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*34*ローザリカのfear Ⅱ

※注意!

R15程ではございませんが、一部ショッキングなシーンが含まれています。「小説家になろう」のマニュアルを確認したところ「医学を題材とした小説等で描写が必要な場合」はR15指定は必要ないそうです。医学を題材にした小説ではありませんが、ローザリカには、暴行疑惑があります。それで、だいたいお察し頂けるかと思います。

不快感を持たれる可能性のある方は、ご注意くださいませ。

「……ん……」


 わたしが次に目を覚ましたのは、自分の寝所の中だった。

 どれ程の間、気を失っていたのだろうか。既に窓の外は闇に覆われていた。


「あっ……ローザリカっ!!」

「お母様……」


 ずっと付き添ってくれていたのだろうか。傍に腰掛けていたお母様が、直ぐにわたしの方を覗き込んできた。

 お母様の銀灰色の瞳は真っ赤になっていて顔色も悪く、急にやつれてしまったように感じる。

 けれど、母の顔を見てホッとしたのもつかの間、下半身に感じる違和感に気付いた。


 ……えっ……?


 自分の両足は、くの字に折り曲げられており、物心付いてからは誰にも見せた事のないソコを曝け出されていた。わたしの目線の先には、とっぷりと白髪の多くなった医師(ドクター)と数人の看護婦の姿が在る。


 何? 怖いっ……そんなところ見ないで……!!


「申し訳ございません、ローザリカ様。少し我慢していて下さいね」


 そう言いながら、医師が気遣わしげな表情を見せた。

 それから、お母様は苦しそうな面持ちで、わたしの右手をぎゅっと強く包み込む。

 直後――


「っ、……ぃたっ! 痛いっ……!!」


 わたしは、ソコをひんやりと冷たい金属のようなものでこじ開けられていた。

 これまで感じた事のない、突き刺すような痛みにグッと奥歯を噛んで何とか耐えようとする。けれど、それだけでは足りずに空いている方の手でシーツを固く握りしめ、どうにかやり過ごそうとした。あまりの苦痛に呼吸をすることさえままならない。

 本能的にそれから逃れようと、半ば無意識に両足を閉じようとするが、看護婦たちに力ずくで抑え付けられてしまう。

 どうして、こんな無情な事をされなければならないのだろうか。

 母や医師に問い質したいのに痛みで何も考えることが出来ない。


「はぁ、はぁ、はぁ、やだ……お母様、痛いよ……っ……」


 縋るような瞳を母へと向けた。

 そして、ぽろぽろと大粒の涙が流れ落ちていく。


「ローザリカ……」


 母は、温かく包み込んでいる手に更に力を籠めた。目尻には、薄っすらと光るものが見える。


 もう嫌よ……。

 どうして、わたしばかりこんな酷い目に遭わなければならないの……。


「……んくっ……」


 更なる痛みがソコを襲った。

 ぎゅっと強く目を瞑り、再び奥歯を噛んでそれが過ぎ去るのを待つ。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 あの時と同じ。

 また苦しくなってきた。

 もう 何もかも夢だったらいいのに……。

 明日になったら、「お誕生日おめでとう、リオン!」って言って、あの薔薇をプレゼントして……。

 また、一緒にわたしたちの大切な場所に行って、笑い合って……。

 なのに……


「うぅっ……」


 あの薔薇は、ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまった。


 ごめんね、リオン……


 彼の姿を心に映しながら、再び意識を手放した――――





 その時のわたしには、あの無情な行為の意味が理解出来なかった。

 けれど、成長するにしたがって気付いたのよ。

 わたしは、「王女としての価値」があるかどうかを調べられていたの……。





 ――――次に目を覚ました時には、既に外は薄っすらと明るくなっていた。チュンチュンという小鳥たちの鳴き声が、いつもの日常である事を感じさせる。

 でも、それは確実に変わっていた。



「……お母様?」


 寝所の右側には、背もたれと座面がふんわりとしているだけの簡素な木造の椅子で、こくりこくりと転寝(うたたね)している母がいた。


「んっ……」


 わたしの声に気付いたのだろう。

 お母様はゆっくりと瞳を開けながら顔を上げ、わたしと視線を合わせた。

 

「あっローザリカ!! 大丈夫?痛いところはない……?」

「はい、多分……」


 昨日よりかは、大分体の痛みや不快感は治まっていた。とは言え、下半身に感じる違和感は拭えないでいた。

 けれど「これならば……」と思い、上半身を起こしてみる。

 ところが――


「っ……痛っ……!!」


 背中に激痛が走った。


「ローザリカ!!」

「っ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 お母様が背中を擦りながら、心配そうにわたしを見ている。

