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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
一章
3/62

出会い

ハイドラット・アルファニカはこの街で、それなりに名の知れた冒険者である。

彼は今、地下迷宮を駆けている。


この地下迷宮を町の中心に抱える街ルブラスカは、国内最大の迷宮を抱えた迷宮探索都市である。

その規模は未だ不明。

発見から9年経過した現在でも調査中である。


この迷宮は、かつて神々が住んでいたとされる場所であり、その中にさまざまなの文明の遺品が多く残っている。

しかし、迷宮内は魔物が絶えず湧き出し危険なうえ、見つかった文明品もその場でないと使えなかったり、大きすぎて運べなかったりした。

それ以前に、並みの冒険者ではそれがなんであるのか解読することもできなかった。

発見された技術は、非常に価値が高く、文明のレベルを塗り変えてしまうようなものが多く存在する。

技術の独占を狙った王国は、冒険ギルドに依頼。

『叡智の秘法』を筆頭に迷宮内の『新たな通路、部屋の発見』に懸賞を賭け安全を確保した上で調査団を派遣することにした。


ハイドラットは『新たな通路、部屋の発見』に重点を置く探索型の冒険者である。

彼が探索を重視する理由は2つ


ギルドが作成する迷宮地図に存在しない通路・部屋を発見し報告するだけで、確認が取れ次第、賞金が貰える事

そして、なにより戦闘をしなくてもいいという事。


ハイドラットは戦闘が嫌いであった。

魔物が湧き出る以上、迷宮を探索するうえで魔物と遭遇するのは当たり前である。

そのために、冒険者は装備を整え戦う準備をする。

武器を揃え、身を守るために防具を纏う。

果たしてその効果は如何程だろうか?

ハイドラットは、それが自殺行為だと思っている。


迷宮内で魔物を倒す場合そのほとんどは生物である。

倒し撃退したのはいいが血の匂いをまとうことになる。

これは迷宮において自殺行為だ。血の匂いに引き寄せられて更なる魔物を呼び込む結果となる。

結果、魔物が尽きぬこの迷宮では連戦になって行く。

連戦になれば鈍重な鎧は足枷でしかない。

鎧によって動きを制限され、体力を疲弊し泥沼と化す。



彼は今、駆けている。 後ろには7匹の魔物。

その姿はこの迷宮ではお馴染みの黒犬である。


(こいつら嗅覚あるから面倒なんだよな…)


そんなことを考えながら迷宮内を駆けている。

彼が走っているのは、数分前に自分が通った道だ。

走りながら時折現れる横道に意識を配る。


(予想が合ってれば、そろそろなんだが…)


懐に手を忍ばせながら考える。

相手は黒犬。

一体一体はさほど強くないが、7匹。

対してハイドラットは単独である。武器は両腰に刺しているナイフ2本のみ。

ナイフはさほど強度はないし、1匹しとめたとしても残り6匹から攻撃されることになるだろう。

防具といっても着ているのは布の服。

噛み付かれて無事に済むはずがない。

考えながら、来た道を戻っているうちに目当てのものを見つけた。


「ラッキー、それじゃあとよろしく」


そう言って、目当てのものがあった横道を通り過ぎ、その見えなくなったところで懐に忍ばせていた煙玉を地面に叩きつけた。

ボン、という音とともに激しい煙が立ちこめる。寸前に音と煙を警戒して、黒犬達が止まったのが視えた。

煙から抜け、追っ手がこないか距離をとって構える。

しかし、暫くすると


「ぎゃぁぁぁぁ、黒犬。」

「なんで、こんなに!皆、構えろ!!」

「この数、きついって!!」


なんて、悲鳴があがっていた。

どうやら、目論見どおり黒犬達を他のチームに擦り付けることに成功したようである。

剣戟と爆発音、威嚇音を響かせながら他のチームが遠ざかってゆく。

煙が消えた頃、服装を整え汗をぬぐいながら彼らのいた横道を覗く。

誰もいなかった。

戦える奴が戦えばいい。

ハイドラットはそう考える。



今回のハイドラットの目的は新エリアの調査だ。

戦闘をなるべく避ける彼が探索の冒険者をやっているにも目的がある。

その目的は叡智の秘法の発見である。

秘法には神々の叡智がつまっているといわれ、その叡智はありとあらゆる全ての理に解することができるという。


(そんな都合のいいものが本当にあるとは思えないが…)


考えながら階段をおりる。ここから先は未だ探索者が入ったことのない未知のエリアだ。

警戒しながら階段を下りる。

そこには地底湖だった。

地底湖というのは正しいのだろうか?

