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*51*アレクシスとミゼリカのuntrue love story Ⅰ

アレクシス視点です。

「アレクシスーーーー!!!」


 真っ赤な絨毯が目を引く廊下中へと、怒りを露わにした語勢が轟いた。

 直後――



バーーーン!!



 その声の主は、両開きの扉を何の遠慮も無く押し開いた。この部屋の主人への”入室許可”に対する意志は、どうでも良いようだ。

 部屋の外で待機している張り番の兵士たちは、そのあまりの苛烈さに戦々恐々としていた。



「またお前はっ!! ……ん?」


 そして、ふと”ある場面”を見て硬直する。それから、彼は見る見るうちに顔を真っ赤にさせていった。



「アレクシスーーーーーーー!!!!!」



 本日一番の怒声が、城中に響き渡った瞬間だった―――― 






――――「全くお前は……。兄の結婚式当日にさえ女を連れ込むとはな!」

「はぁ……申し訳ございませんでした」


 俺は「ふあぁ……」と無自覚に出てしまった欠伸(あくび)をしながら、半分夢うつつの状態で、もう何度目かも分からない兄上の説教を聞いていた。

 昨晩行われた兄の結婚の前夜祭で出会った女と意気投合してしまい、つい”お持ち帰り”してしまったのだ。都合(タイミング)の悪い事に、それを先刻兄に見付かってしまった。



「とにかく早く支度をして来るんだ!! 分かったな!?」

「はいはい」


 きっちりと濃紺色の正装を着こなしている兄上からの”説法”を右から左へと受け流した俺は、「やっと終わったか」と最後の一言だけはしっかりと頭の中におさめた。

 一通りの怒りを俺にぶつけた兄は、ドカドカという音が聞こえてきそうな程の足取りで”妻”の下へ向かって行った。


 はぁ……面倒だが仕方ない……。


 「兄上()の結婚」という国の一大催事(イベント)だというのに、全く気が進まないでいた。


 ――遂に、この日が来たか。


 そんな風にしか考える事が出来なかった。

 仕方が無しに侍女たちに手を貸されながら、ゆるゆると浮かない気分のまま紺色の正装に袖を通す。襟元まで閉めるのは堅苦しくて嫌だったが、「兄上たちの為だ」と諦めたように嘆息する。着せ替え人形のようにされるがまま、ぼうっとこれから始まる”お祝い事”へ思いを巡らせると、憂鬱な気分にしかならないであろう自分に嫌気がさした――――




 兄上の妻であるエメリアは、兄たちが幼い頃から定められていた婚約者だった。

 彼女の父であるウェイン侯爵は、クリーガーとの国境を治めている公爵家を公私共に支え大きな信頼を置かれていた。そのため、今は亡き父上が、兄が5歳、俺が3歳の時に誕生したエメリアを「次期王妃」に任命したのだ。恐らく、年齢が近かったからというのもあったのだろう。

 こうして、侯爵家にとって薔薇色の人生が約束されたのだ。


 そして、それは当主であるエメリアの父だけではなく、エメリア自身にとっても幸運な事だったのだ。



 彼女は、ウェイン侯爵と共に「未来の王妃」として度々城へとやって来ていた。だが、それは当然“大人たちの思惑”だ。俺と兄上にとって、彼女は“妹“のような大切な存在だった。

 それに物心付いた折には、しょっちゅう時を共にしていたのだ。幼い頃の俺たちにとって、“妻“となり“義姉“となる少女であると言われたところで現実感などある筈も無い。

 只々、三人一緒に庭園で駆け回っている事が楽しくて幸せだった。


 エメリアは、成長するにつれて徐々に母譲りの可憐さを増していった。それだけでなく、“王妃“という肩書きだけとってみても他の令嬢たちからは嫉妬や羨望の的となってしまう。実際に(いわ)れ無い噂を流されたり、浅ましい嫌がらせを受けたりしていたようだ。

 だが、エメリアは慎ましそうな佇まいとは裏腹に、割り合いとはっきりものを言う性質(たち)だった。

 「やられるだけやられ、裏でそっと涙する」――そんな繊細な女では無かったのだ。それどころか、「やられたらやり返す」くらいの気概を持った女だった。


 こんな性格も相まって、彼女らの中傷も上手くかわし”王妃”としての座を守り切ったのだ。とは言え、国王()からのお墨付きであったのだから余程の事でもない限り、いくら令嬢たちが妬み羨んだところでそれが覆るなど有りもしない。それでもエメリアは、幼い頃から”王妃”という身分に拘り続けていた。それは、彼女が王妃教育を受けていたという自尊心(プライド)のようなものもあったのだろうが、最大の理由はそこでは無かった。

 エメリアは一重に「王の妻」という称号が欲しかった訳では無く、兄上――「レオパルドの妻」になる事を何よりも望んでいたのだ。



 それに気が付いたのは何時(いつ)だっただろうか……。



 まだ父上が健在だった頃、次期国王である兄上は、弟である俺よりもずっと厳しい教育を施されていた。その間、俺とエメリアは庭園の東屋で穏やかな時を過ごす事が多かった。それ故に、彼女は兄よりも俺との方が遥かに長い時を過ごしていたのだ。

 それに俺が笑い掛けてやれば、ふっと朗らかな笑みを返してくれる。


 だから、安心していたのかもしれない。

 当たり前だと自惚れていたのかもしれない。  



 きっと、エメリアも俺の事が好きなのだろうと……――――








untrue=不実な、真実でない、虚偽の

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