返る。
離れてしまっても視界に映る限り小鬼は追いかけてくる。
だが、足の速さはそれぞれ。
居た位置もバラバラだった為、ハイドラットに追いつくのは1匹ずつ。
1対1を9回繰りせば十分勝機がある。
腰のナイフを抜こうとしたとき、階段上の小鬼がこちらに片手を伸ばしているのが見えた。
頭の中で警鐘が鳴る。その場からすぐに横へ飛退く。
ドスッ。先ほどまでハイドラットが居た場所には矢が突き刺さっていた。
「おいおい、弓とかマジかよ…。」
狭い通路で乱戦になりやすく視界の悪い迷宮内で弓は無用の長物だ。
使う場所は、かなり限定される。
そんなものを使う小鬼が居るとは驚きだ。
そんなレアな小鬼が2匹。
階段上に陣取る小鬼は弓を武器とするようだ。
他の5匹がハイドラット追いつくまでに反撃体制を整わせないように2匹で交互に次々と矢を射掛けてくる。
矢をかわしながら腰の背に挿しているナイフを取ろうと手を伸ばした。
が、抜けない。何か柔らかいものが邪魔をしている。
「おい、こら幼女。起きろ!!足、邪魔。どけろ」
ハイドラットは、自分の背中に背負われたまま未だ暢気に眠ているルラを起こす。
「ぅ~ん。なんじゃ、おぬし、うるさいの」
起こされたルラは、気だるげに答える。
「うるせえじゃねえよ、こちとら戦闘中だ。
足が邪魔でおまえの尻下のナイフが抜けないんだよ。」
「おぉ、ようやく戦闘かの。
おぬし、逃げてばっかりでつまらんかったからのついつい寝てしまったわ。」
ルラはハイドラットに背負われたまま回りを見渡す。
その間にハイドラットは矢を避けながらサイドバックか先刻焚き火に利用したカードを取り出した。
「小鬼どもが9匹かの。
1人で相手にするにしても随分多いの。
おぬしは、極力戦闘を避けるもんじゃと思っていたが。」
「地上に上がるためにはここを抜けるしかないんだよ。
時間が経って敵が増えるくらいなら今のうちに抜けた方がマシだ。
矢もそろそろ打ち止めだろうしな。」
その言葉を合図のように引っ切り無しに飛んでいた矢が止んだ。
ハイドラットは移動するのを止め、追いついてきた小鬼の攻撃をいなし、思い切り殴りつける。
そのまま地面に叩きつけ口元にカードを当て魔力を込める。
口の中で火柱があがり、小鬼は白目を剥いて痙攣する。
そのまま、痙攣している小鬼の足を掴み近づいてきた2匹目にフルスイング。
獲物のリーチが違う。
2匹目の短刀が届く前にこちらの獲物の頭蓋で相手の頭を叩き割る。
3匹目がその光景を目の当たりにし近づくのを躊躇している。
その後ろで1匹が逃げるように階段の方へと戻ってゆく。
「よし.、これでなんとかなるな。」
「おぬし…、なかなかやることがえげつないの。
それに、帰ったヤツは逃げたわけではないぞ。
矢を回収して行きおった。」
見渡せば、あたりの矢が無くなっている。
「ってことは、また矢を避けないといけないのか。」
失敗したと舌打ちする。
視界を逸らしたのを好機ととったのか3匹目の小鬼が飛び込んでくる。
ハイドラットは、それを軽く避けると勢いのまま流し転倒させる。
後ろ背を足で押さえつけ、前の小鬼から取り上げた短刀で捌き止めを刺す。
楽な対応だったが嫌な予感がした。
「おぬし、くるぞ!!」
ルラの声に小鬼どもの居る方を振返る。
階段下にいる1匹の小鬼の頭上にいくつもの火球が浮いている。
「おい、ふざけんな!!」
ハイドラットは、大広間から逃げるため全力で駆け出した。
放たれた火球はハイドラット達を焼き尽くすべく唸りをあげ飛んでくる。
「魔術師までいるのかよ!!」
ハイドラットは、喚き声をあげながら一番奥の通路に飛び込んだ。
立て続けに爆発音が轟いた。