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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
一章
6/62

名前

「おぬしの名は何という?」


膝に手をかける幼女に名を尋ねられた。

どうするべきか。

別に名乗ることには問題ないと判断し、答える。


「ハイドラット。ハイドラット・アルフォニカ。」

「ハイドラット・ハイドラット・アルフォニカか。」


幼女のボケにおもわず天を仰ぐ。天井が遠くに見える。

いや、ボケでは無いのか。本気で勘違いしていそうなのでとりあえず修正する。


「ちげーよ。ハイドラットが一つ多いだろ。」

「ぬぅ。ならば、なぜ繰り返した?」


案の定だったようだ。幼女は、いろいろなことに疎そうだ。

会話経験が、浅いような印象を受ける。

それが記憶の欠落によるものなのかは定かではないが、この幼女が冗談を真に受ける可能性があることを垣間見た気分だ。


「ハイドラットだ。俺はハイドラット・アルフォニカっていう。これでいいか?」

「あー、そうゆうことかの。理解したぞ。」


納得いったような顔をしている

本当に理解したのだろうか。とも思ったが、聞いたところで意味はない。


「で、お前は?」

「うむ、ルブラスカ。確か、ルブラスカと呼ばれておったの。」

「……。」


言葉に詰まる。

ルブラスカ。その名前は、この迷宮の外にある街の名前だ。

街の名前の由来は、元は遺跡だった街を守護していたという魔竜『ルブラスカ』

その咆哮は、聴くだけで肉体を砕き、その爪は鋭く鋼ですら用意に引き裂いたという。

さらにこの魔竜は術まで行使し、天より降り注ぐ光はあらゆるものを浄化したという。

別名『清浄のルブラスカ』

10年前、王国騎士団が行ったの聖域奪還作戦の際、数千人に及ぶ騎士団の4割がルブラスカの正体不明の術により壊滅したという。

この報を受け、王国騎士団はその中でも桁外れの戦闘力を誇る集団『天剣十一本』のから5名を投入。

激闘の末、多くの騎士と天剣3名の犠牲を出しルブラスカを討ち取ったという。

その傷跡は未だに街の外に残されている。


ルブラスカ。街の名前としているのは王国の矜持だ。

過去最悪の被害を出しながらも、魔竜を討ち取ったと国の内外に示すためのもの。

竜を滅ぼしたという証。

騎士団の力の象徴。

だが、個の名前としては、どうだろうか?

ルブラスカ。その名は忌諱されている。

当然だ。天剣を同時に3つも同時に失い王国の保有する戦力を過去最悪の状態に追いやった根源。

その名は、望まれるものではない。

嫌悪の対象だ。


「へぇ、ルブラスカって呼ばれていたのか。」

「そうじゃ。」


立ち上がり、腰に手を当て尊大に構える幼女。

支えを失った布が落ちる。


「お前には似合わない名前だな。」


ハイドラットは告げる。

告げたとたん勢い良く両顔を掴まれ激しく揺すられる。

今の発言が気に食わなかったようだ。


「なんじゃと。わしの名を否定するのか。」


幼女の目が潤んでいる。

多少の罪悪感を覚えたが仕方ない、このままだと良いことはない。


「待て待て、お前は記憶があやふやなんだろ。名前だって呼ばれたっていうだけで自分の名前だって根拠はないんだろ?」

「確かにそうじゃが…。」


自分の名前に根拠が無いことを認識したからか、揺れが弱まる。

ハイドラットは幼女の手を引き剥がす。


「それにな。ルブラスカってのは男っぽいだろ。」

「カッコいいじゃろ?」

「いや、お前は女の子なんだからもっと女の子らしい名前が似合うと思う。」


下を確認しながらハイドラットは言う。

うん、ついてない。

そのまま落ちたマントを拾い上げ幼女にかぶせる。


「そうなかの?」


両手を交差しマントを掴み上目遣い尋ねてくる幼女。

正直言ってしまえば、ハイドラットとしては男らしい名前とか女らしい名前とかどうでもいい。

名前なんて人それぞれだ。

自分の名前に誇りがあるならそれでいいと思う。

だが、その名前で自分が被害を被る可能性があるなら別だ。

この幼女を仮に養うとして、周りから良く思われていないような名前を名乗らせるのは、得策ではないと判断する。

その上でこの幼女が納得するよう話を持っていく。


「ああ、そうだ。

でも、ルブラスカって名前は気に入ってんだろ。

なら、そこから名前をとろう。」


『ル』『ブ』『ラ』『ス』『カ』から名前を作る。

ブラ・ラスカ・カス・ブス・カブラ…etc

あれ、意外に難しくないか?

思っていた以上に女の子っぽい名前がない。

しかし、言い出してしまったからには、あとには引けない。

ハイドラットは頭を悩ませながらも候補を絞り、そして、決めた。


「ルラ…。ルラっていうのはどうだ?」


幼女に伺いを立てる。

最後に決めるのはこの幼女だ。

拒否されたら別のを考えればいい。


「…ルラ。それがわしらしいのじゃな?」


真剣な顔で幼女が見つめてくる。


「ああ、すごく似合っていると思うぞ。」


抑揚なく反射で答える。


「ならば、わしはルラじゃ、よろしくのハイドラット!!」


自分の名前に喜びはしゃぐ幼女、もといルラを見つめ、ちょっとした罪悪感を覚えたハイドラットは目をそらす。

ゆえにルラの首輪がほんのりと光ったことには気づかなかった。

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