何かしらの成分がまざり緑色の光を放つ液体が一帯に広がっている。

触っても大丈夫なのだろうか?

湖のほとりまで来たハイドラットは地底湖を覗き込む。

地底湖は淵が切り立っていた。


(深さはどれくらいだろうか?)


そんなことを考えながら、左右に首を動かし見渡す。

前方に天井から垂れ下がった二本が鎖が見える。

鎖は水中へと続いており、その先には銀色の藻のようなものが漂っている。

気になって目を凝らすとそれが人の形をしていることに気がついた。

天井の鎖は両手の枷に繋がっている。

首にも枷が嵌められおり、そこから伸びる鎖は、底知れぬ水底と繋がっているようだ。

異様な光景に畏怖しつつ、それが何であるか考える。


(おいおい、誰もここに到達してないだろ。報告挙がってなかったぞ、ここへは俺が一番最初のはず。

コイツは、いつからこの状態なんだ?生きてないよな・・・)


確認しようと身を乗り出し、手が水面に触れた。


―――瞬間、それの目が開いた。


ハイドラットは息を呑んだ。

地底湖に漂う人の形をしたそれと視線が合う。

両者見つめあう。

突如、それを固定していた鎖が外れた。

自由になったそれは、こちらに向かって泳ぎ始めた。


(どうなってんだよ、これは!!)


段々と近づいてくるそれにハイドラットは、慌てて立ち上がり距離をとる。

水面から手がとびだし地底湖の淵を掴み這い上がってくる。

肘と膝で四つんばいになって進んできたそれは銀色の獣のようだった。

心拍が速くなる。

銀色の獣は頭を上げこちらを睨みつける。

再び重なる視線。

ハイドラットは視線を外さないまま大きく呼吸しナイフを持つ手に力を入れる。

これから飛び掛かかろうとしているのだろう。

相手の両足に力が加わり膝を曲げたそのとき。

ふと、なにかに気がついたかのように銀色の獣が2本足で立ち上がった。

両手に視線を配りながら手を開いたり握ったりを繰り返す。

片足ずつ交互に何度か持ち上げ、今度は両手で腹、胸、顔と触ってゆく。

かとおもうと自分の髪に気がついたのか後ろを振り返る。

そのまま湖面に近づき映る自分の姿を確認しているようだ。


(なんなんだ、この子は…?)


ハイドラットの目の前にいるのは銀色の獣ではなく少女。

いや、少女というの表現するのは的確なのであろうか?

髪は光沢のある綺麗な銀髪だ。腰まで伸びた髪からは水が滴っている。

身長は低い。背丈はハイドラットの半分とちょっとぐらい。

手を置くのにちょうど良いさそうな位置に頭がある。

正直、少女というより幼女といった方がしっくりくる外見だ。

自分の姿を確認できたのか幼女はこちらに向いた。


「■■■■◇■__■◇■■?」


何を言っているのかわからない。


「Ь〇$…?ゝд‐л#ЩΛΘ…」


何かの言語だろうか。


「お前は、何を言っているんだ?」


ハイドラットの口からおもっていたことがこぼれた。


「こ…ば、は、これ…つうじ、るか、の」


突然知っている言葉を話し始めた幼女に驚いたハイドラット。


「おお、どうやらこの言葉なら通じるらしいの。」


突然、流暢に年寄りのような口調でしゃべり始めた幼女は、次の瞬間とんでもないことを口にした。


「おぬし、わしを養わんか?」

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