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*59*アレクシスとミゼリカのuntrue love story Ⅸ

 その後、俺たちは離宮で生活を始めた。

 エメリアは、度々ミゼリカを訪ねに来ていた。兄上も忙しい執務の合間を縫い、時々は娘の様子を見にやって来る。


 娘は、ローザリカと命名した。

 ミゼリカの名から一部をとったのだ。彼女は俺の名にあやかったものを名付けたかったようだが、俺は娘が生まれた時の笑顔がミゼリカにそっくりだった事が深く心に刻み込まれていて、どうしても彼女の名からとりたかった。

 ミゼリカは心なしか寂しそうにしていたが、「とても光栄です。ありがとうございます」と笑みを浮かべ納得してくれた。自分の意見を押し通した形になってしまい、彼女が落ち込んでいないか不安になったが、ローザリカを優しく眺めるミゼリカを見て杞憂だったと安堵する。


 それから暫くは、自分にとって「幸せだ」と感じる日々を過ごしていた――――






「あの、アレクシス様?」

「……? 何だ?」

「実は……」


 それは就寝前の、ある日の事だった。寝所へとやって来た途端、ミゼリカから重苦しい顔付きで、とある告白を受けたのだ――




――「え……?」


 その告白を聞いた俺は、束の間、言葉を失ってしまう。そして、こんな自分の反応に少しばかり驚いてもいた。


 ミゼリカは、もう妊娠出来ない体であると、医師(ドクター)から診断されたと言われたらしいのだ。それは、王族の妻として”不適格”であるという評価(レッテル)を貼られたという意味に等しい。


「……申し訳ございません」

「いや、謝らなくていい」

「でも……」


 俯き加減で話していた彼女は、ふいと強い眼差しで俺を見上げた。真っ直ぐに射抜いてくるミゼリカの視線からは、どこか決意の籠もった凄みのようなものを感じる。


「どうぞ、側室を配して下さいませ。わたしでは力不足ですわ」

「え?」


 一瞬、ミゼリカの口から出た言葉を理解出来ずに思考が停止してしまう。

 刹那、それを無理矢理に飲み込み、思わず目を大きく見開いた。


「……なっ……!」


 彼女から放たれた一言は、俺をより一層呆然とさせた。いくら愛の無い結婚だったとは言え、妻から「愛人を持て」と頼まれるなどと予想もしなかった。


「何を言ってるんだ!? 妻を二人以上持つ事は禁じられている。兄上だって許さないだろう」

「……っ、ですが!! ……陛下には、わたしから頼んでみます。わたしからのお願いであれば、お許し頂けると思いますわ。それに、民には公になさらなければ大丈夫かと……」

「……」


 尚も食い下がろうとするミゼリカに対し、俺はどこか苛々とした心地(モノ)を感じていた。これ以上、その話を蒸し返したく無いような気分になり、ふいと踵を返して寝台へと向かう。


「とにかく側室など必要無い。その分、ローザリカを大切にしてやればいいだろう?」

「でもっ……」

「いいと言ってるんだ!!」


 反射的に、怒りを孕んだ声色で叫んでしまう。その直後、ハッと思わず息をのんだ。「まずい」と思った。そして彼女に対し、初めて感情的になってしまった自分を悔いる。



「……」

「……」


 それから暫く、嫌な沈黙が続いた。

 彼女の気配を背後に感じながらも、どうしてか振り向く事が出来ない。「ミゼリカは、どう思っただろうか?」と、そんな想いが大きくなり始めた時――


不躾(ぶしつけ)なお話をしてしまい、申し訳ございませんでした」

 

 彼女の方から口を開いてくれたので助かった。


「……いや、気にするな」


 俺はそう一言告げると、直ぐに寝台に横になった。



 その日は、ミゼリカの顔を一度も見れなかった――――


 


 


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