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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
一章
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出立

さて、込めた魔力も尽きたのか暖を取っていた炎が消えカードが残るのみとなった。

ハイドラットはゆっくりとカードに手をかざす。

あれだけ長々と火を焚いていたというのにカードの表面からはその熱を感じない。

思い切って人差し指を下ろす。

熱くない。

今まで試したときと、なんら変わらぬ状態を再確認し、カードをサイドポケットにしまう。


幼女ことルラとマントも乾いた。

出立の準備だ。

まず重要なのは足だ。

迷宮の中を歩かなくてはならない。

何を踏むかわからないし、魔物に襲われることだってある。

逃げる最中に足を怪我して動けなくなるのは避けたいだ。


「ルラ、足を出せ。」


ハイドラットはルラのに足を差し出すよう求め靴の代わりになるように巻こうとする。


(あれ、布って何重にすれば大丈夫なんだっけ?

これを両足。で、あと服…。

・・・・・・・・・。

あれ、マント足りなくね?)


布が足りないのもそうだが、それ以前にハイドラットとルラでは歩く速度が違し、襲われたときに逸れてしまう可能性だってある。

今回重要なのはルラを無事に地上に連れて行くこと。

別の策を考え実行することにした。


「ルラ、ちょといいか。」


返事を待たずに、ルラの脇下に手を入れると高々と持ち上げる。


「おぬし、なにをするんじゃ!!」


暴れる幼女。いろいろと大事なものが見える。


「いや、以外に軽いなと思って。

…これなら大丈夫かもしれない。」


ルラを降ろすとハイドラットはマントを持ち直しを裂く。

多少の思い入れがあるマントを裂くことに少し躊躇したものの報酬で新調すれば良いと割り切った。

裂いたマントを解けぬ様に結び1本の紐を作る。


「ルラ。お前を背負って行くことにした。

その方が楽だし、安全だ。」


ハイドラットは紐を伸び縮みさせながら、近くに来るように指示する。


「わしは、どうすればいいんじゃ?」

「紐を通すから、そしたら俺の背中に抱きつけ。」

「うむ、わかった。」


返事を聞いたハイドラットは、ルラの背中から両脇の下に紐を通すと膝を曲げて屈み、その背中に抱きつかせる。

ルラが抱きつきハイドラットの首に手をまわしたのを確認すると、紐を自分の胸の前でクロスさせ結ぶ。

出ている紐を今度は後ろに廻しルラの尻の下を通す。

元はマントを裂いた幅広の紐だ。広げて尻下から覆うことでルラの落下を防ぎ安定度が増す。

これを左右したら紐を再び前に持ってきて結ぶ。

これで、多少暴れたところで落ちはしないだろう。

一般的には赤子を背負うときにする結びだ。

この状態で赤子を背負って走ると首ががえらい事になるが、今、背負っているのは首が据わっている幼女。

問題ないだろう。

背中に大して喜ばしくもない感触を感じる。


「よし、いくぞ」


ハイドラットはルラを背負い地底湖を出た。



先程までいた地底湖は五階層のつもりだったが考えを改める。

降りたときは気にもしなかったが、かなり長い。

五階層どころかもっと深いだろう。

階段は明らかに人工的に作られたもの。

だが、その先の所には何もなく、あったのは地底湖だけだ。

あの地底湖はかなり要所であるのかもしれない。

そこで発見したこの幼女はいったい何者なのか?

もしかしたら、迷宮内で役に立つのは本当なのかもしれない。

そんなことを考えながらハイドラットは懐から地図を取り出し開く。


迷宮において地図は重要だ。なぜなら、これ以外に自分の位置を知るものがない。

分岐が多く似たような場所が多い迷宮で自身の位置を見失うことは、死に繋がる。

ギルドにおいて地図の製作に賞金を懸けている理由も一部ここにある。

地図を持たせることによる生還率の上昇。

迷宮探索開始当初、生還率は低かった。

その大多数の理由は先も述べた通り、迷子である。

それまでの冒険者の仕事は、地図を必要とすることが少なかったらだ。

護衛であれば街道を沿ってゆくのが大抵であり、対象が道案内を兼ねることが殆ど。

討伐であれば近場まで現地の者に案内をさせる。

そもそも、地形図は戦略に利用されることを危惧した王国からその作成を禁じられている。

地図が重要視されるようになったのは、入組んだ迷宮の中、限られた食料で探索を行う必要があったからだ。

目的が迷宮の構図解明である以上、他の者が行った場所に行くことは二度手間でしかない。

効率よく行う為にも地図は必要であった。




二時間ほど歩くと大広間に出た。

途中、7~8回程魔物どもに遭遇しそうになったがハイドラットは持ち前の技能でやり過ごした。

背中からは規則正しい息遣いが聞こえる。

どうやら、ルラは寝てしまったようだ。

こちらが気を張りながら歩いてきたというのに気楽なものである。

下手に騒がれて魔物に感知されるよりはマシと考えるべきか。

この大広間、見晴らしも良く、何もない。

奥には上層への階段。

冒険者たちのとって魔物に警戒しやすく安全な場所に思える。

が、ここではそうはいかない。

迷宮内の魔物のほとんどは倒せば魔素に帰る。

黒い塵となって消えるのだ。

その散った魔素はしばらく経つと大広間に集まって再び魔物となる。

大広間は魔物の出現場所でもあるのだ。

長居はできず、拠点として利用するには難しい。

ハイドラットは、近くに気配を感じ、そちらを振り返る。

しかし、何もいない。


「こりゃぁ、不味い時間に着ちまったかな。」


おもったことを口にしながら急いで、階段に駆ける。

増える気配。前方の空間が黒く歪む。

魔物が出現する前兆だ。

前に4、後ろに5。

囲まれてしまったようだ。


「あとは、何が現れるか。」


濃くなる靄を前に幼女を背負ったままハイドラットは構えを取った。

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