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*30*リオンのregret Ⅳ

リオン視点→ラストだけローザリカ視点です

 ――――さらりと、目の前に横たわる彼女の髪を梳く。

 艶のあるそれは、すぐに自分の手を離れてしまう。


 オレが、こんな眼鏡なんか欲しがらなければよかったんだ。

 何度、これを滅茶苦茶に壊してやろうと思ったかわからない……。


「……くっ……」


 ひどい痛みが胸を刺し、ぐっと右手で胸を鷲掴みする。

  

 けど、出来なかった……。

 父上にプレゼントしてもらった大事な眼鏡。


 そして、彼女の頬にそっと触れる。


 おまえが目を覚ましたら、オレはおまえに触れることが出来なくなる……。

 けど……オレにはそんな資格すらないのかもしれない。


 頬に添えてある手をそっと離し、じっ……と見下ろした。



 年頃になったオレたちは、当然、将来の伴侶―婚約者―を決めなければならなかった。けどオレは、それを諸々の理由を付けて撥ね付けていた。

 だが、ローズはそうはいかない。

 いくつかの候補者の中から人柄、家柄などを見定めて、これまで3人の候補者を選定した。

 けど――


 ぐっと、右手を強く握り力を込める。



 それをオレは……握り潰した――――







 ――――1人目は侯爵家の長男、デニスだった。

 既にローズとは数回顔を合わせていて、婚約者候補から正式な婚約者となる事が決定する寸前だった。



「くそっ!! どうすればいい……?」


 その時オレは、私室のソファで考えを巡らせていた。

 ぐしゃっと頭を抱えて、刻一刻と迫る制限時間(タイムリミット)への焦燥感で苛立ちさえ感じていた。


「どうすれば……」


 アイツを守れる? どうすればいい??

 考えろ…………考えろ……! ……考えろ!!



「……あ……」



 そして、オレは気付いたのだ。

 自分の右手を見下ろして……。


「そうだ、オレは既に”持ってる”」





 クライドにも手伝わせ、デニスの身辺を徹底的に調査した。

 そして、あるものを発見した。


「これは……」


 不審な金の流れ。

 申告されていた税収額よりも、大幅な額を農民たちから徴収していたのだ。それを様々な裏道(ルート)を経て隠し持っていたため、今まで見落とされてしまっていた。

 それが明るみになった侯爵家は、罪に問われた。当然、ローズの婚約者候補からは外されることになる。

 だが、こちらから告発するのではなく、オレは情けのつもりでデニスの口から罪を白状させた。そのおかげで、爵位は剥奪されずに済んだ。



 2人目はマスルール宰相の次男、フレデリクだった。

 当然、諸々の信用は保証されている。その上、清廉潔白で誠実な男……。

 その非の打ち所がない男の存在はオレを苛立たせ、諦めさえ考えさせた。

 だが、その取り柄が仇となったのだ――


 


――「あの男……。ふざけるな!!」


 数人の侍女を伴い、庭園でフレデリクとローズが肩を並べ歩いていた。その男は、ずっとローズへとじろじろとした視線を向けていて、オレは直ぐにでも引き剥がしてやりたいような気持ちになっていた。