 あまりの痛みで一瞬呼吸が出来なくなり、必死に肺が酸素を取り込もうとする。

 どうやら、昨日倒れた時に激しく打ち付けてしまったらしい。急に起き上がろうとしたため、不意打ちを食らってしまった。


「ローザリカ……」


 母は震えた声でわたしの名を呟き、ぎゅっと強く抱きしめた。


「ごめんなさいね、ローザリカ……。わたしが、あなたの事もちゃんとよく見ていれば……」

「お母様……」


 確かにお母様は、よくリーリエの世話を焼いているわ。

 けど、リーリエにはお母様がいないから仕方のない事なのよ……。


 それに昨日は、母が彼女と編み物に夢中になっているのをいい事に無断で抜け出してしまった。いくら城内とはいえ、その敷地は広大だ。

 外出する時は、父や母、侍女たちの(いず)れかに一言告げる事になっていた。


「いいえ、わたしが無断で出て行ってしまったのが悪いんです。ごめんなさい、お母様……」


 しゅんと、項垂れてしまう。


「あなたが謝る事は無いのよ。気にしないでちょうだい。今は、ゆっくりと休む事だけを考えて……」

「はい、わかりました……」


 母は眉間に微かな皺を作り、気遣わしげな瞳を向けていた。



 ――コンコン


 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「……入るぞ」


 キィと木造のドア特有の音をさせながら、父が部屋に入ってきた。

 母と同様に沈痛な面持ちをさせながら、こちらへ歩み寄って来る。


「大丈夫か? ローザリカ」


 お父様は床に膝をつき、わたしの目線に合わせて苦しそうな眼差しを向ける。


「はい。心配を掛けてしまってごめんなさい、お父様……」

「大丈夫だ。お前は何も気にする事は無い」


 そう言って、優しい手つきで頭を撫でてくれた。

 断りなく離宮(うち)を出て行ってしまい、皆に迷惑を掛けてしまった事を怒っている訳ではなさそうだったので、内心ホッと安堵していた。

 昨日は、思い出したくもないような出来事に立て続けに遭ってしまった。その上、やっと安心できたと思っていたのにあんなところを見られて、痛い思いをさせられて……。


 怖かった……本当に……。


「……っ……」


 思い起こしたら、再び恐怖が体を襲った。


「ひっ、うわあああぁぁぁんっっ!!」


 父や母が傍にいてくれたからという理由(こと)もあったのだろう。

 気が抜けてしまったわたしは、ひどく大泣きしてしまった。それは、自分自身でさえも抑制(コントロール)する事は出来なかった。


「ローザリカ……」


 お母様は、一層強くぎゅっと抱きしめてくれた。

 お父様も疲れを感じさせるような顔付きをしていながらも、温かく大きな手でそっと頬を撫でてくれる。

 とても、とても……安心した。


「うっ……ひっく……」



 お父様とお母様は、不安な気持ちを全て包み込むように、ずっと傍で見守っていてくれた――





 ――「……ん? あら……?」


 わたしは再び泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。自身の体は柔らかい布団に包まれていて、目尻には未だ渇ききっていない痕跡が僅かに残っている。

 窓の外からは、既に明るい陽が射し込んでいた。


「あっ……!!」


 そこで、ふと気付く。


 今日はリオンの誕生日だわ。けど、あの薔薇はもう……――




「……あら? 起きたのね?」


 いつの間にか、お母様が入り口のドアから顔を覗かせていた。その手には陶器の上品なトレイを持っていて、幾つかの食器が乗せられていた。

 母の表情には微かに笑みが戻っており、わたしも心なしか安堵する。


「少しは何か食べないと体に悪いわよ。あなたの好きなローズティーも用意したわ」

「はい、ありがとうございます」


 母は、桃色のクロスが敷かれたお気に入りの丸テーブルへと、それを置いた。

 そして、わたしを支えながら上体を起こしてくれる。

 ゆっくりと起き上がったためだろう。一度目のように激痛が襲うような事は無かった。

 

 そこには、苺のジャムが塗られたトーストや馬鈴薯(じゃがいも)のスープ、また、レタスや薄切りにされた玉ねぎ、トマト、パプリカといった彩りも豊かなサラダが用意されていた。

 母が気を遣ってくれたのだろう。いつもの朝食よりかは大分質素(シンプル)だったが、今はそちらの方が有り難かった。

 わたしの好きなローズティーもあって、何となしに心が安らいだ気がする。

 昨日から何も口にしていなかった私は、まず喉を潤したくティーカップへと手を伸ばした。そして、こくりと一度流し込む。


 美味しい。それに、とっても落ち着くわ……。


 リオンから「ローズ」と名付けてもらって、ローズティーが好きになった。それを口に含むたび、薔薇(ローズ)が体中を包んでくれているような感覚になって満ち足りた気持ちになる。


 リオン……。


 わたしは、先程から気掛かりであった事を母にお願いしてみようと思った。


「……あの、お母様?」

「え……?」


 突然、話し掛けられたためだろう。母は一瞬目を丸くした。


「少しだけでもいいのです。リオンに会う事は出来ませんか?」


 こんな騒ぎを起こしてしまったため、母の顔色を窺いながら俯き加減で尋ねてみる。

 すると意外にも、お母様は「ああ……!」と微笑みながら合点がいったという顔をした。


「そうね。今日はリオンのお誕生日ですものね。陛下に伝えておきましょう」

「はい、お願いします!」


 良かった……。


 ホッと胸をなで下ろした。




 だから、その時のわたしは、その後に起こる悲劇を知る由など無かった。


 彼を拒絶してしまう事になるなんて……。

 彼を傷付けてしまう事になるなんて……。

 


 

 リオン……わたしは、あなたの大切な日に一言、「お誕生日おめでとう」って言いたかったの……。

 ただ、それだけだったの……――――








 


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