花、るりろら
受験帰りに新幹線の中で書いたもの。タグにもある通り、日常の一コマです。
居間に行くと、とある県議会議員の汚職事件についてのニュースが流れていた。一向に罪を認めようとしない議員は、ついに刑事裁判にかけられるらしい。幕の閉じ方まで汚いやつだ、と俺は内心呆れた。
「立派な大人になりたいなぁ」
呟く弟の声がやけに深刻そうで、俺は小学生のくせに生意気な、とデコピンを食らわす。弟は大袈裟に痛がった。
「そうねぇ、立派な大人になってほしいわ。ガンバレ、受験生!」
軽い調子で言う母の言葉に苛つき、頑張ってるし、と言い返す。素直にうん、と言えばいいのに。
自己嫌悪に陥り、鞄を黙って引っ掴んで居間を出た。「どこ行くのー?」と母の声が俺を追いかけてくる。「予備校!晩飯はいらない!」と俺は素っ気なく返し、一方的に行ってきますと言い予備校に向かう。外は雪が降っていた。マフラーでも持ってくるんだった、と後悔する。コンビニの前で肉まんを頬張っている中学生たちが羨ましかった。
――くそ。いいよなぁ、お前ら楽しそうで。俺は受験で一杯一杯だよ。
自分が中学生だった時も受験生はそんな目で自分たちを見ていたのだろうか、と考える。まぁ、どうであろうと今の俺には関係のないことなんだけど。
カンカンカンと電車の通過を知らせる音がし、踏み切りが封鎖される。俺は何を見るともなしに、ただ前を向いて突っ立っていた。電車が視界を遮り、風を起こし、俺の髪を揺らす。
一瞬、この竿を越えて線路に出てみたいと思ってしまった。この、電車が通過している最中の線路に。
死にたい訳でもないのに、それはどこか抗い難い欲求に思えた。いけない、と感じ、線路から目線をずらす。あのまま見続けていると、線路に引きずり込まれるのではないか、という馬鹿げたことを夢想したからだ。あり得ない、と分かってはいるのだが、どこか真実っぽく俺には思えた。
何故かどきどきとして、俺は俯く。線路にじっと見られているような、そんな居心地の悪さを感じた。
果たして、竿が上がった。
ほぅ、と一息ついて、やっと気持ちが落ち着いた。視界の開けた線路の向こうは、普通に見慣れた町並みで、その面白くもなんともない光景に、やけに安心してしまった。ただ、電車が通りすぎるのを待っていただけなのに、奇妙な体験をしたかのような、変な気分だった。何の変哲もない風景が、いつもより明るいものに見えた。靄が晴れたのだ、と唐突に思った。もともと視界には靄なんてなかったのにも拘わらず、俺は直感的にそれが正しいように感じた。
立派な大人になりたいなぁ。
弟の呟く声が、不意に耳に蘇る。その呟きは、予備校の授業が始まってもなかなか消えず、耳にしつこくこびりついた。
題名「花、るりろら」
⇒はな、るりろら
⇒はな、「らりるろ(“れ”ない)」
⇒はなれない、
最後の弟の言葉が耳から離れない、という意味合いの題名。分かりにくいので一応解説。