 そんな時、突然フレデリクがローズに抱きついたのだ。それは、女の扱いを知らない稚拙な男の所業だった。

 オレは、直ぐさま執務室から、その場へと走った。


「あっ! ちょっと……リオン様!?」


 後ろでクライドの声がしたが、そんな事よりローズが心配だった。




「ローザリカ!!」


 ローズは、側の繁みにうずくまり、涙を流しながら震えていた。一人の侍女が寄り添いながら、顔を覗き込んでいる。

 フレデリクは、その光景を呆然と見ていた。

 オレは、そいつを睨みつけながら、すれ違いざまに一言呟いた。


「消えろ」


 フレデリクは目を大きく見開き、顔面蒼白で「あ……は、はい……」と、力のない声を出して去って行った。



「ローザリカ……」


 オレは、ローズへと歩み寄ろうとした。

 だが――



「来ないで!!」



 ぴたりと、動きを止めた。


「え……?」

「お願い……。来ないで……」

「……くっ……」


 聞き間違いではない。オレは、「来ないで」と言われたんだ。

 信じたくない気持ちと、これが現実なんだという気持ちとが入り混じって、空っぽな心によりいっそうの割れ目が入った気がした。


「そうか……」


 オレは踵を返し、その場を後にした。


 わかってる、わかっているさ……。

 これがオレでなくても、ローズは拒絶していただろう。

 けど……


 立ち止まり、ちらりとローズ(うしろ)を覗き見る。


 傍にいたいのに傍に行けない。こんな寂しさをいつまで抱えていけばいいのだろう……。



 後日、宰相からは、ローズの婚約者候補を辞退する旨を伝えられた。

 まさか宰相も、息子がそんな無粋な行動を取るとは思わなかったのだろう。ローズの事情を話していなかった事を丁重に謝罪された。




 そして3人目が、一番問題だった。



 オレは、もうすぐ20になる。父上からも、婚約者くらいは決めておけと勧められた。だが、オレはローズ以外興味はない。

 気は乗らなかったが、仕方なく周りの薦める候補者と会った。


 それが、エインズワース侯爵家の令嬢、マリアンヌだった。


 きつく巻いた縦ロールの金髪と、大きく開いた胸元。それをいっそう強調させるように、腰はコルセットで強く固定されている。

 頬を染めて、なめるような視線でオレを見ていた。


「わたくし、とても嬉しいですわ。殿下の候補者に選ばれて」

「……」


 整った容貌はしていたが、まとわりついてくるような声色でそう言われ、オレは嫌悪しか感じなかった。どうやって、この話を無かったことにさせようか……。

 そんな事しか考えていなかった。


 だが、具体的な妙案があるわけではなく、オレの意思など関係なしに話が纏まり始めていた。


 

 そんな時に再び、ローズの婚約者候補が現れたのだ。


 その男は、オレたち王族の血を引くヨーク公爵家の三男、エドワードだった。とは言え、再従兄弟(またいとこ)という遠い関係だ。

 エドワードもまた、オレたちと同じ金髪碧眼をもった端正な顔立ちの男だ。

 ローズと親しくなろうと躍起になっていたが、それになかなか応じてくれないローズの態度に不満を持っていたようだ。


 オレは、この二人を密かに引き合わせた。

 すると、案の定すぐにお互いの事を気に入ったようだった。


 結局、オレたちの見てくれにしか興味がなかったのだろう。

 三男という手軽さも相まって、すぐに二人は婚約してしまった。


 いや、「してしまった」という表現は似つかわしくないだろう。

 オレは、それを望んでいたのだから……――――







――――「ふぅ……」と、一度呼吸を整える。

 そして、ローザリカの左手を自身の両手で、ぎゅっと強く握る。彼女は、規則的な呼吸を繰り返している。


 なあ、ローズ。

 オレは、卑劣な男だろう?

 王太子の「立場」が欲しくないと思っておきながら、オレはその「権力(ちから)」を使って、おまえを傍に留めておこうとしたんだ。

 そんな事でしか、大切な女一人でさえ手に入れられない弱くて汚い男……。

 それがオレだ。


「くっ……」


 「どうすればおまえを守れるか」だなんて、体のいい言い訳さ。

 結局は自分の私欲(エゴ)だ。

 おまえは、一度も婚約者候補たちを拒否した事はなかった。

 クリスティアン(あいつ)との婚姻だって、おまえが決めた事なんだろう?

