*63*アレクシスとミゼリカのuntrue love story XIII
気おじした様子で文に目を落としたミゼリカは、しばらくすると一度大きく目を見開いた。それから追い立てられるように左から右へと視線を移していく。どうしてか、ミゼリカの目線が下へ下へと進むほどに彼女の表情はどんどんと強張っていった。
「……ミゼリカ?」
「……」
しかし、彼女は俺の声など聞こえていないかのように一心不乱に読み進める。ちらりと兄上の方を窺ってみたが、未だ躊躇うような面持ちをさせていた。
その時――
「……っ……」
「え?」
再びミゼリカの方へ目線を戻すと、彼女の瞳に光るものを見付ける。直後、それはつー……と零れ落ちていった。
「なっ……! ミゼリカ!?」
「……ぅっ……」
ただ事では無い彼女の様相に、思わずどきりと動揺してしまう。だが、そんな自分の戸惑いを知ってか知らずか、ミゼリカの瞳からは絶えずそれが溢れ出ている。
「大丈夫か?」
さすがに気に掛かった俺は、「ちょっと見せてくれ」と手を伸ばした。だが、文に手が触れる直前――
「!? ミゼリカ!」
突然、彼女は体中の力を失ったようにふらりと足元から崩れ去り、ぺたん……とその場に座り込んでしまったのだ。
「なっ、どうした……?」
「ミゼリカ様っ!?」
後ろに控えていたメイドたちが慌てて近寄ろうとしたのを、「良い」と手で合図する。
俺は直ぐ様ミゼリカのかたわらにしゃがみ込み、彼女の様子を窺った。ミゼリカはぼおっと空を見つめたまま、未だ涙を溢れさせている。両手は爪が食い込んでしまうのではと思えるほど強く握り込まれていた。
何が書いてあるんだ?
彼女の変わり様に聊か怯みがちな自分を奮い立たせ、側に落ちていた文をそっと手に取った。何かを予感させるように、ドクン、ドクン……と心臓が嫌な音を立てている。
俺は腹を決め、そこに目を落とした。
始めは儀礼的な挨拶が書き連ねられているだけで、特段おかしな風では無かった。だが、それを読み終えた時、俺はミゼリカの涙の訳に気が付いてしまったのだ。




