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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
一章
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そういえば・・・

さて、いろいろあったが、今回の目的は達した。

ギルド地図にない新エリアの発見より報酬に期待が膨らむ。

目ぼしい物は特にはなかったが、このは地底湖である場所は地下迷宮の中でもとりわけ広く起伏もほとんどないない場所だ。

以前からこの迷宮攻略において中継拠点の設置が望まれていた。

その意味ではこの場所は、かなりの価値があるのではないだろうか。

ギルドに報告の際に具申してみれば多少値を吊り上げることができるかもしれない。

もし、中継地を設置する話があがったなら、しばらく探索を辞めていろいろするのも悪くない。

地上に戻った後のことを考え口元が思わず緩む。


「おぬしよ。」


下の方から声がかかる。声のした方を見ると幼女がハイドラットを見上げていた。

今後のことを頭を巡らせて忘れていたが、今一番重要なのはこの幼女をどう地上に連れて行くかである。

道中、魔物に遭遇しない可能性は、ほぼゼロだ。

自分にこの幼女を守りながら地上に戻れるか考える。

ハイドラットの基本とする戦いは逃げである。

戦闘をできるだけ回避し、戦わないことによって生存率をあげる。

ハイドラットの人より優れた能力は2つ。

気配探知と気配遮断。

気配探知は、並みの人であれば感じ取れるのは数メートル程度のが、ハイドラットは数十メートル先まで感知できる。

また、察する気配でそれが人か魔物かも判断できる。

気配遮断は、自分の気配を薄くし、気づかれにくくする。

臭いは、完全に遮断できていないので鋭い嗅覚を持つ相手には効果が薄いが視覚頼りの相手にはかなり有効である。

これらの能力があるからこそ逃げることを選ぶ。

嗅覚の鋭い魔物に遭遇してしまった場合は、近くの冒険者を探し出し魔物進呈することにしている。

かなりあくどいやり方だが、一応、押し付ける対象は選んでいる。

ここにくるまでに押しつけた連中は、ギルドでも上位の方にいるグループだ。

黒犬と戦って負けることは、まずないだろう。

逃げ切れない場合は、戦うしかないができるかぎり最終手段だ。

さて、この幼女は…。

見て気づいた。いや、気づいてはいたが今まで無視していた。

この幼女、全裸である。

身にしているのは首の枷だけ。

首枷は太い鉄製の首輪ではずし方は解からない。

で、あとは生まれたままの姿。

このまま連れて行くと地上はおろか迷宮内で他の冒険者に出会った場合、何をおもわれるかは火を見るより明らかであろう。


「幼女、服を着ろ。」

「ぬぅ。」


何か言いたげな幼女。

そういえば、幼女から話しかけてきたなとおもいはしたものの服を着せることを優先する。


「お前、服はないのか?」

「服とはなんじゃ?」


根本的な問題が発生した。

服を着せようとする以前に服の概念を知らないかの可能性がある。

会話が成り立つので失念していたがこの幼女ここで出会う以前の記憶がない。

記憶が無くなると服という概念についても忘れるのだろうか?

物語などの場合、記憶がなくなったときには、たいてい服を着ているから感覚でわかるのだろう。

この幼女の場合、全裸で記憶を無くしてしまったから服についても分からなくなったという事だろうか?

いや、でも言葉についてはなんの問題もなかった。

服というものを最初から知らなかったのではないだろうか…。


「服というものは布を身体の形に(かたど)ったものだ。

俺が着ているこれが服だな。」


ハイドラットは上着を摘まみながら答える。


「ほぉ、それが服というものか。わしは持っておらんの。」


残念そうに幼女が答える。


「なにゆえ服を着るのじゃ?」


その質問にハイドラットは考える。

なぜ服を着るのか?

