表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/64

*4*彼の想いは……

 「…………オン……リオン……」


   

  ああ、誰かがオレを呼んでる。


  ひどく懐かしい声だ……。

 

  そこにいるのは誰……?


  ああ……、アイツだ……。

 

  アイツがオレを呼んでる。


  アイツがオレに微笑んでる。   


  アイツがオレの手を握ってくれてる。


  夢のようだ……。


  ユメ……?


  それならこのまま覚めないでほしい。


  このままずっとオレの手を握っていて……。


  このまま……、ずっと――――


  

 「いやあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」






「はぁ……はぁ……。……夢、か……」


 リオンは息を乱し、額には汗が滴り落ちている。

 ドクドクと、心臓の音がやけに大きく響く。

 辺りは闇で覆い尽くされている為、余計にだ。


 窓から射す月明かりだけが、彼の寝所を幻想的に映していた。


 リオンは、寝所の脇にあるチェストへと手を伸ばした。

 そして、落ち着きを取り戻させるように、グイっとそこにあったグラスの水を飲み干す。


「ふっ……」


 リオンは自嘲気味に笑った。


 ――あれは夢だとわかっていたじゃないか……。何をそんなに動揺しているんだ……。


 それから彼は、自らの頬に伝うモノに気付く。


 ――涙……。


 リオンは、自分自身が流す(ソレ)を信じたくないかの様に、グッと右手で乱暴に拭う。


 ――情けない……こんな事で涙を流すなんて……。オレはこんな事で動揺するようじゃダメなんだ。


 リオンは、自らの尊敬する国王の姿を思い浮かべた。


 ――父上のような、立派な国王にならなければいけないんだ……。


 

 しかし、ふと、彼の護衛騎士の言葉を思い出す。


『リオン様は王太子殿下としてのリオン・レオナルド・アルダンではなく、ただのリオン・レオナルド・アルダンとしての気持ちを捨てきれていないのです』

『大切な宝である息子の気持ちまで”国王”として染めてしまわれるのであれば、その時は俺が陛下を殺してやりますよ』

『素直になりましょう、リオン様』


 ――素直になれ、か……。


   

  王太子としての自分と1人の男としての自分……。

  どちらが本当の自分? 

  どちらが本当にしたいコト……?



「わからない……。オレ一人じゃわからない……」


 リオンは、とてつもない孤独感に襲われる。

 

 この城の中には国王を補佐する宰相を筆頭に、補佐官たちや数千という兵士や侍女たち。料理を担当するシェフたちや医師や看護婦、庭師など、リオンの顔も名前も知らない者たちが日々その職を全うしている。

 これ程たくさんの者たちが、リオンたち王家のために動いている。

 けれど――――


 オレは……


 『素直になりましょう、リオン様』


   

  素直になれば――ミタサレル?

  この渇いた心が――イヤサレル?

  わからない――ワカラナイ――――



 ――寂しいんだ……。


 リオンの中にぽっかり口を開けている空虚な心は、それを満たしてくれる者を求めている。


 

 

 『いやあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』


 リオンは刹那、夢の中の”アイツ”の声を思い出す。

 


  怖い……

  辛い……

  もう……あんな思いはしたくない……。



 なのに――――



『リオン』


夢の中で”アイツ”がオレの名を呼んでいた。

「王太子殿下」ではない、「リオン」というオレの名前……。

父上と母上が付けてくれた、大事な名前……。


もっと、もっと呼んでほしい。

夢の中だけじゃ足りないんだ……。



 リオンは、自身の右手を見おろした。



あの頃、オレたちはいつも一緒だった。

何をするにも、どこへ行くにも傍にいた……。

この手を繋いでた……。


 それなのに――――



「……っく……」


 

 王太子であるリオンでさえも変えられない、現実だけがそこに在る……。




  寂しい……

  傍にいて……

  手を握って……

  オレに微笑んで……



 それから――――


「……抱きしめて、ほしいよ……」

  


 リオンは、自身の体を両手で抱き込んだ。

 そこに居てほしい「彼女」を想いながら……。

 

 

胸が苦しい。

千切れて張り裂けてしまいそうなほどに……。



 リオンの碧い瞳からは、とめどなく涙が溢れていた。

 しかし、彼はもうソレを拭うことはしなかった。

 リオンの涙は、彼の純粋な「想い」を表しているかのように、月明かりに当たってキラキラと綺麗に光っていた―――― 

   







   



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