*29*リオンのregret Ⅲ
場面がコロコロ変わります。
※注意!
直接的ではありませんが、処刑や拷問を想像させる残酷表現があります。15歳未満の方、そういうものに不快感を持たれる方は、ご注意くださいませ。
それからオレは、空っぽな気持ちを抱えながら生きてきた。
いつしかローズや叔父上、叔母上にも「殿下」と呼ばれるようになり、他人行儀になっていく。
ローズとは、当然家族として共にいる。
けど、それは表面的なものだけだ。
オレたちは、”心”が離れてしまったんだ――――
――――あれは、ローズから”拒絶”された日から3年後の事だった。
「どういうことなのですか、父上!? これ以上、まだ護衛を増やすというのですか!?」
父上の執務室で、オレは激昂していた。
3年前、何故か父上が城の兵士を倍に増やしたのだ。その上、移動する度にどこまでも付いてくるものだから、オレはひどく窮屈さを感じていた。
「ああ。これからは、専属の護衛を付ける事にする」
「専属……?」
訳が分からない。
兵士自体が多すぎるくらいだというのに、専属の護衛まで付けられるというのか?
「何故そんな事をする必要があるのです!?」
「……」
けれど父上は何か考えを巡らせているようにして、腕組みしたまま無言だった。
「答えて下さい、父上!!」
「……。そうだな」
そう言って、「ふぅ……」と一度息を吐いた父は、こちらを真剣な眼差しで直視した。
「……そろそろ、お前にも話しておいた方がいいだろう」
「え……?」
それからオレは聞いたんだ。
リーリエが、城の兵士に襲われる寸前であったことを……。
そして、3年前の悲劇を……――――
「なっ……何、だって……?」
呆然として、目の前が真っ暗になりそうだった。
体に力が入らず、少しの衝撃でも倒れてしまいそうなくらいに……。
リーリエを襲おうとした兵士は、母上に心酔していた男だった。
もともと気が触れていたのだろう。成長し、どんどん母に似ていくリーリエを道づれにして自害しようとしていたのだ。
それを護衛していた兵士が、負傷しながらも寸でのところで助けたという事だった。
幸いにも妹は無傷だった。
只、当然その騒ぎにも驚いたのだが、もう一つ……。
「ローズ……」
ローズが、既に3年前に襲われていた……?
あの、薔薇園で……?
ぐっと、爪がめり込むほど強く右手を握りしめた。
けど、痛みなど感じない。
なんだ、それは……。
胸の中で、どろどろとした黒いモノが渦を巻いていく。
どんな男なんだ……。
それはやがて己の心を支配していき、行き場のない怒りに変わる。
殺してやりたい……!!
ぎりりと、強く奥歯を噛んだ。
けど、その兵士は既に処刑されてしまっている。
「父上……。リーリエを襲った兵士は、これから処刑されるのですか?」
「ああ」
「……では、”私”も行っていいですか?」
――「わあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
目の前で兵士が、もがき苦しんでいる。
もっと……苦しめばいい……。
「……ふ……」
お前は、どんな叫び声をあげて死んだんだ……?
ローズの痛み、苦しみをその身で感じればいい。
あの、優しいローズの笑顔を返せ……。
あの温かい心を返せ……!!
ぎりりと、再び奥歯を噛んだ――
「リーリエ!!!」
「おにいさま……??」
その後オレは、リーリエを見つけると直ぐ様この腕に強く抱きしめた。ぐっと頬と頬を合わせ、その体温を感じる。
「良かった……。リーリエ……」
「おにいさま??」
きょとんと、目を丸くしている妹を見て安心した。
「……ふっ……」
そして、再びぎゅっと強く抱きしめる。
この腕の中の大切な存在を感じながら……。
――そしてオレは、庭園の見渡せる執務室を用意してもらった。
ここなら、アイツらが良く見える。
リーリエとローズが、東屋で仲良くお茶を楽しんでいる。美しい花々は、まるでオレの心を逆なでさせるかのように咲き誇っていた。
そして、窓辺にガンっ!と手を掛ける。
オレが、アイツらを守らなきゃ……!!
そうしてオレは、今日もリーリエを抱きしめるんだ。
「可愛いリーリエ。ずっと兄の傍にいておくれ」
家族を、大切な存在を、この腕に感じて……。
大事なリーリエ。
ずっと傍にいてくれよ……。