当たり前すぎて考えたこともなかった。

適当に思いついたことを言う。


「そりゃ、急所を曝け出しておくのは恥ずかしいからだ。」

「ならば、見られて恥ずかしくないわしは、服を着る必要がないの。」


答えを誤ったようだ。

ここは幼女に服を着るように誘導しなければならない。

首輪付きの全裸を連れて行くなど精神的自殺行為だ。

全裸の幼女を連れているとこを見られた場合、おそらくハイドラットに反論する機会は与えられないだろう。

この幼女には服を着せなければならない。

自身のためにも。


「服っていうのはな、身を守るための防具なんだ。

人の体は他の生き物に比べて圧倒的に弱い、簡単に傷つく。

軽い怪我でも悪化すれば命にかかわることもある。

そういった状況にならない為にも服は必要なんだ。

確かに布一枚の防御力はたいしたことない。

それでも、転んで本来なら擦り傷なのをを無傷にすることもある。

それに、服には防寒の効果もあり着ることによって温度の変化に対応することができる。

多様な服を作り着ることによって、人は環境への適応力を身に着けたわけだ。

また、服は収納にも優れいるポケットを作ることによって物を入れることができる。

最大の利点は物を持っているにかかわらず両手が空くことだ。

両手が自由なることによって状況への対応力が増す。

隠すのにも便利で…。」


あれこれ思いついたことを片っ端から並べてゆく。

説得をしなければならないせいか口調もいくらか丁寧だ。

ハイドラットの説明に幼女は「ほうほう」と相槌を打っている。

その感心した顔が歪んだかと思うと


「ふぁ、くぁ、へっくち!」


幼女がくしゃみをした。

考えてみれば幼女は、地底湖から出てきたままで髪はまだ濡れている。

迷宮内は、この深さになると洞窟内と同じだ。

一年を通して気温は一定に保たれている。

だいたい、15℃~20℃くらい。水浴びをして放って置くには寒いくらいだ。


「幼女、まずは濡れた身体をどうにかしよう。風邪を引く。」


ハイドラットは溜息をついてから幼女に向かって手招きする。

羽織っていたマントを脱ぐと幼女の後ろに回りこむ。


「何をするんじゃ。」

「拭いてやるからしばらく黙っていような。」


騒ごうとする幼女を黙らせ水気を取る。

まずは髪だ。長い髪は水分をたっぷりと吸っていていまだに水滴を滴らせている。

頭部を軽く拭いたあと、残った後髪を束ねて軽く絞る。

幼女の銀髪は非常に艶やかでさわり心地が良い。

ある程度絞ったら髪が痛まぬよう布で挟んで水気を切る。

その作業が終わったら髪を持ったまま肩・背中と拭いてゆく。

髪を放したら、そのまま前に手を回し腹から胸へ。

突起が少なく面白みがない。


「ほら、万歳だ。両手をあげろ。」


いわれるがままに両手を上げる幼女。

その顔は、なぜか誇らしげである。

そのまま、脇・腕と続いてく。

尻を拭いてから股下。

手で掬うように前から後ろへと3回程優しく擦る。


「ひにゃっ!」


変な音が聞こえたが気にせず、腿からつま先へ。

これで粗方拭き終わったろう。


「あとは自分でやれ。」


ハイドラットはマントを幼女に放った。

さて、すぐにでも地上を目指したいが今は荷物がある。

着せるものなど持ち合わせがない。

別の物で拭いてマントを着せるべきだったかもしれない。


「しょうがない、アレを使うか。」


ハイドラットは腰のサイドックから手のひらサイズの赤いカードを取り出した。

その表面には複雑な模様が描かれている。

端を摘みカードの表面に意識を集中する。

すると、カードの模様が輝きだし、火柱が立つ。


「おぬしは、術を使えるのかの?」


見ていた幼女が問う。


「いや。俺は術は使ない。これは、この迷宮で拾ったものだ。」


ハイドラットは、幼女の隣に座りカードを前に置く。

そのカードからは依然に火柱が昇っている。


「こいつは、込めた魔力で威力・継続時間を変えることができる。

しばらくここで暖を取る。

こいつが消えるまでにお前とその布を乾かしておけ。」


膝に肘を置き、その手でこめかみをこめかみを抑える。

術慣れしたないため、魔力を込めるという作業は難しい。

魔力を込めると精神力を持っていかれる。

軽く眩暈を感じたがこれが個人差なのかは、まだわかっていない。

このカードは、神々の遺品のひとつである。

詠唱も祈りも知らないハイドラットが魔力を込めるだけで発動できるという優れものだ。

火を起こすことができ、暖をとるにも薪を必要としない。

ギルドでも似たカードいくつも回収されているはずだが、研究のため全て王都へまわされている。

ハイドラットが持っているのは全部で4枚。

いずれも、自分が発見したエリアで調査が入る前にくすねた未報告品である。

原理は、わからないが量産できれば金になるとおもって戴いておいた。

効果は4枚全て別物。

何度でも繰り返し使うことができるので重宝している。

ただ、他の冒険者がいるところで使ったことはない。

報酬の代わりに迷宮内の神々の遺品は全て回収が義務付けられているからである。


さて、幼女を発見したわけだがこの所在は、どうなることやら。

幼女の希望としてはハイドラットに養って欲しいらしい。

だが、利益になるかもわからない幼女置いとく義理はない。

ギルドに詳細をままに預ければどうなるかはわからない。


幼女、幼女、幼女と繰り返して気がつく。

この幼女の名前をまだ知らないことに。

しかし、この幼女、自分が何者かわからないと言っていた。

果たして名前を覚えているのだろうか?

そんなことを考えいるうちに、服のやり取りの前に幼女が話しかけてきたことを思い出す。


「なぁ、幼女。そういえばお前、俺に先に話しかけてきたよな。

何言おうとしてたんだ?」


隣で、マントに包まって暖をとっている幼女に話しかける。


「おお、そうだったの、忘れておった。」


幼女は、這い寄りハイドラットの膝に手をかけると、こちらを見つめ


「おぬしの名は何という?」


どうやら、幼女も同じことを思っていたようだ。

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