 だったらオレがしている事は、ただの我が儘でしかないんだ。


 眉間に手を掛け、カチャリとチェストへと眼鏡を置く。


 もうすぐ20になるっていうのに、未だに父上からは認めてもらえない……。

 ローズ、オレは……


 体を屈めて、包み込んでいる温かい手を額に添える。


 父上に認めてもらえたら……

 アルダンの民を守っていける国王(おとこ)になれたら……



「おまえに……求婚(プロポーズ)しようと思ってた……!!」



 再び、ぎゅっと強く手を包む。


 拒絶されてもいい、オレの事が嫌いでもいい。

 オレが、ずっと支えてやるつもりだった。

 けど、こんな弱い男が、父上に認められるわけもないんだ……。

 

 

 ローズとの記憶(おもいで)が、胸を過ぎっていく。


 この世に生を受け、気が付いた時には、いつも傍にはローズがいた。辛い時、寂しい時……おまえがいたから乗り越えられた。ローズの笑顔が、オレに勇気をくれた。

 なのにおまえは、この国から……オレの傍からいなくなる……。


 オレは、どうしたらいい……?


 もう、何も考えたくない。

 ゆっくりと立ち上がり、そっと床に膝を付いてローズの顔をじっと見つめた。


 ずっと、見ていたい。

 このまま二人きりで生きていけたら、どんなに幸せだろうか……?


 今まで何度となく、そんな事を思った。


 朝目覚めたら、隣にローズがいて、「おはよう、リオン」って微笑んでくれて……。それから、ぎゅって抱きしめてくれて……。


 でも、結局は絵空事に過ぎない。


 もしも、その瞳を開いて目の前にオレがいたら、おまえはどんな反応をするのだろうか?

 また、拒絶されてしまう……?

 それとも……


「……ふっ……馬鹿だな、オレは……」


 そんな事を考えた直後には、己への自嘲を込めた笑みが浮かんでしまう。

 リーリエや父上、叔父上、叔母上……。護衛騎士や多くの兵士、侍女たち。そして、守るべき幾多の民たち……。

 大事な「彼ら」という存在が無ければ、オレは生きてはこられなかった。 


 けど、こんな愚かな事にさえ思い及んでしまう程、オレにはローズが必要だった。


 オレにとって、おまえは「生きる糧」そのもの。

 そこに居るだけで、オレを支えてくれる……立っていられる……。

 

 だから、どんな孤独(くるしみ)も耐え忍んできた。

 ローズの傍にいる希望(みらい)だけを求めてた。



 それが、それだけが……オレのたった一つの「(のぞみ)」だったのだから……!!



「……っ……」


 でも、その唯一の願いさえも、オレには手が届かなかった。


 おまえは「オチェアーノの第三皇子妃」として、アルダンを守っていく。

 オレは「アルダンの国王」として、アルダンを守っていく。

 そういう「立場」で生きていくしかないんだろう……?




「ずっと、傍にいたかった……」――――













――――「……ん……」


 ゆっくりと瞳を開ける。


「……あら? どこかしら、ここ?」


 キョロキョロと辺りを見回す。


「あっ……!」


 わたし、また倒れてしまったんだわ……。

 また、誰かに運んでもらったのかしら?


「ん……? 何かしら、これ?」


 自身の頬に違和感を感じる。

 そっと手を添えて、その感触を確かめる。


 ……水……?

 いいえ、もっと温かいもの……。



 ……涙……?




  「…………リオン?」










第27章の後書きで、リオンのテーマソングを見つけてしまった!とお伝えしましたが、考えてみたりされましたか?いや、そんな暇じゃない?そうですよね(笑)

それに私自身も、あんな陳腐なヒントでわかるわけないよなぁと思いますし。

では、知りたくないかもしれませんが答えをお教えします!!

それは、My Little Loverの「Hello, Again ~昔からある場所~」です!!なんと「海」という言葉まで入っているのには驚きました!全く意識していなかったんですよ。

この歌詞を見て、「あ!リオンだ!」と共感して頂けたあなたは、立派なリオン通です!!下にURLを貼っておくので、よかったら見てみて下さい。

http://www.uta-net.com/song/8616/

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